sweet!!

仔犬

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escape!!

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唯も優もちゃんと逃げれてるかな。唯は頑張って走るけど優は諦めたら止まっちゃいそうで心配だ。ああでも、どちらかと言えばブチ切れたら優の口の悪さで相手を挑発していないかも心配。

とは言え俺も人のことは言えない。心配している暇は本当にあるのかと天使が囁く。

頑張れ野島秋祐、ダンスで鍛えた筋肉見せてやれと叱責してみても足はすでに重い。足には結構自信あるんだけど、筋力が五分五分だった。

ひたすら走り続けて河原まで来ている。ちなみにこのコースはいつもジョギングに使っていてお気に入り。



「うあーきっつーー!!」

叫んだら余計に苦しくなるのはわかっているけれど叫ばないとやっていけない。しつこすぎる赤髪の奴!


俺についてきたのは赤髪の男だった。向こうも苦しそうであるがちらっと見えた表情が楽しんでいるように見え、少々恐ろしかったので絶対捕まりたくない。
仲間を一緒に馬鹿にしていた奴がここまでして俺を追いかけてくる理由はなんなんだろう。


「なー!あんた、なんで!そんなしつこいわけ?!」

「……は!すき、だから!」

「……は?」

なんて言った?すき?スキダカラ?
フォーリンラブのスキダカラ?

俺は返事もせず持てる体力全てで最高速度を出した。絶対捕まりたくない。何をさせられるか分かったもんじゃない。誰かが目の前を横切りそうになったので大きく避けて草むらを少しだけ入りまた元の歩道に戻る。

そしてまた振り返ってみる。うわあ、満面の笑み。

怖い、怖すぎる。何が好きなんだろう、まさか俺?いや、違う。もし恋するの方のスキダカラなのだとしたら、追いかけ回してあんな気持ち悪く笑わない筈だ。いや、ストーカーならありえるかもしれないが今日初めて会った人にストーカーも何もないはず。そうでなければ怖過ぎるじゃないか。
これはおちょくられているのかもしれない、よし詳しく聞いてみよう。

「な、何が?!」

「ボコボコにッ、するのが!趣味!」

こっわ!
なんだあいつ、あんな奴が人間に居るとは。喧嘩が好きって男子としては強いものがカッコいいというのはわかる。
映画でも戦いの美しさとかあるから。でもそれは弱い奴にやっても意味がない、ただの弱いものいじめだ。しかもあいつはボコボコにできればなんでも良いというそういう趣味のやばい奴だ。頭がちょっとあれなんだ。




「ねぇねぇ」

そんな声が横をかすめたがもう真顔でめちゃくちゃ全力で走っていた俺は周りも見えていなくて、誰か近づいたのだけは分かった。ぶつかってはいけないのでまた大きく避けようとするとまた同じ声が聞こえた。

「あれ友達?」

避けようとしたのにその人はなぜか並列して一緒に走り始めたのだ。俺よりも背が高く、横に並ばれた途端に凄い威圧感があった。

「へ?!」

「友達?って」

なんで一緒に走ってるの?に対してのへ?だったのだが、相手は良く聞こえなかったと捉えたようだ。

しかも友達?あの後ろの怖い奴が友達に見えるのだろうか。こんなに嫌がって逃げているのにそんな事を言う人って。

首をぐいっと向けると男の人が一緒に走っていた。なぜ分かったのかと言うと、顔を見たからではなく色味的に同じ高校の男子の制服だったからだ。背が高くて顔を見る余裕がない。他に情報がはいったことと言えば、めっちゃ良い匂いする。

「ねぇ、友達かってきいてるんだけど~」

「ちがいますよ!」

もう限界が近くて語尾全てにびっくりマークがつく。誰だか知らないけどこんな時になんなんだ。俺の妹や弟よりも突拍子もない。

もう、息も上手くできなくて喉も脇腹も痛いのに。

「そっかー」

「というか!一緒に!走ってると!あいつに!ボコられますよ!趣味って言ってて!」

「なになに~オレの心配してんの~?」

けらけら笑い始めたこの人も少し変わった人かもしれない、いやかなり。この人はこんなに必死になっている俺を見てなんとも思わないのだろうか。しかも息ひとつ上がっていない隣の走者があり得ないことを言い始めた。

「でもオレもさあ、ボコるの好きなんだよね」

もうなにをいったら良いのかわからず、ついに首をあげてその顔を見た俺は息が止まる。

「……てか、え、豹原先輩?」

「ご名答~!」

にんまり悪戯っ子のように笑ったこの人は俺の先輩だった。とは言え、俺を追いかけている不良とは比べものにならない程の不良オブ不良と言われるような有名人だ。一度だって話した事もないのにたくさんの噂が勝手に流れてくるような人。

そんな人が楽しそうに俺と走っている。

猫っぽい顔つきがセクシーで、派手な格好なのに綺麗だと思わせる。遠目で見た俺の先輩に対する印象だった。

「な、なんで!貴方みたいな有名人が!俺と走ってるんすか!」

「ん~後ろのやつ知ってるんだけど~嬉しそうに追いかけてたから気になって?」

そんな理由でこの競争に参加する心意気さすが。息も絶え絶えなのに、びっくりしすぎていろんな気持ちが交差する。ボコるの趣味なんだーとか、俺の最大速度が足のリーチで先輩には余裕そうだなーとかやっぱりカッケェなーとか。それでもなんとか意志だけは叫べた。

「俺は!あの人にボコられ!たくないから!はしってます!ゲホッ!てゆーか!先輩!走っててもイケメンですね!」

あ、最後のは余計だった。




「え……今?…………なに、馬鹿なの?!プフー!!!アハハハ!」

走りながらも腹を叩いて爆笑し始めた先輩を気遣う余裕はもうない。俺も馬鹿な一言を付け加えてしまった反省はある。だからもう黙って逃げ切りたいのに足は限界だった。
ついにがくんと本当に音がしそうなほど膝から崩れ落ちる瞬間、全てがスローモーションに見えた。止まって見えるほどこ景色は夕焼けに照らされた川が綺麗で、ボコられても仕方ないと思ってしまえる。



「はーあ、笑った笑った。面白かったし赤いのトモダチじゃないらしいから助けてアゲル」

「……え?」


気持ちだけは痛みに備えていた身体は地面につく前に先輩の腕が俺を支えていた。すとんと地面に降ろされると、にんまり笑って後ろに疾走していった。

「はえぇ……」

あとはもう一瞬で相手は地面にひれ伏していた。瞬足からの蹴り一発でKO。赤髪さんは先輩の顔見えたのかな。あの動き、速くて重いって喧嘩では最強なんじゃない。

「本当に同じ趣味?にわかじゃないの~」

どっこいしょ~と穏やかな会話だが失神している人の横で言うセリフではない。赤髪さんを道端の横に転がすと先輩は俺のところに戻ってきた。

「ダイジョウブー?」

「あー大丈夫です」

河川横の芝生で伸びきった俺。先輩は俺の脇腹をつついているが全部の体力使い切って何もできない。

「ありがとうございます先輩」

「いーえ?予定が今日になっただけだから」

「え?」


倒す予定でもあったのだろうか。どちらにせよ本当に助かった。先輩にはワンパンでも俺には35パンくらいかなぁ。

「うー走りすぎて気持ち悪い……」

唸りながらも何とか立ち上がれた。豹原先輩が不思議そうに俺を見ていた。


「友達も追われてると思うんで行かないといけないんすけど、もう走れねー……」

「そんなヘロヘロで~?」


しゃがんだまま先輩は両手でアゴを支えていた。あんなに背が高いのに今は小さく見えて、動きが子供っぽいせいか可愛く見える。これが顔面格差故の特権か。

「でも心配で……」

「ふーん」

あまり興味は無さそう。
そりゃそうだ、見たこともない人間が心配だからといって慌てふためく方が稀だ。
ポッケから取り出したスマホに連絡はない、どこに向かうのが1番確実だろうか。あまり良い状況ではない、俺がラッキーで助かっただけ。
心配で胸が痛む中、後ろから呑気な声が響いた。
 

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