sweet!!

仔犬

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everyday!

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「ずいぶんと馴染んだなぁ」

「みんなが優しいんですよ~」



どんどん力の抜けたおれは体制が低くなって頭がちょうど先輩の顎置きになる。両手がまたお腹に戻ったのでその手を触りながら手相を見てしまった。

「氷怜先輩……やば、覇王線ありますよ!」

「は?」

「これ!」

ホウキのように広がったその線をなぞる。

「これめちゃくちゃ珍しい奴ですよ、成功者とか億万長者になれるって」

「……へぇ、そんなもんまで知ってんのか」

「おれの知識は女性のファッション雑誌にだけ特化してるんですけどね。メイクとかファッションとかダイエットとか美容とか……そうやって見てるうちにどれだけの努力をしていてどれだけ輝いているんだって思ったんです。女性は本当にすごい」

「お前のそれは……」

くぐもって途切れた声に、話していなかった事がたくさんあることに気づく。話すも間も無く試合が来て友達がいっぱいできてたからなぁ。

「優夜に直接聞けって言われたが」

「あれ、そうなんですか?別にすごい話とかではないんですけど……よいしょっと」


顔を見て話したくなって、靴を脱ぎ身体を横に向けた。1人用のソファだが横向きに小さくなればすっぽり収まった。今度は先輩の腕が背中とお腹に回された。


「そういうのを調べ始めたのって母さんのためだったんですよ。そのきっかけは小学生の頃に父さんが死んだ時ですかね」

「……」

腕に力が入った。氷怜先輩は何も言わずに次の言葉を待っている。

「父さん穏やかで優しくておれも大好きでした。1番記憶に残ってるのは父さんも母さんもいつまでたっても恋人みたいに仲良しで、それを見てるのがすごい好きだったんです」


静かに小さく相槌を入れてくれる氷怜先輩が愛おしくて頭を胸に傾けた。心音が聞こえる。


「でも父さん身体が弱くて……それで」


曖昧に笑ったおれのこめかみに口づけが落とされた。甘く、穏やかな感触が硬い気持ちを溶かす。


「……もちろん悲しいことだったし今でも胸は痛くなりますけど、悲しい事を悲しいままにする家でもなかったんで母さんは働きに出たしおれは家事に立候補!」

「ああ、じゃあ料理出来んのか?」

「結構評判ですよ、今度作りますね?」

「楽しみだ」

時間はかかるけど美味しいはず。
頰を撫でられて目を閉じた。

「でも今まで母さん専業主婦だったんで最初は大変だったみたいで……オシャレとかも大好きだったんですけど時間がなくてどんどん遠のいちゃって。そこで思い出したのが父さんがいつも母さんに服とかメイクとかよくプレゼントしてたんですよ。買いに行く時間が無いなら今度はおれが代わりにそれをしたい!って思ってプレゼントし始めて……」

昔は料理も覚束なかったけど、健康や美容に良いものとかおしゃれなカフェに行った気分になれるものとか、そういうの考えたら楽しかったな。

「あとは父さんはまだまだ母さんに綺麗だとか可愛いって伝えたかったはずだから。代わりにおれがたくさん伝えて母さんの息子でもあり彼氏でもあり、みたいになれたら良いなって……」



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