君は殺人鬼

仔犬

文字の大きさ
上 下
17 / 19

17

しおりを挟む

「やっぱり帰ってきてないかー」


ひとまず誠さんの運転でカオの家まで来た。相変わらずドアは開けっ放し。部屋も片付いてない。物が動いた感じもなし。

「とりあえず手紙書こ」

「なんて書くんだよ、戻ってこいってか?」

「まさか」

そんな可愛いこと書いたってあのへそ曲がりがどうにかなるとは思えない。迷うことなく書き出した俺の文に誠さんはついに黙ってしまった。

「首洗って待っとけよ、ハート……っと」

「…………空野も得体が知れないがお前も結構やばいな」

「だってーこのまんまは嫌だもん俺。もう弱気になるより攻め込むしかないじゃん。あと部屋片付けとくのと……ご飯食べてない気がするからなんか作って冷蔵庫に置いとくって、そのことも書いとこ」

「そりゃまた献身的だな……」


もうどうでも良くなったのか手紙は見ずに部屋を見渡す誠さん。見渡しても白と赤しかないことはもう分かっている。


「にしても庭も中も変わんねぇな。白と赤。お前よくここで寛いでたな、落ち着かねえよ」

「そう?俺は特に気になんなかったんだよね。カオ、白は好きな色で赤は……なんだっけ?」

「知るか」

言い回しは冷たいが誠さんは結局部屋の片付けを手伝ってくれた。しまいには掃除機までかけてくれていた。まじで良いパパだ。

俺は冷蔵庫にある食材でオムライスとハンバーグと唐揚げを作った。かなりの力作である。食べてくれると良いけど。

「なんか子供のご馳走みたいなメニューだな……」

「実はこっち寄りなんじゃないかなと踏んで」

「は?」

「いや、カオ意外と子供っぽいとこあったからさ」

誠さんにはそう言ったが本当はカオの僕人格がかなり幼く感じたせいだった。普段の余裕な俺人格はおしゃれな料理をたくさん作ってくれたけど、もしかしたら僕人格の味覚は違うかもしれないと思ったのだ。


「本当に仲良かったんだな」

「違うよ、今も仲良いから」


追い出されて音信不通の上これから見つけ出そうとしている人間が何言ってんだと誠さんの顔に書いてある。実際その通りなんだけど、正直なところカオに嫌われたという感覚は全くない。強いて言うなら……。


「好き避けかなぁ」

「……お前ら、聞かなかったけど。デキてんのか?」

「え、いや?」


その答えを聞く前にカオが消えたわけだ。
この関係もよく分かんないし、カオのことすらよく分からない状況で誠さんに伝えるのはまだ早い気がした。今はとにかく、カオを見つけるのが優先だ。俺の顔から何かを読み取ったのかため息をつく誠さん。


「お前らの訳あり事に首突っ込んじまったかな……」

「大丈夫大丈夫、誠さんは俺のパパだから」

「やめろそれ!お前みたいなでっけえガキいたら俺が年寄りみたいだろ」


年寄りみたいじゃ無かったら良いの?
悪寒が走ったように身震いする誠さんに思わず吹き出した。


部屋も片付いたし合鍵を見つけたので不用心な開けっ放しドアもこれで解決。手紙にも合鍵は貰ってやったと人質風に付け足した。俺らしさ満点のふざけた手紙だ。


「行こっか」


こんな事で少しでも笑ってくれたら良いのに。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

【完結】人形と皇子

かずえ
BL
ずっと戦争状態にあった帝国と皇国の最後の戦いの日、帝国の戦闘人形が一体、重症を負って皇国の皇子に拾われた。 戦うことしか教えられていなかった戦闘人形が、人としての名前を貰い、人として扱われて、皇子と幸せに暮らすお話。   性表現がある話には * マークを付けています。苦手な方は飛ばしてください。 第11回BL小説大賞で奨励賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

処理中です...