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第七章
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ベッドを前にジョナス以外の四人が自己紹介する。
「初めまして、ジュリアン・ミシェルです」
「直接会うのは初めてだけど、初めてじゃないよ?」
「はい。多分、何回も」
「こっちに来て?」
アシュリーが僕のすぐ後ろに付いて来てくれる。一緒にアルシャントに近寄ると、途端にシルバーの光を放ち小さな姿に変わった。
二人で同じくらいの背丈のアルシャントの前に立つ。
「ああ、あの時の姿ですね。とても綺麗です」
「ミシェルもこの色を気に入っていて、いつも素敵だねって褒めてくれた」
あれ?
元気そうに見えたけれど、気は弱ってる。
『アシュ、アルシャントが弱ってるから…。もうちょっと近寄って良い?』
『だめだ!それに弱ってるのか?』
『うん。…大丈夫だよ。一緒に…ねっ?』
「内緒話は僕には意味がないよ。何をしゃべってるかわかるから」
「……そうなの?」
アルシャントの言葉に驚いた。
「じゃあ、みんなで一緒に。それなら良いでしょ?」
「わかった」
五人でここに来る目的は、五人揃ってこそ意味があるからなんだ。僕だけじゃない。チラッとイーノックを見ると今までの二人のやり取りを聞いていないからびっくりしている。
「あ、あのね、アルシャントが弱ってるから…近くに、一緒に行って欲しいんだ」
「わかりました」
五人でアルシャントを囲むように立つと、誰ともなしに手を繋ぎ気を放出させる。
漆黒、白銀、黄金、翡翠、瑠璃の五色が渦を巻くようにアルシャントの周りを回る。
綺麗だ。
混ざり合うことはない。
それぞれの色が互いの色を侵すことなく、鮮やかなグラデーションを作る。やがて五色の輪ができた。その輪はゆっくりとアルシャントを包む。弱っていた身体が少しずつ回復するのがわかる。小さくなった身体で翼を広げると音のない咆哮を放つ。
その気を感じ、五人の繋がれた手は離れた。僕とアシュリーの手だけは繋がれたままだ。
「立派です」
シルベスターが労わるようにジョナスに寄り添う。それぞれの使い魔がすぐ後ろで勇者を見守っていた。
「ありがとう。ここまで来てくれて。身体が凄く楽になった。少し眠るよ」
そう言って、洞窟の中に入って行く。
……あの…、ベッドは?
ベッドが寝るためのものだと知らないのだろうか?勇者の館にあるだろうから見ているはずだと思うけど。まだ、二階には上がってないから確認していないけれど、寝室があるはずだ。構わないけれど、もしかしてここに来てテントを出すのかな?
「ああ、二階にそれぞれ寝室がある。ジュリアンの部屋はミシェルと書いてある部屋だ」
ギルバートが教えてくれた。
「アルシャントも一緒に来たら良いのに」
「アルシャントは勇者の館に入ったことがないんだ」
「さっき、あの大きなお家は勇者の館を参考にしてって言ってたよね?」
「外観だけだ。そっくりだったろ?中は適当さ。森の中だったり、ミシェルから聞いた下界のことをアルシャントが勝手に想像した家だったり。俺たちが教えたりした人間の生活や街並みだったり…家の中に外があるんだ。見た目ほど広くない時もある。ダレルが出すテントの逆だな。街並みだったら驚くほど広い時もあるぞ。空も見える」
「そうなんだ」
「後で入ってみると良いよ。今回はどんなだろうな。楽しみだ。今は勇者の館で休め。力を使ってみんなだいぶ疲れてる。ジュリアンは癒すのが得意だから、力の使い方も慣れてるけどみんなはそうはいかないさ」
「うん。アシュ…」
手を差し出すとその手を引いて抱きしめてくれる。アシュリーの腕の中に閉じ込められる。
「ジュリアン、愛してる」
「どうしたの?」
いつもならこんなふうに僕にだけ伝える愛の言葉は心に直接話しかけてくれるのに。
「アルシャントには聞こえてるんだろ?なら、ここにいる時は逆に言葉にする方が良いかなって」
「そうだね。小さな声なら聞こえないかな?」
…僕も愛してる…。
耳元で囁く内緒話は新鮮だ。
近くにいても、少し離れても二人きりで会話できるから、耳元で小さな声でしゃべるのは初めてかもしれない。
「初めまして、ジュリアン・ミシェルです」
「直接会うのは初めてだけど、初めてじゃないよ?」
「はい。多分、何回も」
「こっちに来て?」
アシュリーが僕のすぐ後ろに付いて来てくれる。一緒にアルシャントに近寄ると、途端にシルバーの光を放ち小さな姿に変わった。
二人で同じくらいの背丈のアルシャントの前に立つ。
「ああ、あの時の姿ですね。とても綺麗です」
「ミシェルもこの色を気に入っていて、いつも素敵だねって褒めてくれた」
あれ?
元気そうに見えたけれど、気は弱ってる。
『アシュ、アルシャントが弱ってるから…。もうちょっと近寄って良い?』
『だめだ!それに弱ってるのか?』
『うん。…大丈夫だよ。一緒に…ねっ?』
「内緒話は僕には意味がないよ。何をしゃべってるかわかるから」
「……そうなの?」
アルシャントの言葉に驚いた。
「じゃあ、みんなで一緒に。それなら良いでしょ?」
「わかった」
五人でここに来る目的は、五人揃ってこそ意味があるからなんだ。僕だけじゃない。チラッとイーノックを見ると今までの二人のやり取りを聞いていないからびっくりしている。
「あ、あのね、アルシャントが弱ってるから…近くに、一緒に行って欲しいんだ」
「わかりました」
五人でアルシャントを囲むように立つと、誰ともなしに手を繋ぎ気を放出させる。
漆黒、白銀、黄金、翡翠、瑠璃の五色が渦を巻くようにアルシャントの周りを回る。
綺麗だ。
混ざり合うことはない。
それぞれの色が互いの色を侵すことなく、鮮やかなグラデーションを作る。やがて五色の輪ができた。その輪はゆっくりとアルシャントを包む。弱っていた身体が少しずつ回復するのがわかる。小さくなった身体で翼を広げると音のない咆哮を放つ。
その気を感じ、五人の繋がれた手は離れた。僕とアシュリーの手だけは繋がれたままだ。
「立派です」
シルベスターが労わるようにジョナスに寄り添う。それぞれの使い魔がすぐ後ろで勇者を見守っていた。
「ありがとう。ここまで来てくれて。身体が凄く楽になった。少し眠るよ」
そう言って、洞窟の中に入って行く。
……あの…、ベッドは?
ベッドが寝るためのものだと知らないのだろうか?勇者の館にあるだろうから見ているはずだと思うけど。まだ、二階には上がってないから確認していないけれど、寝室があるはずだ。構わないけれど、もしかしてここに来てテントを出すのかな?
「ああ、二階にそれぞれ寝室がある。ジュリアンの部屋はミシェルと書いてある部屋だ」
ギルバートが教えてくれた。
「アルシャントも一緒に来たら良いのに」
「アルシャントは勇者の館に入ったことがないんだ」
「さっき、あの大きなお家は勇者の館を参考にしてって言ってたよね?」
「外観だけだ。そっくりだったろ?中は適当さ。森の中だったり、ミシェルから聞いた下界のことをアルシャントが勝手に想像した家だったり。俺たちが教えたりした人間の生活や街並みだったり…家の中に外があるんだ。見た目ほど広くない時もある。ダレルが出すテントの逆だな。街並みだったら驚くほど広い時もあるぞ。空も見える」
「そうなんだ」
「後で入ってみると良いよ。今回はどんなだろうな。楽しみだ。今は勇者の館で休め。力を使ってみんなだいぶ疲れてる。ジュリアンは癒すのが得意だから、力の使い方も慣れてるけどみんなはそうはいかないさ」
「うん。アシュ…」
手を差し出すとその手を引いて抱きしめてくれる。アシュリーの腕の中に閉じ込められる。
「ジュリアン、愛してる」
「どうしたの?」
いつもならこんなふうに僕にだけ伝える愛の言葉は心に直接話しかけてくれるのに。
「アルシャントには聞こえてるんだろ?なら、ここにいる時は逆に言葉にする方が良いかなって」
「そうだね。小さな声なら聞こえないかな?」
…僕も愛してる…。
耳元で囁く内緒話は新鮮だ。
近くにいても、少し離れても二人きりで会話できるから、耳元で小さな声でしゃべるのは初めてかもしれない。
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