170 / 173
エピローグ
03
しおりを挟む
王都に戻っても、封印の儀式が終わったと発表はされなかった。僕たちが卒業して、しばらくしてからになるそうだ。十年も早いと不安に思う人がいるのではないかと国王陛下の配慮だった。儀式なのだから早まることの理由がない。
陛下の他、出発を見送ってくれた貴族の方々や父上に迎えられて謁見の間に五人が揃い、労をねぎらわれた。
封印の詳細は明かしてはならないことになっている。それは親兄弟でも同じ。何代も続いてきた決めごとは今回も守られた。何も話せることがないので、これは陛下の都合なのだ。嘘も言えないから僕たちにとってはありがたいけれど、必要以上にお礼を言われるとこそばゆい。
アルシャントと遊んでいただけの日々だった。そりゃ、精霊の森に残らなければ…と思って胸を抉られるような苦しみを味わったのは事実でも、結果、こうしてみんなで帰ってこられた。これほど、幸せなことはない。
一通り挨拶を済ませいつもの控え室に入るとアシュリーの父君と僕の父上が付いてきた。ここに父上が一緒に入ってくることは珍しい。
「どうしたんだ?」
アシュリーの父君がアシュリーに聞く。ああ、アシュリーが二人を呼んだのか。
「父上、アドラムさま、ジョナスたちも聞いて欲しい。ジュリアン…」
五人の前で僕の手を握る。
「あと一年と少しで卒業です。卒業と同時に俺はジュリアンと結婚します。その許しが欲しいんです」
真っ直ぐに父上たちを見て、深々と頭を下げる。僕もアシュリーに倣い、お願いしますと許しを乞う。
「アシュリー、ジュリアン、顔をあげなさい」
穏やかなリンメルさまの声にアシュリーの手をギュと握りしめゆっくり目を見た。
「反対はしないさ。しかし、早過ぎるのではないか?もう少し考えろ…とは言わないが、勇者の役目もあるぞ?卒業直後は忙しくなると思う」
「それだからなんです、父上。いくら考えても、ジュリアンと離れて暮らすなんて想像すらできない。だから、ジュリに言い寄る貴族たちが手出しできなくしたいんです。役目で、地方に行き、その土地の貴族が娘を夜伽にと言ってくるかもしれません。そんな危ない目に…」
「ア、アシュ!僕はそんなの断るよ?」
「食事に媚薬を仕込まれて、夜這いをかけられ既成事実…なんてのは最悪の状況だ。結婚していれば、その最悪は免れると思います。まあ、心配ではありますが、俺の伴侶なら、いくら馬鹿な貴族でも手は出さないでしょう。だから、お願いです!」
アシュリーの必死さが伝わったのか父上はわかったと言ってくれた。
僕は信用がないのだろうか?少し不満顔でアシュリーをジロリと睨めば慌ててる。
「ジュリアン?結婚はダメだった?あの時の返事は…俺の勘違い?」
オロオロと僕の機嫌をとるように両手を握り顔を覗き込む。
「もう尻に敷かれてるのか?だらしないぞ。ジュリアン、これからはわたしもそなたの父だ。いつでも遊びにおいで。イライザも喜ぶよ」
「おめでとう。わたしは、また一人息子が増えたんだな」
リンメルさまと父上の祝福の言葉にもアシュリーの落ち着きは取り戻せない。
『アシュリー…』
『な、何?ジュリアン』
『愛してる』
両手でアシュリーの手を包み、顔を見て気持ちを伝える。
『僕はそんなに信用がないの?』
『信頼してないんじゃなくて、心配なだけで…』
『僕もアシュリーの事、凄く心配』
『俺は…』
『ダメ!絶対に女の人になんかアシュリーを渡さない。指一本だってアシュリーは僕の!僕もアシュリーが心配なんだ。守られるのは嬉しいけど、ただ守られるだけは嫌。勇者だし、そんなに付け込まれたりしない。勇者じゃなくてもアシュリーとは対等がいい』
『じゃあ、結婚が嫌ってわけじゃないのか?』
『勿論、嫌なわけない。嬉しい。とっても嬉しい』
「「「おめでとう」」」
「なんだよ、俺より先に結婚か」
「まあ、遅かれ早かれそうなるのでしたら、先延ばしにする意味もないですしね」
「卒業するまでは言わない方が良いかな?クラスの奴らびっくりするだろうな」
陛下の他、出発を見送ってくれた貴族の方々や父上に迎えられて謁見の間に五人が揃い、労をねぎらわれた。
封印の詳細は明かしてはならないことになっている。それは親兄弟でも同じ。何代も続いてきた決めごとは今回も守られた。何も話せることがないので、これは陛下の都合なのだ。嘘も言えないから僕たちにとってはありがたいけれど、必要以上にお礼を言われるとこそばゆい。
アルシャントと遊んでいただけの日々だった。そりゃ、精霊の森に残らなければ…と思って胸を抉られるような苦しみを味わったのは事実でも、結果、こうしてみんなで帰ってこられた。これほど、幸せなことはない。
一通り挨拶を済ませいつもの控え室に入るとアシュリーの父君と僕の父上が付いてきた。ここに父上が一緒に入ってくることは珍しい。
「どうしたんだ?」
アシュリーの父君がアシュリーに聞く。ああ、アシュリーが二人を呼んだのか。
「父上、アドラムさま、ジョナスたちも聞いて欲しい。ジュリアン…」
五人の前で僕の手を握る。
「あと一年と少しで卒業です。卒業と同時に俺はジュリアンと結婚します。その許しが欲しいんです」
真っ直ぐに父上たちを見て、深々と頭を下げる。僕もアシュリーに倣い、お願いしますと許しを乞う。
「アシュリー、ジュリアン、顔をあげなさい」
穏やかなリンメルさまの声にアシュリーの手をギュと握りしめゆっくり目を見た。
「反対はしないさ。しかし、早過ぎるのではないか?もう少し考えろ…とは言わないが、勇者の役目もあるぞ?卒業直後は忙しくなると思う」
「それだからなんです、父上。いくら考えても、ジュリアンと離れて暮らすなんて想像すらできない。だから、ジュリに言い寄る貴族たちが手出しできなくしたいんです。役目で、地方に行き、その土地の貴族が娘を夜伽にと言ってくるかもしれません。そんな危ない目に…」
「ア、アシュ!僕はそんなの断るよ?」
「食事に媚薬を仕込まれて、夜這いをかけられ既成事実…なんてのは最悪の状況だ。結婚していれば、その最悪は免れると思います。まあ、心配ではありますが、俺の伴侶なら、いくら馬鹿な貴族でも手は出さないでしょう。だから、お願いです!」
アシュリーの必死さが伝わったのか父上はわかったと言ってくれた。
僕は信用がないのだろうか?少し不満顔でアシュリーをジロリと睨めば慌ててる。
「ジュリアン?結婚はダメだった?あの時の返事は…俺の勘違い?」
オロオロと僕の機嫌をとるように両手を握り顔を覗き込む。
「もう尻に敷かれてるのか?だらしないぞ。ジュリアン、これからはわたしもそなたの父だ。いつでも遊びにおいで。イライザも喜ぶよ」
「おめでとう。わたしは、また一人息子が増えたんだな」
リンメルさまと父上の祝福の言葉にもアシュリーの落ち着きは取り戻せない。
『アシュリー…』
『な、何?ジュリアン』
『愛してる』
両手でアシュリーの手を包み、顔を見て気持ちを伝える。
『僕はそんなに信用がないの?』
『信頼してないんじゃなくて、心配なだけで…』
『僕もアシュリーの事、凄く心配』
『俺は…』
『ダメ!絶対に女の人になんかアシュリーを渡さない。指一本だってアシュリーは僕の!僕もアシュリーが心配なんだ。守られるのは嬉しいけど、ただ守られるだけは嫌。勇者だし、そんなに付け込まれたりしない。勇者じゃなくてもアシュリーとは対等がいい』
『じゃあ、結婚が嫌ってわけじゃないのか?』
『勿論、嫌なわけない。嬉しい。とっても嬉しい』
「「「おめでとう」」」
「なんだよ、俺より先に結婚か」
「まあ、遅かれ早かれそうなるのでしたら、先延ばしにする意味もないですしね」
「卒業するまでは言わない方が良いかな?クラスの奴らびっくりするだろうな」
0
お気に入りに追加
153
あなたにおすすめの小説
英雄の帰還。その後に
亜桜黄身
BL
声はどこか聞き覚えがあった。記憶にあるのは今よりもっと少年らしい若々しさの残る声だったはずだが。
低くなった声がもう一度俺の名を呼ぶ。
「久し振りだ、ヨハネス。綺麗になったな」
5年振りに再会した従兄弟である男は、そう言って俺を抱き締めた。
──
相手が大切だから自分抜きで幸せになってほしい受けと受けの居ない世界では生きていけない攻めの受けが攻めから逃げようとする話。
押しが強めで人の心をあまり理解しないタイプの攻めと攻めより精神的に大人なせいでわがままが言えなくなった美人受け。
舞台はファンタジーですが魔王を倒した後の話なので剣や魔法は出てきません。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる