sweet!!

仔犬

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territory!!

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「ネロ、早いね」


ドアが閉まり1番最初に口を開いたのは暮刃だ。あの部屋は中の声も廊下からの音も絶対に聞こえない防音室になっている。


「相当お怒りのようだな。日時指定までしてある」


先を歩く獅之宮氷怜しのみやひさとの後ろを歩く天音蛇暮刃あまねだくれはは閉めたドアを振り返った。

「可愛いしね、あの子達」

ただ褒めただけとは思えない笑みだった。
その後ろを歩く豹原瑠衣ひょうはらるいが続けて大きめの声を上げた。前を行く氷怜にわざとらしく聞こえるように。

「ひさとさぁ、気に入ったんだ?」

「気にいるというか……欲しいが正しいな」

暮刃と瑠衣の冷やかしにも氷怜は言葉を濁すことがない。それわかっていて2人は言っているのだ。


「きゃー!ひさとこわーい!」

「俺で遊ぶよりも、自分のこと話したらどうだ、気に入ってんだろお前らも」

「何のことでしょー?」

「氷怜みたいに真っ直ぐじゃないからさ」


表情も変えない2人に氷怜は呆れ返った。この2人が捻くれているのは重々承知だが、変に素直な分、曲がったまま出してくる奴らだ。

「相変わらず可愛くねぇな……」

「可愛い俺みたいの?」

「オレは可愛いけどー」

可愛くねぇよ。
遊び仲間でビジネスパートナーで腐れ縁だ。

唯斗達のいる部屋からいくつかの部屋を通り過ぎ、突き当りの部屋まで移動していく。下から流れる音楽が足を伝って聞こえてくる。
なのに今日はいつもより静かに聞こえた。あそこにいたからだろうか。あの部屋に。

「何がそんなに可愛かったのさ。氷怜のご寵愛は平等で有名だったのに」

教えるのは簡単だが、実際に感じて貰いたいものがあった。氷怜の中で共有する楽しみ、という感情があったことに自分でも驚いた。

ふいに笑ってしまい、その笑顔で仕返しのついでをする。

「そのうちわかる。お前らにもなついてるし、いや、お前らがの間違いか……?」

「……氷怜うるさーい」

「俺に当たるからだろ、捻れたやつが慣れないことしたって?」

今度はこちらがつつく番だと意地悪に笑った氷怜に暮刃が両掌を挙げてみせた。

「はいはい、お手上げ。そうだね、もうちょっと遊んでみたいかな」

「えー暮刃ちん裏切り者」

「本当は隠す気もねぇクセに」


鼻で笑うとドアの前にたどり着く。横に居た赤羽がドアを開けた。10数名は並んでいる。

「よお、お前ら悪かったな呼び出して」

綺麗に下げる頭を見て不敵に笑った。その場にふさわしい笑みだった。



「2週間後と言っています」

「ふーん?かき集めるのかなぁ」

「数の問題か?あいつらが10倍になっても今日の感じじゃ勝敗はこっちの勝ちだ」

あの3人が頭だと言うネロが2週間後に試合を決めてきた。文字通り試合であるが、それにはテリトリー争いと金銭が発生する。負ける事は許されない。

「かき集めるのは人ではなく、もっと危険なものかと」

「……馬鹿だな」

「ああ、馬鹿だ」


氷怜が眉間にシワを寄せたのを見て暮刃が仕方なく返事した。こんな馬鹿げた試合受けるわけには行かない。

喧嘩以上のモノを持ち込むのはルール違反だ。誰がここのルールを作ったと思ってる。氷怜にしては珍しく怒りの感情が芽生えた。己が正して作ったをこの世界、勝手に荒らされては困る。


「さらに嫌なお知らせです。氷怜さん達にとってですかね」

赤羽が白い歯を綺麗に見せた。


「唯斗さん達を出せと」


あれだけ奇跡的に、タイミングよく助けることができたのだからチームの人間と思われても仕方がない。それも3人だ。囮とでも思われたのだろう。 とは言え見事にネロを引き当てた唯斗達にも驚きだ。

「あーあいつら……トラブル体質か?」

「うーん、変に目を惹くしそうかもね」

「でもあの子達戦えなくない?」

「戦わせる訳ねぇだろ」

「喧嘩すらした事なさそうだもんね」

突然あの獅之宮氷怜が苦悩する表情で相手の身を案じ始めた。
困惑したのはその場に居たメンバーだ。
メンバー達は腕が立ち、皆自立心に溢れているため、氷怜が手助けする事は少ない。のし上がりたいものには道を開く、先導はするが甘くはない。それでも付いていきたいと思わせる人間だった。

その氷怜に瑠衣も暮刃も一緒になって困った顔をさせている。
まだ、唯斗たちが事の発端だと知らないメンバーは誰の事かも知らない。頭の上には疑問符だ。


「あの、唯斗ってのは……」

「ん?ああ、言ってなかったな。あとで会わせる、お前らも気にいるよ」

「ちなみにあと2人いるよー」

全くわからない説明だが、戦力にはならなそうだ。と言うのがメンバーの率直な感想だった。とは言え、トップの3人が気にしているのならばそれに従うのが当たり前の忠義だった。

「うちのメンバーでないのなら、引き出す意味はないのでは。わざわざその要求を飲まなくても」

できる事ならばそうしたいが、唯斗たちから聞く限り頭の出来は良くなさそうだ。力に頼りがちなイメージはハズレないだろう。


「危険物集めてる奴らが、まともに話を聞くとは思えないな」

「あの子達のクラスにチームの誰か居たかな、赤羽」

暮刃の問いに考える間も無く笑顔で返す。

「1人居ますよ。本田式ほんだしきです」

最近入ったメンバーだ。
歳は下だが、馬鹿ではない。

「悪いが式に唯斗たちに付くように言ってくれ」

「はい」















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