君は殺人鬼

仔犬

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空野 香からの こうって言うんだ」

「こう?」

一瞬耳を疑ったくらい驚いたけど、漢字が違うらしい。
同じこうでも好と香だ。スマホを打つと自分の字を見せてくれたので俺もそれの下に名前を打つ。

「俺もこうなんです。成谷 好なりや こう

「すごい、なんだか運命的だね」

そう言われてしまうとへにゃりと笑って返すしかない。それなりにモテる方だと自分でも思うくらいの人生だけど、相手の毛色の違う魅力にまだ慣れない。

注がれた紅茶はあったかくて、外でも香りがしっかりと鼻をくすぐる美味しいものだった。お茶菓子にと好物のチョコを出されたのでありがたく頂く。チョコ好きなんだねと子供扱いされた気がするが好物は好物なので仕方がない。

「せっかくだから敬語もいらないよ」

「え、きっと空野さんの方が歳が上だと……」

「俺も勝手に外していたからさ。あと名前も、ね?」

俺が誘いを乗ったせいでね?で全て押し切られてしまいそうだ。でも仲良くなれそうだしこれもまた悪い気がしない。

「好はいつも散歩しているの?」 

すでに名前呼びなのは彼のマイペースさのおかげでなんだか自然と受け入れられた。俺は頷いて椅子の背もたれに寄りかかる。借りているブランケットが触り心地抜群で何度も撫でてしまう。

「趣味なんだ。何気なく考え事したり音楽聴いたり、知らない道を行ってみたり」

「それすごく楽しそう」

くすくすと笑ってしまいには君らしいなんて言われてしまう。話してまだ浅いと言うのに何もかも見透かされそうだ。

「香は……って自分の名前呼ぶみたいで変な感じだ」

「そう?あまり気にならないけど……じゃあ君は俺の名前を好きに変えたらいい」

「好きにって……んーじゃあ、香りって漢字だから、カオ!」

そこまで言い放ってハッとする。
しまった、すごい適当につけてしまった。黒いからクロ!って犬につけるみたいな。でも彼はきょとんとしたあと苦笑気味に笑った。

「名前は良いけど、好ってさ……ふふっ」

「ご、ごめん単純思考で……」

「いや、なんでも顔に出るんだもん。おかしくて」


そのまましばらく笑ってカオは大きく息を吐く。やっと呼吸が整ったらしい。

「それに犬っぽい子に犬っぽい名前付けられたから、なんだか可愛くて。ごめん笑って」

「謝る気無さそうですが……」

だってまた肩震わせて笑ってるし。
なんかパッと見大人しくて感情あんまり出さなそうなのにカオは意外とよく笑う。


彼はこの家に数年前に越してきて一人で住んでいるらしい。静かな場所が良かったからここにしたと言うが大きなショッピングモールも近いしかなり穴場だと思う。
その後も沈黙は一回もなく穏やかに過ぎていく。彼の会話はなんだか気分を良くしてくれるから不思議だ。

ハッとしてスマホの時間をみればあっという間に時間が経過していて、その日は暗くなる前にお暇した。

「また適当においで」

「散歩のゴールにしてよければ」

「良いよもちろん。夜道に気をつけて」

随分と過保護だと思いながら手を振った。数歩歩いて振り返るまだカオは立っていて微笑んでいる。また手を振って今度はイヤホンをして歩き出す。

なんとなくでも道は覚えていて迷うことはなかったけど、カオの家がある通りでは話している間も誰かが通るのを見た覚えはない。ほんとにあそこの道は人が通らないのだろう。

そして何と今日初対面だと言うのに結局最後まで喋り通して連絡先まで交換してしまった。そして通知が一件。


好、今日はありがとう。
ちゃんと帰れた?
暖かくして寝るんだよ。


「俺は子供か」


子供扱いは癪だけど、なんだかんだ笑ってしまう。
白い家の主人は花みたいにあったかくて、だから赤が良く映えるのかもしれない。
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