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territory!!
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しおりを挟む「あ、お帰りなさーい」
先輩たちのお帰りにおれは手を挙げて出迎える。
「今度こそ待たせたな……」
「ただいまダヨ~」
「ごめんね遅くなって」
何故か少しお疲れな先輩たちは少し粗めにソファーに座った。今度は1人用の椅子には誰も座らず、みんなで大きいソファーに腰掛けた。赤羽さんだけが不動のウェイタースタイルを保っている。
「いい匂いだな」
おれ隣に座った獅之宮先輩が笑う。目線は俺が持っているティーカップ。
赤羽さんが食後にと紅茶を入れてくれたのだ。
「赤羽さんがハイビスカスティ淹れてくれました。疲れに効きますよ?」
「ん……」
持っていたティーカップを差し出すと、ゆっくりと口元に持っていく。少し閉じる目をじっと見つめてしまった。
「うまいな」
「そうなんですよ~」
今日ここに来て口にした物がすべてアタリだ。
初めて来た客にしてはディナーを平らげ紅茶まで飲んでいる。実に至れり尽くせりだ。満足そうな顔が出ていたのか獅之宮先輩が喉を転がして笑った。
「……楽しいか?」
「はい、みんな優しいです!」
「そか」
ポンポンと頭に手を置かれる。この手の安心感は他にないかもしれない。とりあえず頭でグリグリし返す。
「唯の特技は馴染みの速さです、いや図太さ?」
そんなおれを茶化すように横から優が言った。静かに紅茶を飲みながら。
「……そうやっておれのこと異常扱いするけど、みんなだって同じことしてるよね?!」
はいはいと流されてしまい、優の横に座った天音蛇先輩に笑われてしまった。きっと先輩にはおれたちが小学生にでも見えているのではないだろうか。
赤羽さんが天音蛇先輩と獅之宮先輩にも注文を取るががすでにハッピードリンクが握られているため首を横に振った。
「こっちはルイボスティ!うまー!」
「オレもそれー!赤羽っちーーー!」
反対のソファに座った秋のとなりで豹原先輩が声を上げた。すぐに淹れてきますねと赤羽さんが出ていく。
「俺の飲みます?」
「んーん、我慢する」
そう言うと豹原先輩はまたケーキを食べ始めた。彼はもしや甘党なのかもしれない。秋にケーキに乗っていたミントを無理やり食べさせることで紅茶が来るまでの時間を潰し始めた。
優が天音蛇先輩にむけて首を傾げ小さく声を上げた。
「そう言えばサクラ姉さん先輩達にお話があったみたいですけど、話せましたか?」
「うん大丈夫。サクラさんの相手ありがとうね」
絶世の美女でもあんなに甘く微笑まれて落ちない女性はいるのだろうか。いや、サクラ姉さんは落ちないか。そして優もよかったですと変わらぬ笑顔を返すだけだった。あの2人はどこかの何かが似ているような気がする。
「サクラさんネロの話だったんだけど……ああ、氷怜から話す?」
天音蛇先輩がどうぞと獅之宮先輩に手のひらを向けた。
「ああ、そのネロなんだがお前達も参加しろとご指名が入ってる」
「へ?何にですか?」
「オレたちのチーム?」
おれの問いに豹原先輩が最後の一口のケーキを食べて疑問系で返してきた。
おれが知っている先輩達のいるチームはここ一体のテリトリー全てをまとめている巨大なチーム。たった、それだけだった。何をしているかなんて知らないし、そもそも全てが噂なのだ。
だいたい、おれが見た先輩達の不良行為と言えば。
「た、タバコは吸えません」
「いや違うだろそれは……」
いつも一緒になってふざけ倒してくれる秋に呆れられてしまった。優はそのやり取りすら聞いていない様子で、眉をひそめて天音舵先輩に続きを促した。
「どうしてです?」
「短絡的な奴らなんだよ。タイミングよく君たちを助けたからどうせ仲間だろ出せ!みたいなね。今日のことがすごく屈辱的だったんじゃない。まあ、形式的なものだから君たち連れて行くだけなんだけどね、無理って程でなければ」
「うーん、なるほど。一緒にぶっ潰したいと。まあ、お尻蹴っちゃったしなぁ」
「お尻蹴ったの?!」
「あれ唯に言ってなかったけ」
やだ、優様さすが。
何もしていないはずの秋までガッツポーズだ。
「あー、それはマジで笑ったよねー……おそーい赤羽っち!」
そこで戻ってきた赤羽さんが豹原先輩に紅茶を出すと何故か秋にフーフーさせている。なんか兄弟みたいで可愛いな。
獅之宮先輩が話を続ける。
「2週間後、こっちの場所を提供をする」
「場所の提供?」
ってなに?の顔を優と秋に向ければ2人で手のひらを返してさっぱりのポーズ。
きょとんなおれたちに天音蛇先輩が教えてくれた。
「チームの抗争でお互い拠点に乗り込むって言うのは基本しないんだよ。こんな荒くれた世界でもルールがある。理性を持ってその上で力で解決。つまり場所を俺たちで決めて大会を開くんだ」
「へえええええええ」
知らなかった。仕掛けたらもうバリーンにガシャーンで嵐のごとく仕返しが来るものかと。不良さんの世界深いです。
「んん、じゃあ、あの人たち実は物凄い強かったんですか?その、ネロって人。だって先輩達に抗争を吹っかけるのって相当な自信か数なのか……」
「だからちょっと不安なんだよね、君たちをつれてくの。理性がないやつがバカみたいな喧嘩ふっかけてくるなんて何か馬鹿げた事を考えてるに違いないよ。知性も魅力も両方持ってた方がいいに越したことはないよね……いくら愛嬌があっても理性がない奴は消えていくだけだ」
ここに来て天音蛇先輩の不良の一面、敵に対して棘が出る、を発見した。
「もちろん俺たちとしてもお前たちに何かやらせるつもりもないし、ましてや怪我させるつもりもない。だが了承しないとますます話の出来なさそうな奴らだったからな……」
先輩は眉間によくシワを寄せるが一番深いかもしれない。勝つための試合をならばおれたちは本当に出る幕はない。先輩達にも迷惑はかからないだろう。
「全然良いですよ。むしろ仕事を増やしてしまいそうで申し訳ないですが」
秋も優も親指を立ててOKのようだ。
「助かる。当日は居てくれるだけでいい。戦闘員の残りがお前達しか居ないなんて間抜けなことには天と地がひっくり返ってもあり得ないからな。まあ、別に本当にチームに入っても良いけど」
獅之宮先輩が冗談交じりでそう言うので考えておきますと返答した。グシャリと頭を撫でられる。
すると突然獅之宮先輩の顔が不安そうな表情になったので首を傾げた。
「……悪いが念のために当日までの2週間、チームのやつをお前たちに着けさせたい。赤羽かお前らのクラメートで考えている」
赤羽さんがにこやかに手を振った。クラスメートに先輩のチーム所属者が居たのは驚きだ。
しかも申し訳なさそうに言われたのでキョトンとしてしまったが、それはつまり護衛のためだろう。なぜ先輩が謝るのだ。
「むしろお礼言うやつじゃないですか!それにむしろ、全然大丈夫ですよ。なんかあってもまた逃げます」
「いや、いまいちどこがあいつらの地雷になるかわからないからな……」
何か先輩でも危険と思うことがあるのだろうか。断らない方がお互いのためか。
「えと、じゃあ、お願いします!」
おれの答えに瞳が少し動いた。これは安心した表情な気がするので正解らしい。
「えーと、ちなみにその2週間……」
「ん?」
その2週間予定はすでに決まっている。おれたちとしても素晴らしく伝えやすい。
秋と優もいつぞやのVサインを出した。
「バイト14連勤なんです」
「は?」
初めて先輩たちのあんな顔見たかもしれない。
そして、変わらない爽やかな笑顔をありがとう赤羽さん。
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