sweet!!

仔犬

文字の大きさ
上 下
18 / 379
territory!

6

しおりを挟む

静かになった部屋でおれ達はそれでも食べ続けた。美味しいと先輩達かっこいいだけのテンションで生きてきたこの数時間。
3人だけになっていまさら緊張が来たのだ。

「……ぜんぜん世界が違うわ」

「夢だよな、この美味しい料理も夢?」

「それは本物でしょ」


冷静な返しをする優も何処となく不安げだ。
おれはやっとフォークを置いて有能な肩を借りた。寄りかかったおれの頭に優も寄りかかってくる。

やっと安心してきたおれが大きく息を吸うと、優がタイミングを図ったように聞いてきた。

「……で、獅之宮しのみや先輩と何があったの?」

「あー……聞いちゃいます?」

「だってあんなに唯が慌ててんの初めて見たわ」

秋が笑ってほっぺを突き話してみなさい、と優も続いておれの頭を撫でた。こう言う時の2人はまさしくお兄ちゃんって感じ。

思えばこの2人はおれが中学の時からの親友で、転校してきた2人におれが絡んだのがきっかけ。
おれはその当時から女の子が好きそうなものが大好きでそれを隠すこともせずに好き勝手していた。少し男子から浮いていた、いやがっつり浮いてたんだよ。でも毎日楽しかったし、楽しんでたらみんなも馴染んでくれてた。

その中でも2人は何だかんだ世話を焼いてくれて、趣味にも付き合ってくれて、しかも家が同じマンションの隣の部屋という偶然が重なり家族のようになったのである。


そんな2人にあの先輩に言われた事を打ち明ける。初めての緊張だ。拒絶はされない自信はあるけど、どうする、どうなる?

優に項垂れたままおれはついに話すのだ。

「告白された」

「それで?」

「え?」

あれ、予想の範囲外。
おれの頭の中では告白されたことに驚いた2人が男同士だろ?とか女の子と勘違いされたか?とか、そういうのをなだめることからスタートしていたのに。

顔を上げて2人の顔を見る。真ん中に座るおれを見つめる2人はもう告白された事になんの疑いもなさそうだ、しかも呆れ顔で話を続ける。

「いやいや、流石にあれだけアピールされてたら、ああ獅之宮しのみや先輩唯のこと気に入ったんだなって誰でも思うでしょ。俺達そんな鈍感だったことあるか?」

「そりゃ先輩たちは超かっこいいけど、そんなのはもうあの人たちが生まれた時から決まってる事。それなのに唯は慌てすぎだし、照れすぎだし、みてるこっちが恥ずかしくなるじゃん。先輩達は唯のこと初だから気づいてないかもしれないけどさ」

もう淡々と言われる言葉におれは開いた口が塞がらない。生まれた時から決まってるって言い過ぎじゃない?ああでも赤ちゃんの先輩達はさぞ天使だったろうな。


「いや、でもあの先輩達がさ、超人レベルでカッコいい人がおれだよ?夢じゃない?」

「ええ、でもそんな事言ってOKしたんでしょう?唯の感じからして」

「すごいな2人ともエスパー……?」


なんでもお見通しの2人になんだかもうわけがわからなくなって脱力してきた。
そうか、2人は獅之宮先輩の甘い言葉を聞いても何も思わないのはおれに呆れすぎていたせいもあるのか。合点。


「唯、言ったじゃん俺たち。唯のペースが乱れてるって」

「うん?」

「最初は俺たちが不安でそうなってるんだと思ったけど、再開してしばらく経った後もいつもよりテンション高いからさぁ」

だんだん2人がニヤニヤし始めて、おれは怖くなってきたのでデザートを食べたのに、またパスタに手を伸ばしてしまった。

「照れ隠しだ」

「あーーーー言わないでーーーーー」

それはもう楽しそうに優がいうので涙が出そうだった。ちょっと楽しんでる、優様が楽しんでおられる!

「唯が照れてるって今年1番の一大事じゃない?」

「羞恥心とかおやつと間違えて食べちゃったのにな」

「2人とも馬鹿にしてる!おれだって羞恥心持ってるから!恥じらい、持ってますから!」


もう恥ずかしくて怒ったらいいのか泣いたらいいのかも分からず変な顔をしてしまった。ああこういうのはさ、女の子がやるとさ、尊くてさ、可愛いんだよなぁ。

尊さを感じ拝みそうになっていたおれに、親友の2人が残酷な真実を告げてきた。

「恥じらいねぇ……俺らは唯と仲良くなって失ったもの恥じらいだと思うけどなぁ」

「ええ?!」

秋が告げた言葉におれは慄いた。
なんだって?おれが恥じらいを取り上げたとでもいうのだろうか。そんなに羞恥を煽るような事をしていたのか?いや、してない!

優が仕方なさそうに制服のネクタイをなぜか締め直し背筋を正した。わざとらしい咳をひとつ。

「では質問」

必然的におれも背筋が伸びた。

「唯、いつものコントみたいなノリ恥ずかしい?」

「……いや?」

「女装してって言われたら?」

「別にやるけど」

「じゃあ大勢の前で話すのは?」

「人と話すの好きだよ」

「……ミニスカでって言われたら?」

「おれの足、女の子まではいかないけど割と綺麗だからいけるのでは?」

「相手が全員女の子でも?」

「うん、誰とでも仲良くなれる自信ある」


だからおれはコミュニケーションにおいて不安を持ったことがないのだ。しっかり答えたおれに秋と優が大きなため息をついた。

「唯ってさ、コミュニケーションの怪物なの。しかもフェミニスト入ってるじゃん」

「ん、人が好きだしね。それに女の子は尊いよ?」

「うん、そうなんどけどさ……」


それでもはっきり言える事、そう、おれは美容好きになって気づいたのだ。女の子は尊い。この言葉に尽きた。

ファッションもメイクも女の子は特に見られることが多いし、それは1日でどうにかなるものではない。全てのトレンドは移り変わるし、追わなくてはいけないのだ。自分なりの好みを突き進むのもまた素晴らしい事だし、社会の目のせいで頑張っている人もいる。そんな女の子が笑うだけで心は癒され、褒められると幸せになる。
好きな人のため、毎日を楽しくするため、可愛くなるため、あんなに努力しているのだと実感したのだ。

だからおれは女の子がより女の子を楽しめるように、おれがいろんなものを試したら教えてあげられるし助けになるかな、と考え始めたのだ。

おれの回想している間に2人も思うことがあったのか視線が明後日の方向だ。

「男子ノリもいけて、尚且つ女の子達とキャピキャピしてる唯といたらさ、俺たちも人見知りなんてしてる暇が無くなったんだよ」

「え、まあ、たしかに転校してきた頃は2人とも静かだったね」

「しかも、だんだんハッピーセットみたいになってきて……」


もともと、本当にクールオブクールだった優がおれ達と居たことで突っ込んだりしてるうちにキャラの垣根を超えて馬鹿なことにも付き合ってくれるようになったのだ。
そんな遠い目をしなくてもは健在だから気にしなくてもいいのに。



「それに付き合ったおれ達に羞恥心を持つ暇なんかなかったわ」

遠い目の秋の言葉にギョッとして慌てふためく。

「ええ、おれが悪いの?え、え、ごめんね?そんなに苦しめてたの?あ、でも今日のことは怪我までさせて本当に悪かったけど!」

なんだろうこの展開、だんだんと涙目になる。まさかこの数年の積年怨みを今話されているのだろうか。

「いや、まあ、楽しかったから今もこうしているわけだけどさ」

「優様~!」

もう優様に抱きついてホッと一息。秋も後ろで笑っているので怒っていないようだ。

そして秋はいつもの笑みを含んだ声でこう言った。


「そんな唯がなんで照れちゃうのかなって」

「あー……」


親友のその言葉で全ての気持ちがリセットされたのだ。
しおりを挟む
感想 179

あなたにおすすめの小説

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...