54 / 379
everyday!
9
しおりを挟む「ずいぶんと馴染んだなぁ」
「みんなが優しいんですよ~」
どんどん力の抜けたおれは体制が低くなって頭がちょうど先輩の顎置きになる。両手がまたお腹に戻ったのでその手を触りながら手相を見てしまった。
「氷怜先輩……やば、覇王線ありますよ!」
「は?」
「これ!」
ホウキのように広がったその線をなぞる。
「これめちゃくちゃ珍しい奴ですよ、成功者とか億万長者になれるって」
「……へぇ、そんなもんまで知ってんのか」
「おれの知識は女性のファッション雑誌にだけ特化してるんですけどね。メイクとかファッションとかダイエットとか美容とか……そうやって見てるうちにどれだけの努力をしていてどれだけ輝いているんだって思ったんです。女性は本当にすごい」
「お前のそれは……」
くぐもって途切れた声に、話していなかった事がたくさんあることに気づく。話すも間も無く試合が来て友達がいっぱいできてたからなぁ。
「優夜に直接聞けって言われたが」
「あれ、そうなんですか?別にすごい話とかではないんですけど……よいしょっと」
顔を見て話したくなって、靴を脱ぎ身体を横に向けた。1人用のソファだが横向きに小さくなればすっぽり収まった。今度は先輩の腕が背中とお腹に回された。
「そういうのを調べ始めたのって母さんのためだったんですよ。そのきっかけは小学生の頃に父さんが死んだ時ですかね」
「……」
腕に力が入った。氷怜先輩は何も言わずに次の言葉を待っている。
「父さん穏やかで優しくておれも大好きでした。1番記憶に残ってるのは父さんも母さんもいつまでたっても恋人みたいに仲良しで、それを見てるのがすごい好きだったんです」
静かに小さく相槌を入れてくれる氷怜先輩が愛おしくて頭を胸に傾けた。心音が聞こえる。
「でも父さん身体が弱くて……それで」
曖昧に笑ったおれのこめかみに口づけが落とされた。甘く、穏やかな感触が硬い気持ちを溶かす。
「……もちろん悲しいことだったし今でも胸は痛くなりますけど、悲しい事を悲しいままにする家でもなかったんで母さんは働きに出たしおれは家事に立候補!」
「ああ、じゃあ料理出来んのか?」
「結構評判ですよ、今度作りますね?」
「楽しみだ」
時間はかかるけど美味しいはず。
頰を撫でられて目を閉じた。
「でも今まで母さん専業主婦だったんで最初は大変だったみたいで……オシャレとかも大好きだったんですけど時間がなくてどんどん遠のいちゃって。そこで思い出したのが父さんがいつも母さんに服とかメイクとかよくプレゼントしてたんですよ。買いに行く時間が無いなら今度はおれが代わりにそれをしたい!って思ってプレゼントし始めて……」
昔は料理も覚束なかったけど、健康や美容に良いものとかおしゃれなカフェに行った気分になれるものとか、そういうの考えたら楽しかったな。
「あとは父さんはまだまだ母さんに綺麗だとか可愛いって伝えたかったはずだから。代わりにおれがたくさん伝えて母さんの息子でもあり彼氏でもあり、みたいになれたら良いなって……」
56
お気に入りに追加
1,389
あなたにおすすめの小説
俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。
その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。
その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。
早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。
乃木(18)普通の高校三年生。
波田野(17)早坂の友人。
蓑島(17)早坂の友人。
石井(18)乃木の友人。
眺めるほうが好きなんだ
チョコキラー
BL
何事も見るからこそおもしろい。がモットーの主人公は、常におもしろいことの傍観者でありたいと願う。でも、彼からは周りを虜にする謎の色気がムンムンです!w
顔はクマがあり、前髪が長くて顔は見えにくいが、中々美形…!
そんな彼は王道をみて楽しむ側だったのに、気づけば自分が中心に!?
てな感じの巻き込まれくんでーす♪
室長サマの憂鬱なる日常と怠惰な日々
慎
BL
SECRET OF THE WORLD シリーズ《僕の名前はクリフェイド・シュバルク。僕は今、憂鬱すぎて溜め息ついている。なぜ、こうなったのか…。
※シリーズごとに章で分けています。
※タイトル変えました。
トラブル体質の主人公が巻き込み巻き込まれ…の問題ばかりを起こし、周囲を振り回す物語です。シリアスとコメディと半々くらいです。
ファンタジー含みます。
嫌われものの僕について…
相沢京
BL
平穏な学校生活を送っていたはずなのに、ある日突然全てが壊れていった。何が原因なのかわからなくて気がつけば存在しない扱いになっていた。
だか、ある日事態は急変する
主人公が暗いです
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
主人公は俺狙い?!
suzu
BL
生まれた時から前世の記憶が朧げにある公爵令息、アイオライト=オブシディアン。
容姿は美麗、頭脳も完璧、気遣いもできる、ただ人への態度が冷たい冷血なイメージだったため彼は「細雪な貴公子」そう呼ばれた。氷のように硬いイメージはないが水のように優しいイメージもない。
だが、アイオライトはそんなイメージとは反対に単純で鈍かったり焦ってきつい言葉を言ってしまう。
朧げであるがために時間が経つと記憶はほとんど無くなっていた。
15歳になると学園に通うのがこの世界の義務。
学園で「インカローズ」を見た時、主人公(?!)と直感で感じた。
彼は、白銀の髪に淡いピンク色の瞳を持つ愛らしい容姿をしており、BLゲームとかの主人公みたいだと、そう考える他なかった。
そして自分も攻略対象や悪役なのではないかと考えた。地位も高いし、色々凄いところがあるし、見た目も黒髪と青紫の瞳を持っていて整っているし、
面倒事、それもBL(多分)とか無理!!
そう考え近づかないようにしていた。
そんなアイオライトだったがインカローズや絶対攻略対象だろっ、という人と嫌でも鉢合わせしてしまう。
ハプニングだらけの学園生活!
BL作品中の可愛い主人公×ハチャメチャ悪役令息
※文章うるさいです
※背後注意
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる