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第七章
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「ジュリアンのローブはね…」
「このローブも今までとは違うの?」
「ここでは確かめることはできないと思うけど、今までの十倍か、もっとかな…それはわからないけど、きっと役に立つと思う。僕に勇気をくれたお礼」
「お礼なんて…」
「ううん。今までわがままだった。もう寂しい、寂しいって言わない、みんなに会えるから。……五人のおかげ。それに、ジュリアンたちには…いっぱい遊んでもらった」
五本のネックレスに触れ目をつむる。
指輪がほんのり温かくなる。
ああ、繋がってるんだね。
僕も指輪を包むように両手に収める。
「これは僕の宝物。大切にするよ…。そうだ!」
アルシャントが突然みんなと離れると大きなドラゴンに変わった。五本のネックレスはその首にもしっかり見えて嬉しくなる。
「背中に乗って!」
使い魔たちは小さな姿になり、それぞれのローブに飛び込んだ。ここは空が見えるけれど館の中。どうするのかと恐々五人でアルシャントの背中に乗った。一番前でアシュリーに背中をぴったりくっ付けてドキドキする。これから起こることを予想して心臓が張り裂けそうだ。
「行くよ?」
少し低い声でそう言うとフワリと舞い上がる。力強い翼が花を揺らす風を生む。一度、二度と翼が上下するとたちまち先ほど歩いていた地面が遠くなる。
一瞬の後、空を飛んでいた。
入った時とは違い、膜を通り抜けるように空気がふわぁん揺れた後、風を感じる。今まで僕たちがいた館と勇者の館が見える。くるりと一回転して精霊の森を飛び越えた。
遠くに見えるのは深い谷と守り人の家。そして、ここからは見ることのできない王都へと繋がっている道。
「空飛んだの初めて」
「俺も」
「こんな経験なかなかできないな」
「風が気持ちいいですね」
「どこまででも行けるのか?」
五人の言葉にアルシャントは更に上空へ昇る。
「どこまででも……。でも、行けな……」
風が強くてアルシャントの声が途切れ途切れになる。僕たちの声もアルシャントに届いているかわからない。精霊の森を背にして王都へと飛んで行く。翼が上下するたびに加速するスピードに息が苦しくなる。
『アルシャント…』
急に翼を止め、咆哮を放った。
たちまち雨雲がもくもくと湧いてくる。雷が鳴り下界は激しい雨になっているみたいだ。チカチカと黄色い発光が見える。雲より高く飛んでいる僕たちは雨には当たらない。
精霊の森へ戻り、アルシャントの背中から降りてもみんなの興奮は収まらない。中でも一番はダレルだ。雨雲と雷がダレルの研究魂に火をつけたみたいだった。
「あの時、なんて言ったの?」
「あれはね…どこまででも行ける。でも、行けないって言ったの。
でもね……精霊の森ならどこまででも行けるの」
可愛いアルシャントが笑顔で言った。
その首には五色のネックレスが光っている。
それから数日を過ごし、今日は王都へ帰る日だ。
昨日の夜、お別れを言いに羊皮紙の中に入った。
「あの…ありがとうございました。明日帰ります」
「皆さんによろしく伝えてね……ああ、それは無理よね」
「そうですね」
メイヴィスの言葉にこの羊皮紙の秘密は言えないと思った。
「待ってるよ」
「なんかそれ…微妙ですね」
だって、死ぬのを待ってるって意味でしょ?ははっとあちこちで笑いが起こる。
「アルシャントが来たら、俺たちが癒してやるよ。なんてったって、全員癒しのミシェルだしな」
「そうね。でも、わたくしの時は麗しのミシェルでしたわ」
俺も麗しかよ~と賑やかな歴代のミシェルたちは楽しそうだ。
「ありがとう」
ミシェルにお礼を言われて何のお礼かわからないからじっと顔を見る。
「あいつが素直にここに来ることができたのはジュリアンのお陰だ。俺にはどうしてやることもできなかった。後から来た者も同じ。あいつもバカじゃないし、もう小さな子どもでもない。それでも…今回は成長途中の不安定な心が崩れたんだ。遅い反抗期みたいなもんだな」
これからもきちんと国を護るようにと激励を受け、皆さんにさよならを言って別れた。
百年後に会える。
皆さんに誇れるよう精一杯生きよう。
部屋に戻るとアシュリーが待っていてくれた。
「無事終わって良かったね」
「そうだな」
「なんか思いがけないことだらけで、大変だったけど…楽しかったね」
「俺は気が気じゃなかったけどな」
「ふふっ、アシュリーは心配性だね」
「ジュリの事はどんなことでも真剣だよ」
「ありがとう。アシュリーがいてくれたから、僕はここにいるんだよ。これからもよろしくね」
そして僕たちはアルシャントにお別れをして、精霊の森とさようならした。
もう訪れることはできない。
精霊と人間では…精霊の森と人間界では流れる時が違う。精霊がこちらに来るのは問題ないけれど、僕たちは何度もあの結界を超えられない。
「元気でね」
「また、夢で…夢の中に会いに行くよ」
「うん。待ってる」
「このローブも今までとは違うの?」
「ここでは確かめることはできないと思うけど、今までの十倍か、もっとかな…それはわからないけど、きっと役に立つと思う。僕に勇気をくれたお礼」
「お礼なんて…」
「ううん。今までわがままだった。もう寂しい、寂しいって言わない、みんなに会えるから。……五人のおかげ。それに、ジュリアンたちには…いっぱい遊んでもらった」
五本のネックレスに触れ目をつむる。
指輪がほんのり温かくなる。
ああ、繋がってるんだね。
僕も指輪を包むように両手に収める。
「これは僕の宝物。大切にするよ…。そうだ!」
アルシャントが突然みんなと離れると大きなドラゴンに変わった。五本のネックレスはその首にもしっかり見えて嬉しくなる。
「背中に乗って!」
使い魔たちは小さな姿になり、それぞれのローブに飛び込んだ。ここは空が見えるけれど館の中。どうするのかと恐々五人でアルシャントの背中に乗った。一番前でアシュリーに背中をぴったりくっ付けてドキドキする。これから起こることを予想して心臓が張り裂けそうだ。
「行くよ?」
少し低い声でそう言うとフワリと舞い上がる。力強い翼が花を揺らす風を生む。一度、二度と翼が上下するとたちまち先ほど歩いていた地面が遠くなる。
一瞬の後、空を飛んでいた。
入った時とは違い、膜を通り抜けるように空気がふわぁん揺れた後、風を感じる。今まで僕たちがいた館と勇者の館が見える。くるりと一回転して精霊の森を飛び越えた。
遠くに見えるのは深い谷と守り人の家。そして、ここからは見ることのできない王都へと繋がっている道。
「空飛んだの初めて」
「俺も」
「こんな経験なかなかできないな」
「風が気持ちいいですね」
「どこまででも行けるのか?」
五人の言葉にアルシャントは更に上空へ昇る。
「どこまででも……。でも、行けな……」
風が強くてアルシャントの声が途切れ途切れになる。僕たちの声もアルシャントに届いているかわからない。精霊の森を背にして王都へと飛んで行く。翼が上下するたびに加速するスピードに息が苦しくなる。
『アルシャント…』
急に翼を止め、咆哮を放った。
たちまち雨雲がもくもくと湧いてくる。雷が鳴り下界は激しい雨になっているみたいだ。チカチカと黄色い発光が見える。雲より高く飛んでいる僕たちは雨には当たらない。
精霊の森へ戻り、アルシャントの背中から降りてもみんなの興奮は収まらない。中でも一番はダレルだ。雨雲と雷がダレルの研究魂に火をつけたみたいだった。
「あの時、なんて言ったの?」
「あれはね…どこまででも行ける。でも、行けないって言ったの。
でもね……精霊の森ならどこまででも行けるの」
可愛いアルシャントが笑顔で言った。
その首には五色のネックレスが光っている。
それから数日を過ごし、今日は王都へ帰る日だ。
昨日の夜、お別れを言いに羊皮紙の中に入った。
「あの…ありがとうございました。明日帰ります」
「皆さんによろしく伝えてね……ああ、それは無理よね」
「そうですね」
メイヴィスの言葉にこの羊皮紙の秘密は言えないと思った。
「待ってるよ」
「なんかそれ…微妙ですね」
だって、死ぬのを待ってるって意味でしょ?ははっとあちこちで笑いが起こる。
「アルシャントが来たら、俺たちが癒してやるよ。なんてったって、全員癒しのミシェルだしな」
「そうね。でも、わたくしの時は麗しのミシェルでしたわ」
俺も麗しかよ~と賑やかな歴代のミシェルたちは楽しそうだ。
「ありがとう」
ミシェルにお礼を言われて何のお礼かわからないからじっと顔を見る。
「あいつが素直にここに来ることができたのはジュリアンのお陰だ。俺にはどうしてやることもできなかった。後から来た者も同じ。あいつもバカじゃないし、もう小さな子どもでもない。それでも…今回は成長途中の不安定な心が崩れたんだ。遅い反抗期みたいなもんだな」
これからもきちんと国を護るようにと激励を受け、皆さんにさよならを言って別れた。
百年後に会える。
皆さんに誇れるよう精一杯生きよう。
部屋に戻るとアシュリーが待っていてくれた。
「無事終わって良かったね」
「そうだな」
「なんか思いがけないことだらけで、大変だったけど…楽しかったね」
「俺は気が気じゃなかったけどな」
「ふふっ、アシュリーは心配性だね」
「ジュリの事はどんなことでも真剣だよ」
「ありがとう。アシュリーがいてくれたから、僕はここにいるんだよ。これからもよろしくね」
そして僕たちはアルシャントにお別れをして、精霊の森とさようならした。
もう訪れることはできない。
精霊と人間では…精霊の森と人間界では流れる時が違う。精霊がこちらに来るのは問題ないけれど、僕たちは何度もあの結界を超えられない。
「元気でね」
「また、夢で…夢の中に会いに行くよ」
「うん。待ってる」
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