sweet!!

仔犬

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date!!!

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「じゃあ、行こうか?」

「はい……」


唯たちが入っていくのを見守ると秋たちみたいに悲鳴は聞こえなかった。多分、あれは瑠衣先輩が脅かしたんだろう。可哀想に。

暮刃先輩が確認するように俺を覗いた。おそらく、本当に行くけどいいの?だ。

「大丈夫ですから」

「そう?」


暮刃先輩がドアに手をかけ、その暗闇が開かれる。
暮刃先輩に寄り添って一歩を踏み入れた。
まず最初は全く見えない。勝手にしまったドアに思わずビクついてしまった。

「腕掴もっか」

服が擦れる音がして俺の手が暮刃先輩の腕にかけられた。

「ありがとうございます……」

「どういたしまして」


導かれるように歩けば、おそらくロドリゲス先生が倒れていた。暗いけど、ぼやっとは見える。人が倒れていることよりも暗闇が怖い。

「ああこれか、ドッグフード食べさせてだって」


いつのまにかドッグフードがこんもり入ったお皿を持っている暮刃先輩がにっこり笑う。
俺の緊張を悟ったのか倒れたロドリゲス先生の横で話し始めた。


「優夜は何が1番怖いの?」

「暗いのと、ゾンビ系のメイクです」

「え、これなんかまさしくじゃないか。やめたらよかったのに」

ごもっともなのだが、犬好きとしては最後まで行きたいのだ。

「だって犬の名演技みたいから……」

「君たち本当に犬好きだね」


苦笑気味の暮刃先輩になぜか癒される。この絶望的な環境で暮刃先輩だけが品がいいからだろうか。

ロドリゲス先生が動けずに可哀想になってきたので勇気を出して歩き始めた。しっかりと暮刃先輩の腕を掴めばなんとかなりそうな気がする。
何度か角を曲がって大きな音にビクつきながらも少しずつ進んでいく。条件反射だから隠しようもない。


「可愛いね優夜」

「それちょっとバカにしてませんか」

「うーん、可愛いのは本当だよ」


その答えだとつまり半分はからかいたいと言う事らしい。暮刃先輩らしくて思わず笑ってしまった。


「暮刃先輩前より遠慮が無くなりました」

「……いや?」

「今がいいです」


俺の答えに満足したのか頭が撫でられる。気持ちよくて目を閉じると暮刃先輩の手が止まった。

「あ」

その声に思わず目を開けると、とんでもない顔をしたわんこがこちらをにらんでいる。ああ、これはダメだ。遅いけどもう一度目を閉じた。俺たちめがけて走る音がする。


「走るよ」

ぐいっと引っ張られて全てを任せて走る事にした。

右に曲がったり左に曲がったり見えない中でも暮刃先輩がものに当たらないようにしてくれている。足元だけ見ていると、顔を上げてと言われた。


「ほら優夜、フローラル」

「え」

フローラルは意外と、メイクで少し痩せた犬を表現しているくらいで怖い子ではなかった。威嚇しながらも噛まないように懸命に近づくなと訴える。


「これだね」


暮刃先輩がそっとドッグフードをおくとゆっくり食べ始めた。


「あ、寝た。可愛い……」


確かに名演技だ。安らかに、というものが本当によく表現できている。

そのシーンに合わせて感動的な音楽も流れ、出口までの道のりは多少暗いだけでもう殆ど怖さはなかった。

「偉いなぁわんこ……」

「よく出来てたね、みんな」

暮刃先輩も満足してくれたのか小さく笑った。そもそも、引っ張って貰わなければ見れていなかった。


「見れてよかったです。暮刃先輩、ありがとうございました」

ニッと笑えば、暮刃先輩が少し屈んだ。
その端正な顔の口の端が上がる。
この笑顔どこかで見た気がした。ああ、後夜祭の時だ。
久しぶりに見た賢い獣の顔。


「……じゃあ、ご褒美もらおうかな」

「え」


ふわっといい香りがしたと思えば、唇が重なった。


「どういたしまして」


耳元でそう言って何事も無かったかのように、出口のドアを開けてエスコートしてくれる。


今度は耳もあつい。
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