158 / 173
第七章
27
しおりを挟む
「あのここは?」
「ここはどこなの?」
「えっ?」
逆に同じ質問を返されて驚いた。辺りを見ると実家の庭だ。いつも遊んだ噴水やコテージが見える。青空と、心地よい風はこの庭が本物であるように思わせる。
「実家です」
「あら、あなたアドラム家なのね?わたくしもここで遊んだわ。このコテージは当時とは違うけれどこの噴水は同じ。あの池も…懐かしいわ。お花畑は今も綺麗かしら?」
混乱する。ここが実家ではないのはわかる。精霊の森の勇者の館なのだから。
「ここは、どこでもないの。強いて言うならあなたの…まだ、名前聞いてなかったわね…頭の中」
「あっ、すみません。ジュリアン・アドラムです」
「ジュリアンね、よろしく。何か聞きたいことはある?」
聞きたいことは山ほどある。軽くパニックだ。グルグルと頭を回転させ、この状況を確認する。不安な状況でお互いの部屋に分かれた方が良いと思ったのはこれのためなの?アシュリーもジョナスたちも同じような経験をしているのだろうか?勇者の名前が書かれたプレートはそれぞれが間違いなくここに来るため。ダレルはこの館に掛かる魔法を教えてもらってるんだろうか?この羊皮紙の魔法も興味津々で聞いていそうだ。
「そうね、だいたい同じだと思うわよ。アレースは謁見の間が多く現れるみたいだけどね」
「そうなんですか…。あ、あの…メイヴィスさまは?」
「わたしよ」
一人が僕に近寄り手を握る。
「は、初めまして」
「あら、緊張しなくても良いのよ。あなたもミシェルなのだから」
「はい」
「ジュリアン…と言ったわね?ピーターの事を聞いたのね?」
「はい。アシュリーが…えっと、ミネルヴァですけど…、アシュリーが教えてくれました」
「アレースではないの?では、ハーマンに聞いたのかしら?」
「はい。アシュリーはリンメルに生まれましたから。いろいろ教えてもらったって言ってました」
「ハーマンは長生きしたのね……」
しみじみと呟かれる言葉はただ懐かしいって気持ちだけのような気がしてホッとする。
「陛下が、すまないってアシュリーに」
「まあ、そんなこと…」
ふふっと笑って、男って仕方ないわねと僕を抱きしめる。僕も男ですけど…。
「ねぇ…アレースには誰か側に居てくれる人はいるの?」
「はい。殿下の気持ちをはっきりと聞いたわけではありませんが僕の従姉妹がちょくちょく遊びに行ってるみたいです」
「その子は辛くないのかしら?」
「えっ?」
「わたしは…ミシェルだとわかる前はいろいろ言われてね。殿下にお断りしたこともあったのよ」
そう言えば、そんなこと聞いた…。
「ローザはグレネル公の娘なので王宮で育ったのです。だから、噂にはなっていないと思います」
「そうなの…。良かったわ。ピーターがね、心配してたから」
心からの笑顔は僕を安心させた。お幸せだったんだ。
「えっと…ここでは他の勇者の方には会えないのですか?」
「みんなが?」
「一斉に?」
「それはないわね」
「初代さまがね、次に来る勇者のためにこの魔法の羊皮紙を作られたの。自分たちの役割を見失わないように。今ではきっちり確立されてそのようなことはないみたいだけれど、最初の頃はいろいろ迷いもあったそうだからこの羊皮紙は役に立ったわ」
「今では百年に一度の楽しみね」
「いつも、ここに集まっているわけではないのですか?」
「あら、勇者が来た時だけよ」
「そうでなけりゃ、疲れるわ」
つ、疲れるのですね…。
「あの…初代さまは?」
「俺だよ」
あっ、あの時の人だ!
何故だろう、涙が出てきた。
「可愛いね。何泣いてるの?ひょっとして、あいつが何か企んでるの?」
あいつってアルシャントのことなのだろうか?
この人は強い。
僕はアシュリーと離れるなんて無理だ。
たとえ国が滅びても…。
「僕とあなたは似ていますか?」
涙を手で拭い、ミシェルを見る。
「みんなはどう思う?」
すると様々な声がする。
「似てるわ」
「身長は違うけどね」
「ここにいるみんな、どことなく似てるからね」
言われて見回すと似ているかもしない。女の人が多いから僕と似ているとは思わないけれど、ミシェルも他の男の人も美人さんだ。
「ここはどこなの?」
「えっ?」
逆に同じ質問を返されて驚いた。辺りを見ると実家の庭だ。いつも遊んだ噴水やコテージが見える。青空と、心地よい風はこの庭が本物であるように思わせる。
「実家です」
「あら、あなたアドラム家なのね?わたくしもここで遊んだわ。このコテージは当時とは違うけれどこの噴水は同じ。あの池も…懐かしいわ。お花畑は今も綺麗かしら?」
混乱する。ここが実家ではないのはわかる。精霊の森の勇者の館なのだから。
「ここは、どこでもないの。強いて言うならあなたの…まだ、名前聞いてなかったわね…頭の中」
「あっ、すみません。ジュリアン・アドラムです」
「ジュリアンね、よろしく。何か聞きたいことはある?」
聞きたいことは山ほどある。軽くパニックだ。グルグルと頭を回転させ、この状況を確認する。不安な状況でお互いの部屋に分かれた方が良いと思ったのはこれのためなの?アシュリーもジョナスたちも同じような経験をしているのだろうか?勇者の名前が書かれたプレートはそれぞれが間違いなくここに来るため。ダレルはこの館に掛かる魔法を教えてもらってるんだろうか?この羊皮紙の魔法も興味津々で聞いていそうだ。
「そうね、だいたい同じだと思うわよ。アレースは謁見の間が多く現れるみたいだけどね」
「そうなんですか…。あ、あの…メイヴィスさまは?」
「わたしよ」
一人が僕に近寄り手を握る。
「は、初めまして」
「あら、緊張しなくても良いのよ。あなたもミシェルなのだから」
「はい」
「ジュリアン…と言ったわね?ピーターの事を聞いたのね?」
「はい。アシュリーが…えっと、ミネルヴァですけど…、アシュリーが教えてくれました」
「アレースではないの?では、ハーマンに聞いたのかしら?」
「はい。アシュリーはリンメルに生まれましたから。いろいろ教えてもらったって言ってました」
「ハーマンは長生きしたのね……」
しみじみと呟かれる言葉はただ懐かしいって気持ちだけのような気がしてホッとする。
「陛下が、すまないってアシュリーに」
「まあ、そんなこと…」
ふふっと笑って、男って仕方ないわねと僕を抱きしめる。僕も男ですけど…。
「ねぇ…アレースには誰か側に居てくれる人はいるの?」
「はい。殿下の気持ちをはっきりと聞いたわけではありませんが僕の従姉妹がちょくちょく遊びに行ってるみたいです」
「その子は辛くないのかしら?」
「えっ?」
「わたしは…ミシェルだとわかる前はいろいろ言われてね。殿下にお断りしたこともあったのよ」
そう言えば、そんなこと聞いた…。
「ローザはグレネル公の娘なので王宮で育ったのです。だから、噂にはなっていないと思います」
「そうなの…。良かったわ。ピーターがね、心配してたから」
心からの笑顔は僕を安心させた。お幸せだったんだ。
「えっと…ここでは他の勇者の方には会えないのですか?」
「みんなが?」
「一斉に?」
「それはないわね」
「初代さまがね、次に来る勇者のためにこの魔法の羊皮紙を作られたの。自分たちの役割を見失わないように。今ではきっちり確立されてそのようなことはないみたいだけれど、最初の頃はいろいろ迷いもあったそうだからこの羊皮紙は役に立ったわ」
「今では百年に一度の楽しみね」
「いつも、ここに集まっているわけではないのですか?」
「あら、勇者が来た時だけよ」
「そうでなけりゃ、疲れるわ」
つ、疲れるのですね…。
「あの…初代さまは?」
「俺だよ」
あっ、あの時の人だ!
何故だろう、涙が出てきた。
「可愛いね。何泣いてるの?ひょっとして、あいつが何か企んでるの?」
あいつってアルシャントのことなのだろうか?
この人は強い。
僕はアシュリーと離れるなんて無理だ。
たとえ国が滅びても…。
「僕とあなたは似ていますか?」
涙を手で拭い、ミシェルを見る。
「みんなはどう思う?」
すると様々な声がする。
「似てるわ」
「身長は違うけどね」
「ここにいるみんな、どことなく似てるからね」
言われて見回すと似ているかもしない。女の人が多いから僕と似ているとは思わないけれど、ミシェルも他の男の人も美人さんだ。
0
お気に入りに追加
153
あなたにおすすめの小説
英雄の帰還。その後に
亜桜黄身
BL
声はどこか聞き覚えがあった。記憶にあるのは今よりもっと少年らしい若々しさの残る声だったはずだが。
低くなった声がもう一度俺の名を呼ぶ。
「久し振りだ、ヨハネス。綺麗になったな」
5年振りに再会した従兄弟である男は、そう言って俺を抱き締めた。
──
相手が大切だから自分抜きで幸せになってほしい受けと受けの居ない世界では生きていけない攻めの受けが攻めから逃げようとする話。
押しが強めで人の心をあまり理解しないタイプの攻めと攻めより精神的に大人なせいでわがままが言えなくなった美人受け。
舞台はファンタジーですが魔王を倒した後の話なので剣や魔法は出てきません。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる