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しおりを挟む暮刃、瑠衣、氷怜の3人でベンチに座っていた。その視線の先にははしゃぐ3人の姿がある。
一通りの乗り物にトライしながら移動していると、ワンダラのキャラに扮した犬達のいるその広場に到着した。そこでは好きに触っても許されるのだ。本物のわんこは桁違いに可愛いのか唯も秋も優も夢中になって遊んでいた。
唯が地面に膝をつけて小型犬の前に掌を出した。
「……お手!」
てしっと可愛い肉球が唯の手に乗っかるとなんと言えない悲鳴をあげた。まさしくメロメロの唯の姿に笑いながらも秋もほっぺを舐められては目がハートになる。
「お前可愛いなぁ……」
秋が抱きしめたドーベルマンにダルメシアンといかつめなスタイルの犬もしっぽをフリフリされればみんな愛くるしくて堪らないのか顔を埋める。
その横で優がダックスフンドを見つけて抱き上げて見せてきた。
「本物いた」
秋が写真を撮ってあげれば嬉しそうに優が笑う。だがその視線が秋より後ろに向くと優の眉間にシワがよった。
「どした?」
「いや、凄いことになってる……」
優の視線の先にはベンチで見守っていた三人が足元に犬をはべらせていた。なぜだか何もしていないのに犬が懐いている。見えない力が働いているとしか思えない。
「何もんなんだよマジで……」
「フェロモンじゃない?」
「あー、出てそう……」
それにも気づかず、犬に夢中な唯が隣でバキューン!と指で銃を打つふりをした。すると子犬がこてんと倒れ、唯が可愛いいいぃと地面を叩く。どちらが犬かわからないほどの喜びようだ。
その光景に瑠衣が笑った。
「戯れてるねぇワンコが」
「瑠衣、それどれに言ってる?」
「んー全部」
「……たしかに」
いつもふざける瑠衣に今回ばかりは2人も同意した。暮刃が足元の大型犬を撫でると気持ちよさそうに目を閉じると、黒の毛並みと動きが優に重なり思わず暮刃が吹き出した。
瑠衣が突然気になったのか、からかうように質問しだす。ニヤニヤと笑いながら足を組み直した。
「2人は今日どこまでいくのー?」
「……ちゃんと帰す」
「あれそうなの?氷怜はてっきり……」
「そんな心構えで来てると思うか、あれが」
氷怜が目で追った時にはもう芝生の上で一緒に転がり、唯はそのお腹に小型犬を乗せてご満悦だ。芝生まみれだが気にもしていない。
「うーん……無邪気だよねぇ」
「あーんなに女の子にジェントル出来んのに、オトコに警戒心ゼロだもんね唯ちん……ていうか!ひーが据え膳逃すなんて初めてじゃないのー?」
けらけら笑いだす瑠衣に氷怜は眉を寄せた。思えばこれほど、時間をかけて詰めている人間がこれまでいただろうか。相手はいつも氷怜の手のひらの上だったのに、唯に至ってはその予測が出来ない。
「だから、お前らも同じだろ……こんなとこまでついてくるなんて天変地異の前触れだな」
「俺はそろそろ腹括ってるから」
「最初からほとんどそうじゃねぇかよ……どうせ少しは手ェ出してんだろ」
「……さあ?」
氷怜には暮刃の揺れ動きなど、わかりやすいものだった。選り好みの激しい暮刃がこうも心酔しているのは初めてで、呆れるほど劇的にその態度が変わったと氷怜は感じている。
問題は末っ子だ。
「瑠衣、ただ遊んでんなら辞めろ」
氷怜がぴしゃりと言い放つ。唯と同様に、氷怜は秋も優可愛がっている。
それでも瑠衣の目は秋を見ていた。ポツリポツリと話されるその言葉を茶化したりしない。
「……オレさぁ、人にあんまし執着無いんだけど」
「うん」
瑠衣の真面目な口調に暮刃は単調に相槌を打つ。
少し間が空いてその口が開いたが閉じる。
秋を見つめたまま動かなかった視線が暮刃と氷怜に移るとモデルらしい綺麗な笑顔で微笑みこう言った。
「多分、あれが欲しい」
「……そうかよ」
だから、もうちょっと待ってと、いつもの悪戯な笑顔に切り替わったのでその頭を氷怜は乱暴に撫でその頭をぐいっと下に押す。
「成長したじゃねぇか」
下を向いた口が少し笑ったのに氷怜は気付いた。それでも勢いよくあげられた顔はいつものおちゃらけモードだ。
「オレ言っとくけど~2人より意外と大人だし!あの子らには隠せてても嫉妬の黒ーいオーラたまに出てますケド?」
「瑠衣に言われるようになったら終わりだなあおい」
「……ねぇ、俺ら嫉妬させるなんてさ」
暮刃が面白そうに笑った。
「どれだけ美味しそうなんだろうねあの子達」
獣の会話を唯斗達は知らない。
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