35 / 379
battle!
1
しおりを挟む「あー式だ。おはよ~」
「はよ」
決戦は金曜日。あと3日だ。
とカッコよく言ってみたもののおれたちのやることはほぼない。らしい。
期日が迫ったとしてもいつも通り学校に行って授業を受けて日常と変わらない。昼休みに式が珍しくおれ達をお昼に誘ったので、屋上でお弁当を広げて食べ始めると当日のレクチャーを始めた。彼はなんでも真面目だ。
「当日お前らはまじで危ねぇから裏の部屋に入っててもらう」
「ほうほう」
これはおれ。
「とは言え最初に挨拶はしてもらうけどな」
「挨拶とかするんだ……ああ、武士も斬り合う前に名乗るもんね」
これは優。
「……そのあとは完全にお前らの部屋に鍵をかける。トイレも水道もテレビも冷蔵庫もあるから」
「至れり尽くせり~」
これもおれ。
「ちなみに試合の様子は窓からも見えるしテレビでも見える」
「なにそれ!ハイテクじゃん!」
これは秋。
「……緊張感って言葉知ってるか?」
式が小出しに食いつきたくなること言ってくるからしょうがない。おれのお弁当のウィンナーを式の口に突っ込んでちゃんと聞いてるから大丈夫だよと伝えれば、不満そうな顔をしながらも美味いと食べていた。
それに緊張しないと言うのは嘘だが、やれる事も無ければ元々は自分で招いた種である。
逆に言えば彼らの戦い、と言うのを間近で観れるなんて中々ない経験なので物騒な事があるとは言われても、心の奥で興味がある。
おれよりも先に食べ終えていた秋は少し離れたところに立つと音楽をかけ始めた。振りを思い出して身体を音楽に合わせリズムを取り始める。
「よし、やるかー」
「次の大会いつだっけ?」
「再来月!」
秋は部活は入っていないけど、個人的にダンスを習いに行っている。
何度か動画や大会を見たことあるけど、あれは本当にカッコいい。あれほど音楽に体を一体化させるのはかなりの練習が必要だろう。それでもバイトもしながら朝とかお昼休みにコツコツと練習している秋は本当にダンスが楽しいらしい。
「ダンスやってたんだな、あいつ」
「秋のダンスカッコいいよ~!団体だから秋個人の名前とかは載ってないけど動画はかなりの再生数」
スマホで見せたダンス動画は式にしては珍しく食いついて眺めていた。興味があったのかもしれない。ポロリと彼の素直な言葉が告げられた。
「カッコいいじゃん」
「まじ?やった!」
踊りながらガッツポーズでいい笑顔。楽しいって顔に書いてあった。秋の短めのブラウンの髪の毛が太陽に照らされて金に近くみえる。
「ねぇねぇ、式も戦うの?」
「ああ、最初の方に」
余興だな、と式は言うけれどおれ達からしたら全部が全部本気だとしか思えない。先輩達が試合形式でテリトリーを広めていたとか、実はかなりやばいことが裏では動いてるとかおれは知らなかったのだから尚更。
「でもチームってめちゃたくさんいるわけじゃん?それでも選ばれるのって式強いんだな」
「チーム入って日も浅いのに選ばれるとは俺も思ってなかったよ。まあ、最初はそれなりに自信はあったけど……先輩達見てたらそんな自信は吹き飛んだけどな」
「そうなの?やっぱ別次元だなぁ」
別次元の話は脳をバグらせるのか眠くなってきてしまって優の膝を借りて横になる。
優はいつもの事なので何も言わずに雑誌を読んでいる。すると突然読んでいたページを見やすいように折り返しおれに見せてきた。
「ほんとに別次元、見てこれ」
優が読んでいたページには金髪のモデルの人がニットに口元だけ隠したアンニュイなシーンだ。その目に見覚えがある、どころではなくこれは瑠衣先輩だ。
「おお違う雑誌にも」
「それもそうなんだけど……隣の」
そのまま視線をずらし、次のページ。
顔は見えない後ろ姿の構図、真ん中に瑠衣先輩とその両隣に黒髪とクリアブラウンの髪色の男の人が。
体格、身長差、手の形。
「……うわあ、言ってくれれば良いのにさぁ」
明らかに氷怜先輩と暮刃先輩だ。ページにモデルの名前は載っていないがでも見間違えるはずがない。
「あの人達瑠衣先輩に付き合ってたまにモデルしてるよ。まあでも顔出ししないが条件だけど」
式が淡々と告げてくれる情報を聞きながら、すでにおれは今その雑誌をいつ買うかで悩んでしまった。
46
お気に入りに追加
1,386
あなたにおすすめの小説

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。

ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

変態高校生♂〜俺、親友やめます!〜
ゆきみまんじゅう
BL
学校中の男子たちから、俺、狙われちゃいます!?
※この小説は『変態村♂〜俺、やられます!〜』の続編です。
いろいろあって、何とか村から脱出できた翔馬。
しかしまだ問題が残っていた。
その問題を解決しようとした結果、学校中の男子たちに身体を狙われてしまう事に。
果たして翔馬は、無事、平穏を取り戻せるのか?
また、恋の行方は如何に。


怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる