sweet!!

仔犬

文字の大きさ
上 下
10 / 379
escape!!

3

しおりを挟む

「あ、先輩こいつ名前は坂下優夜さかしたゆうやです」

まだ復活しない優の代わりに自己紹介をしてみる。聞こえた優も頭だけ下げていた。

「俺達の事は知ってるみたいだし名前は大丈夫そうだね。何年?」

「1年です」

「何組?」

「え?C組です……」

組まで訊かれるとは思わなかった俺は優と目を合わせる。優も不思議そうにしている。

「ヨッコイセー」

どうかしたんですかと聞く前にまた呑気な声が聞こえてくる。そしてやはりやっている事と全く合っていない。豹原先輩が赤髪の不良を担ぎオレンジの人の隣に並べ始めたのだ。やめてくれ、揃えなくていい。

「せ、先輩……?」

思わず豹原先輩の横に向かうと気絶した2人の哀れな姿が。2人とも一撃のはずなのにかなり腫れて同情しそうな程ボロボロだ。それほど彼らの実力差は大きいのだろう。

「もっと綺麗に染めたらいいのに~」

恐らく不良2人の髪の毛をみて言ったのだ。たしかにどちらも何度もブリーチして髪の毛がボロボロ。色にムラもあってあまり綺麗ではない。
もちろん、そう言った豹原先輩の髪の毛はいつもサラサラで色味も完璧だ。
今は茶髪に金メッシュだが前見た時は青がインナーカラーで入っていた。痛み知らずでツヤもある。色落ち後までちゃんと想定してありそうなヘアカラーだった。

「先輩いつも綺麗に染まってますもんね」

「みたことあるのー?」

「目立ちますもん」

「いやーん、えっちー」

「えっち!?…………あれつーかこの人なんか濡れてません?転がった時水に濡れました?」

「最初から濡れてたよソイツ」


 不良の横にしゃがんだ先輩はさらりと答えた。え、そうなんだ。赤髪の人、そんなびしょびしょではないけど制服が心なしか濡れている。最初からわかっていたということは豹原先輩は走ってきた段階で濡れていたのが見えた事になる。もしかしてめちゃめちゃ目がいいのかもしれない。

「先輩視力いくつっすか」

「2.5」

「ええ、すげえーー!」


ふふーんとドヤ顔してきた先輩がなんだか可愛くて、しゃがんで小さく座っていると余計に俺の妹と弟に重なって見えた。えらいことをするとすぐに褒めて褒めてと目が輝くのだ。


「うん。すごいな」

気付いたら豹原先輩の頭を撫でていた。  

先輩もまさか頭を撫でられるとは想定していなかったのか、形のいい猫目がまん丸になっている。俺は笑顔のまま固まった。ど、どうしよう。

パシャ!

謝ろうと思ったら音でびっくりして思わず両手をあげて無罪ですのポーズ。

やべえ。やってしまった。
俺の弟と妹は5歳だ。いつもいつも腰に抱きついてくるから頭を撫でるのが習慣化している。しかも上から目線に褒めてしまった。

「ご、ごめんなさい!ちっこい兄弟ふたりもいるんでつい癖で!!……ってパシャ?」


いつのまにか豹原先輩の手にはスマホ。スマホ越しに先輩の目だけが覗いている。


「……秋だっけ?」

「え、あ、はい秋っす」

「うん……いい顔するじゃん


恐らく撫でている時の俺の写真だろか。画面を見ながら先輩が笑った。
お咎めなし、という事だろうか。代わりにお前の顔撮ってやったぜ的なやつなのか。

理解が追いつかない俺を置いて、先輩は流れるような手つきで今度は気絶したふたりをスマホに楽しそうに写真を撮りだした。

「え、え、先輩?」

「こっちはひーに送ろっかなって」

「ひー?」

「ひさと」


ひさと。もうこれはすぐにピンときた。獅之宮先輩だ。ニッと笑って画面を見せてくれた。送り先はひーとなっている。

「ボスに報告?」

「な、なるほど?」

よくわからないがとりあえず返事をするとほら戻るよ~と背中をぐいぐい押され優たちの元に戻る。天音蛇先輩の横にやっと上半身を起こす優が見えた。

「優復活したか?」

「うん。秋、背中大丈夫?」


すっかり忘れていた。言われれば痛いがそこまでのような気もするが鉄の棒で叩かれたわけでも無いし。
大丈夫と伝えれば困った顔をしながら優が話し始めた。

「悪かった……俺あいつ挑発しちゃって余計に怒らせた」

「いやいや、あいつらしつこくなかった?」

「……うん、しかもあいつ後ろから物投げてきて」


優は制服の袖をまくると少し赤くなっていた。何を投げられたのかわからないが腫れていて痛そうだ。

豹原先輩も天音蛇先輩も一緒になって話を聞いていた。

「周りの人にも御構いなしだから頭にきて……」

「あーお前許せないもんなそういうの」

優は嫌なことは嫌ってはっきりさせるタイプだ。しかも自分が原因で他の人に迷惑がかかるのも許せない。俺の言葉に頷いて優は言いずらそうに話の続きを始めた。


「それでその……この河川に入る前隠れてやり過ごせそうだったんだけど」

「おおすごいじゃん」

「あいつ通りかかったおばあちゃんに当たってよろけてつまずかせたのに謝りもしなくて……」

「何だよそれ最低じゃん!」

「だからもうムカついて、卑怯だけど後ろからお尻蹴って川に落とした」

「ゆ、優様……」


思い出して本当にムカついたのか、また眉間にシワが入っている。俺が蹴られたことには申し訳ないと思っているが、あの人を蹴ったことに後悔は無さそうだ。


「あ、だからあいつ濡れてたのか!!!」


俺が手のひらをポン!と叩くと、もう限界!と叫んで豹原先輩が崩れ落ちるように地面に転げ回っている。爆笑しすぎてこのままでは芝生まみれになりそうだ。

隣の天音蛇先輩もよく見れば口元を隠して肩を震わせている。一見大人しそうに見える優が尻を蹴った想像をしたのだろう。






しおりを挟む
感想 179

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

変態高校生♂〜俺、親友やめます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
学校中の男子たちから、俺、狙われちゃいます!? ※この小説は『変態村♂〜俺、やられます!〜』の続編です。 いろいろあって、何とか村から脱出できた翔馬。 しかしまだ問題が残っていた。 その問題を解決しようとした結果、学校中の男子たちに身体を狙われてしまう事に。 果たして翔馬は、無事、平穏を取り戻せるのか? また、恋の行方は如何に。

a pair of fate

みか
BL
『運命の番』そんなのおとぎ話の中にしか存在しないと思っていた。 ・オメガバース ・893若頭×高校生 ・特殊設定有

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

異世界で、初めて恋を知りました。(仮)

青樹蓮華
BL
 カフェ&レストランで料理人として働く葉山直人(はやまなおと)24歳はある日突然異世界へ転生される。  異世界からの転生者は、付与された能力で国を救うとされているが...。自分の能力もわからない中、心の支えになったのは第二王子クリスと、第一騎士団団長アルベルト。  2人と共に行動をすることで徐々に互いに惹かれあっていく。だが、以前失恋したカフェ&レストランのオーナーがちらつき一歩踏み出せずにいる。 ♯異世界溺愛系BLストーリー ⭐︎少しでも性的描写が含まれる場合タイトルに『※』がつきます。 読まなくてもストーリーが繋がるよう努めますので苦手な方はご遠慮ください。

処理中です...