君は殺人鬼

仔犬

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愛してた。
何もかも、誰も彼も愛してた。


赤い記憶は消されない、消してはいけない。白になれなかった僕にはそれが唯一出来ること。また繰り返してはいけない、だけど手を広げて温かい光を向けられてしまったら……。





眠ってしまった好の足をゆっくりと持ち上げて立ち上がる。男にしては小顔で柔らかい輪郭の好は眠っていると余計に幼く見えた。きっと幼いと伝えたらむくれたように言い返すのだろう。

「年相応は程遠いね」

クスリと笑って音を立てず揺らさないようにして好を持ち上げた。軽い。元々香よりも数センチは低い身長だが、見た目以上に軽い体重に少し不安になる。

そのままベッドまで運び頭を撫でると好が身じろいだ。ゆるくパーマのかかる髪が伸びるのが楽しみな自分がいた事に気がつくと握った拳に力が入る。

今は閉じられているこの目が開いた時、あの光るような瞳が暖かくて心地がいい。短期間でここまですんなり距離が縮まった理由はそれが大きいように思えた。俺に懐く姿を思い出すだけで何か救われた気分になる。

真っ白な掛け布団を掛けると天使みたいだと、香は自分とは何もかも違う彼の方が白が似合っていて苦笑する。白と赤でようやくバランスを取っている自分の情けなさに、また今日も気分を落とすのだろう。

もうきっと、こんな関わりを人とすることはないだろうと思っていた。小さな頃の友人はとっくに消えていったし、その後知り合った人間も衝動が抑えられなくなる前に自分から姿を消していた。でもどうしても、何かを感じてしまった。好を一目見てこの家に招いてしまった。柵のあるこの鳥籠に。


「君と会うたびにいけない事をしている気分になるよ……」


明るくてわかりやすくて人懐っこい。
好は連絡を取らないと言ったが周りは本当にそうなのだろうか、好の楽な接し方を選んでいるだけで本当はもっと会いたがっているのではないだろうか。きっといる。

そうしたら誰かがこの手を握るのではないだろうか。この瞳に長く見つめられる人間が存在するのだろうか。

どろりと何かが流れ出る気がして香は首振った。すぐに好から離れてリビングに向かうとテーブルの上を片付ける。水道水によって流れる汚れで幾分気分が落ち着いていく。スポンジに洗剤を流して丁寧に洗ってしまえば鏡の前で笑えるような自信が戻ってきた。いつも通り、だから俺はまだ、まだ大丈夫だ。


きっと俺は、僕は、まだ大丈夫。



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