君は殺人鬼

仔犬

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何があったんだろう。
正直何がトリガーとなってカオが消えたのかいまいち分からない。麦茶を両手で握ったまま見つめているとからりと笑った木真さん。

「おい、固まるなよ」

木真さん体が少し大きめで堀が深いせいか真顔は迫力があるけど笑った時は目元をくしゃりとさせる人受けのいい笑顔だ。そういえばここ最近カオのことはおろか他の人間にあってもいなければ相談すらしていなかった。そりゃ焦っても仕方ないか。せっかく少し共有できる人がいるなら、焦らずゆっくり話せばいい。



「木真さん……俺、最近カオと……あ、空野 香のことなんですけど。仲良くなってそりゃもう居心地良くて、楽しくて。カオもそうだと思うんです。実際そう言ってたし、でもいきなり会いに来るなって言われた挙句、今日なんか家からも移動してて。なんかもう、ええ……って感じで」

背もたれに寄りかかると庭に向くガラスから手入れしていた花壇が見えた。男らしい見た目に反して花好きなのかもしれない。色とりどりの花達はカオの家とは真逆だった。


「……空野な」

「木真さんはカオと知り合い、では無いんですか?」

「まさか、一度も話したことがねぇよ。最初はあいつの花壇が気になって庭をチラ見してた。趣味だからな」

庭を指さした木真さん。
ガーデニングした事ないけど、たしかにカオの庭は素人でも目につく。今はもう花も無くなってしまったけど。

「そしたら、出てきた家主が空野 香だった」

「……え?」


あのって、何?
木真さんは視線をテレビに映した。何もつけていないので画面は真っ暗だ。その中にぼんやりと自分の影が見える。

「俺は空野と話した事もないが、あいつの小さい頃を見たことがある。しかもテレビでな」


ドッと心音が聞こえてきた。
聞いてはいけないものを聞いてしまう気がする。でも俺が聞きたくないと思っているなら今席を立っている筈だ。

「たった10才の子供が家族を殺したニュースだ」

「……こ、殺した?」


驚愕する中で、俺の頭の一部が何故か、やっぱりと言った。
心の中で腑に落ちたのはカオの発言の異常さから何かあるって俺でも思っていたからだ。想像よりも重い話だったけれど。


「続けるか……?」


また麦茶を見つめる俺に木真さんは顔色を伺った。俺は今どんな顔をしているだろうか。それでも答えはイエスだ。木真さんを見つめて頷いた。

俺が本当に大丈夫なのか無言で見つめ判断すると、最終的に木真さんは話し出す。

「…… 普通そんなガキの犯罪に写真は出ない。でもよくあるだろ近隣住民のインタビューでどんな子だった、とか。どのニュースでもインタビューされたやつは口を揃えて答えた。礼儀正しくてとても綺麗な子だったって、なんつうか、男にいう言葉じゃねえんだよな。それが視聴者も気になったのか、調べるわけだ。そしてどこの誰かもわからない奴がついに顔写真をネットに上げて広まった」

もしそれが本当なら俺が小さい頃の話だし、覚えてないのも当然だ。でもそんなに話題になっているなら今でも知ることが出来る。咄嗟にスマホを取り出してカオの名前を入力する。

すぐに、出てきた。
1個や2個じゃない。たくさんのカオの写真。

「……カオだ」

「まんまだろ、その年で綺麗に顔が出来上がってる」


骨格はもちろん今より丸みはあるもののカオを造形する綺麗なパーツはすでに出来上がっていた。誰かと話している顔の写真。10才にしては大人びていて、それでいて表情がカオだ。


「妙にそれは覚えててな、たまたま家から出てきたあいつを見てすぐ気がついた……まあそれから俺は別に何をするでもないし、ただ通りかかったら庭を見るだけだ。あの赤と白の庭を。初めて他人がいるのを見たのがお前だったって訳だ」

「……なんか、カオが変わってるって、のは分かってたんです。こうやって突然突き放すし、訳わかんない事言うし……」

「……まあ、ただニュースを見ていただけの俺にわかったのはあいつの家がそれなりの資産家で父親は有名な画家だった。母親は何をしてたか知らんが、どうにも英才教育にそらもう熱心だったって事だ。叱る姿を住人がよく見てたって」

「じゃあ……それが原因で?」

「噂ではな、でも本人はこう言うらしい」


木真さんは窓の外を見た。そこには綺麗な花達があるだけだ。


「父も母もとても良い人でした……って」


木真さんから言われた言葉なのにカオの声でその言葉は再生された。出会ったころの大人のカオの声で。僕ではなく俺と言うカオの声。



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