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date!!
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しおりを挟む「これ持ってくわ」
静かに立ち上がった氷怜先輩が唯のスマホを掴んだ。唯こんな時に限ってなんでスマホ忘れんだろ本当に。
ワンダラの園の形は円形になっているので両側から二手に分かれて虱潰しに回って探すことになった。
「すみませんいつも……」
「誰のせいでもねぇよ。だいたい探し回れるほど回復してんのか秋裕」
こんな時まで俺の心配してくれる氷怜先輩まじでカッコいいと思う。唯、あんまり心配かけちゃダメだぞ。俺の後ろから誰かが覆いかぶさると目の前がピースサインでいっぱいになる。
「秋わんこには飼い主付いてますから~」
反対周りはいつのまにかペットになった俺と飼い主の瑠衣先輩ということになったのだ。
「ああ、任せた。優夜、暮刃置いていくから待っとけ。戻ってくるかもしれねぇし」
「俺1人でも……」
「唯君のこともあるし一応ね」
暮刃先輩が宥めると、微妙な顔をしながらもはいと頷いた。多分優も行きたいんだろうけど、入れ違いは避けたいしな。
「さてと、愛犬捜索隊行きますかー!」
「おーー!」
瑠衣先輩と拳を上げれば、頼んだと言って氷怜先輩が走り出した。優達に手を振って俺たちも逆に走り出す。どこもかしこも人の山だが、チェックのコートは意外と判別しやすいしけど数分走っても見つからない。
目のいい瑠衣先輩も遠くを見つめながら居ないねぇと呟いた。
「……なんかこれからもこんな事が多くなりそうで申し訳なくなってきたぁぁ」
「あはは!探しながら落ち込む?普通」
一定の軽快なリズムで走りながらもで瑠衣先輩が笑い出す、それでもちゃんと周りを見てくれていてありがたい。
氷怜先輩も俺たちを自由にさせてくれるし、あの人はどこまでも周りを見ている。お兄ちゃんのような安心感は暮刃先輩も同じだ。でも意外にも一緒に走る瑠衣先輩にも兄を感じる事がある。自分に兄はいないが、いたらこんな感じだろうか。
その横顔を見てよく思うことは彼は有言実行型で、フリーダムには変わりはないが恐らくわざとふざけている面もある。
同じ様に唯も天然が入っているとはいえ大事なところでは空気読むし他人への気遣いも優しさも安心する。それに女の子との距離の取り方なんてプロそのものだ。
どこか2人は似ていて、だからか唯と同じくらいの距離に感じてしまう。
少し前まで遠いテレビの向こう側くらいの人だったのに、すごく不思議な感覚なのだ。
その綺麗な顔を数秒見つめてしまったせいか珍しく瑠衣先輩が一定した口調で俺を咎めた。
「オレの顔見てないで探しなよ」
ハッとしてすぐに首をグルンと動かして辺りを見渡す。怒ってはないがあまり見ない真顔だった。思わず謝るといつものいたずらな笑みに変わる。
「まだ復活してないんじゃないのー。わんこにジェットコースターはダメだったかー」
「……今みんな犬なんすけどねぇ」
頭のブルドッグが邪魔に感じたのか首に下ろしながら瑠衣先輩がんー、と喉をなら鳴らして首を傾げた。
「オレらは犬は犬でも狼だから」
いつものおちゃらけた口調だが、いたって真面目な顔ででそう言うので初めて俺は何も言えなくなる。こんな顔もするのか。
そうやって、ああこの人も男だなと改めて実感する。
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