sweet!!

仔犬

文字の大きさ
上 下
79 / 379
date!

3

しおりを挟む

「え、デートですか?」

「うん!」


ついに前日になったその日の夜、おれは桃花と電話していた。後夜祭であれほど頼もしい桃花だが定期的に不安になる時があるらしい。学校違うしいつもクラブにいるわけじゃないのでこうしてカウンセラーがわりに電話している。


「それは楽しみですね」

「そうなんだよ~、初めて出かけるんだよ」

「あれで初めて……」

「え?」

「いいえ何も」


よく聞き取れなかった。

日課のストレッチをしながら、秋と優に無理やり押し付けたパック2人はしてるだろうかと思い出す。自分のもちろんあるのでパックしながらスピーカー通話で一石二鳥よ。

「また優夜さんが服を?」

「そう!めっちゃいい感じ!」

「……あまり絡まれないように」


なぜか桃花はいつもおれが絡まれることを心配しているが、そもそも前の拳銃トリオくらいしか思い当たる節がない。

「目立ちますから、唯斗さん達」

「桃花の綺麗な顔の方が目立つけど」

「……俺の事は良いんですよ」

なぜか呆れ気味の桃花はでも、と声色を変えた。


「楽しんでください」

「うん、ありがとうね桃花」

素直に嬉しくてへにゃっとした顔になる。パックがずれてしまいいそいそと直していると、遠慮がちな声がかかった。

「……あの、俺も今度唯斗さんの料理食べたいです」

「え、いいよ?」

なんか式も桃花も遠慮しすぎじゃないか?
式はもしかしたら先輩もいたから遠慮したのかもしれないけど、おれの手料理なんてファミレスくらいの感覚でいいのに。OKの返事に桃花は嬉しそうにありがとうございますと言ったので要望を聞いてみた。


「何か好きなのある?」

「わ、リクエストしていいんですか?」

「いいよん~」


スピーカー越しの声が嬉しそうに跳ねた。桃花まじで可愛いんだけど、これみんなわかって欲しい。
犬、これは犬。
桃花はえーと、と少し考えるとこう言った。




「……卵焼き」




ズドッ

ベットの端に座っていたおれは見事にずり落ちた。隣の部屋の母さんがうるさいと怒っている。椎菜しいなごめんって。


「え、唯斗さん?大丈夫ですか?」

「ううん大丈夫だよ。卵焼きね!……たまごやきって、ふふふ」

「た、卵焼きダメでしたか」


笑い始めたおれに桃花が焦った声を出す。卵焼きを作って欲しいなんて言われたの始めてだ。


「ううん、ぶふっ。良いんだけどさ……チョイスがさ、あはは!」

「そんな面白いですか?」


最高すぎて瑠衣先輩くらい笑ったよね。お腹痛いもん。
おれにまで真面目な桃花はいつも敬語で実直だ。そんな彼が言う卵焼きになんか独特の面白さを感じてしまったのだから仕方ない。


「あー笑った。ねぇね、桃花」

「はい?」

だんだん、落ち着いてきたおれはやっぱり言いたかったことを言うことにした。桃花には素でいて欲しい。式みたいにさ。


「卵焼き作るし、もっと他のもたくさん作るから」

「はい」

「次会うときは敬語なしね!」

「え、ちょ」


勝手に電話を終了させて、驚いている桃花を想像してしまう。


もう面白くなってきた。にやにやしながらパックを外して鏡を見る。これはいいかもしれない。少しアルコールの匂いがあるけど、使用感は問題なし。みーちゃんに報告だ。




あれもこれも全部が全部、氷怜先輩に報告したくなってにやけてしまうのだ。はやく明日にになってほしい。

まるでこれの心を見透かしたように、通話の終わったスマホが光り出すと氷怜先輩からメッセージが届いていた。


楽しみだな



短いその文書なのに、愛おしすぎてハートのスタンプを鬼連打した。




しおりを挟む
感想 179

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

変態高校生♂〜俺、親友やめます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
学校中の男子たちから、俺、狙われちゃいます!? ※この小説は『変態村♂〜俺、やられます!〜』の続編です。 いろいろあって、何とか村から脱出できた翔馬。 しかしまだ問題が残っていた。 その問題を解決しようとした結果、学校中の男子たちに身体を狙われてしまう事に。 果たして翔馬は、無事、平穏を取り戻せるのか? また、恋の行方は如何に。

a pair of fate

みか
BL
『運命の番』そんなのおとぎ話の中にしか存在しないと思っていた。 ・オメガバース ・893若頭×高校生 ・特殊設定有

俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか
BL
吉村時生、高校一年生。 ある日、自分の父親と親友の父親のキスシーンを見てしまい、平穏な日常が瓦解する。 「時生くん、君は本当はぼくと勇二さんの子供なんだ」 と、親友の父から衝撃の告白。 なんと、二人は魔法使いでカップルで、魔法で子供(俺)を作ったらしい。 母ちゃん同士もカップルで、親父と母ちゃんは偽装結婚だったとか。 「でさ、魔法で生まれた子供は、絶対に魔法使いになるんだよ」 と、のほほんと言う父親。しかも、魔法の存在を知ったが最後、魔法の修業が義務付けられるらしい。 でも、魔法学園つったって、俺は魔法なんて使えたことないわけで。 同じ境遇の親友のイノリと、時生は「全寮制魔法学園」に転校することとなる。 「まー、俺はぁ。トキちゃんと一緒ならなんでもいいかなぁ」 「そおかあ? お前ってマジ呑気だよなあ」 腹黒美形×強気平凡の幼馴染BLです♡ ※とても素敵な表紙は、小槻みしろさんに頂きました(*^^*)

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

処理中です...