sweet!!

仔犬

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territory!!

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この部屋には大きなソファーとテーブルがある他には何もない。


「ネロに顔が割れてない人員持ってる人は?」

「こっちに顔だしてない奴もいるので幾らかは……」

「そう。じゃあなるべく腕の立つ奴を新しいメンバーとしてネロの一員に入れて」

「ネロにですか?」

「うん、向こう人は足りてても保証された強さの方が今は欲しいはず。そこで先手を打ちに乗り込ませて」


暮刃の指示にすぐに何名かの名前が出た。赤羽がそれをまとめる。タブレットPCを片手に彼はいつでも楽しそうだ。

「後は後々指示するね。問題は……」

「唯ちん達ねぇ」

「普段はいいとして当日だな……」

氷怜がタバコを咥えるとすぐに近くにいた者が火をつける。短くお礼を告げれば緊張していた顔がゆるんだ。氷怜にとってこのチームの人間は自分が見定めた人間だけである。全員把握しているが誰も彼も優秀で信頼がおける。だからこそ自分の信念について来てくれるのだ。

だからこそ痛感する、あまり頭が良くない奴はやりにくい。
話が通じなければ意味がない。こちらが正々堂々と行えば行うほど不利になっていく。特にチーム外の人間を巻き込むことは氷怜が最も嫌うやり方だ。

「そもそもネロはテリトリーに興味がなかったはずだがな、荒っぽい事も今までしていない。仲間身内の集まりで統制も取れてた」

「そのネロの幹部はつい最近まで1人だったんです。それが、今日の奴らのどれでもない」

「乗っ取られたか?」

「意外にも内部事情に硬い壁がありましてね……」

赤羽が珍しく困った顔を作ったが氷怜にはお見通しだった。タバコを吸って次を促す。

「勿体つけてないで言え」

「マフィアです」


笑顔なのは赤羽だけだ。
あの3人マフィアの子なんです。

爽やかな笑顔が実にアンバランスな空間を生んでいる。
そのまま何も言わずに、暮刃も瑠衣もタバコを持ち始めたので、なんとか気付き慌ててメンバーが火を持ち出した。なぜこのタイミングでタバコを吸うのだ。と赤羽を除く全員が思ったが口にする者はいなかった。

「バカだねぇ」

やっと呟いたのは瑠衣だった。声だけは緩さがあるが、ソファーにうなだれて心底失望したような顔をしていた。
彼はいつも物事に深く入り込もうとしない、それでも誰よりも強かった。そして本当は使える頭を使えないと言い張りわざと緩い糸を張っている。だが、今回のことは避けきれなかったようだ。
張り詰めた糸が嫌な音を立てる。


「それが通用するとでも思ってんのか……」

いつも使わない言葉遣いだ。
少し高めの声から低く、重くなる。

ここは表の大人に抗い、子供が大人をやっている。氷怜達も数年が過ぎればいずれ社会的な大人と呼ばれる。その時まで大人のこの嫌な常識が、汚いものが覆えり自分たちがその基盤となれるように。
そうやってどこもかしこも汚い世界を氷怜がここまで築きあげたのだ。


「瑠衣落ち着け」


目が獣になりかけたその時、氷怜の手が瑠衣の顔を覆う。そのまま2度頭を叩いてやればいつもの瑠衣がいた。

すごく嫌そうな顔で瑠衣はその氷怜に寄りかかる。わがままな子供のように不機嫌だ。


「んー、無理」

「はいはい」


不満宣言の瑠衣に、暮刃も氷怜も苦笑気味に返事をした。
それでも瑠衣の気持ちを汲んでやれる。それどころか大いに賛同していた。
シンプルにムカつくのだ。ここまで一緒にいて築いたテリトリーになんとも失礼に爆弾を投げ入れられたのだから。

暮刃は氷怜と目を合わせた。同じ目だ。


「それじゃあ全部ひっくり返そうか」


このチームの頭脳が不敵に笑った。

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