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第七章
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「まだ着かないのか?」
レイモンドが直ぐに着くと言ったけれど、なかなか到着しない。森は暗くはなく全てを見ることができる。見たことのないいろんな種類の木々が生育していて最初は楽しかったのだけど…、周りの景色は代わり映えしない。
アリルの花や珍しい見たことのない花が群生していたり、深い森の中は陽の光が所々に筋を作り綺麗ではあるけれど少々飽きてきた。
「後少しだよ。アルシャントがジュリアンとアシュリーの仲良さ気な雰囲気に意地悪してるだけだ」
「なんだそれ…」
ダレルがボヤいたその時だった。
「あっ!」
「どうしたの、ジュリ?」
アシュリーが後ろで、僕の腰を抱いたままその力を強めた。
「この景色は見たことある」
水音が聞こえてきた。気持ち良い風が吹いていて…そんなとこまで同じ。小鳥の鳴く声も、風に揺れる葉の微かな音もあの時見た風景そのまま。ただ、そこには誰も居ない。
「見たことあるって?」
「うん、僕がミシェルだと自覚した時、見えたんだ…。ミシェルさまとミネルヴァさまの…多分別れの場面だったと思う。ここで、お別れされたんだ」
『ジュリ…』
『大丈夫…ほら、僕の魔力、平気でしょ?』
『そうだな』
抱きしめられて、心も魔力も落ち着いている。背中にずっと感じるアシュリーの体温に、体に絡まる逞しい腕に、時々触れる唇に…全てが僕を守ってる。
「アルシャントには俺たちの事が見えているのですか?」
イーノックの質問に勇者たちは一様に頷く。
だって、おかしいよね?
気に食わないと遅くしちゃうの?
意思が支配する森。
願えば叶うってこと?
僕の願いも叶えて欲しい。
僕の願いはただ一つ、アシュリーと離れたくない。
ミシェルとミネルヴァの願いは叶えてくれなかった…。
自分の我を通したアルシャント。
反省していると言う。
少し行くと川沿いの道に出る。今まで森の中で直接太陽の光が入らなかった。暗くはなかったけれど、森を抜けひらけた場所に出ると、突然の眩しさに太陽に手をかざす。
蝶がヒラヒラと舞っている。
初めて見る滝はとても迫力があり、滝壺に水が落ちるさまは綺麗だ。三段になった滝は様々な形状の地形で複雑な動きをする。
見たことのあった景色から程なく着いたここは、草は生い茂っているけれど鬱蒼とした…と言う感じはない。誰にも踏まれないから道もできないし、草が枯れることもない。森の中も獣道さえなかった。
使い魔たちは大きな身体だけれど、落ち葉や枯れ枝を踏む音は小さく、足音もほとんどしない。いつもその音を気にしたことはなかったけれど、そう言えば大きな足音は聞いたことはなかった。
そこに一軒の建物がポツンと建っている。
森に入って初めての人工的なものだ。アルシャントの住まいは想像とは違っていた。洞窟のようなところだと思っていたのに、石造りの立派な家だった。二階建ての重厚な建物は、煙突から煙は出ていないけれど、絵本から飛び出したような昔を連想させる家だった。窓にはカーテンがかかり中は見えない。反対側に行くと玄関があった。玄関扉は開け放してある。中を伺うと、直ぐそこはテーブルが置かれていた。
「ここは勇者のための館だ。歴代の勇者が様々な魔法を掛けてるから、中は快適に保ってるよ」
ギルバートの言葉に納得した。
アルシャントの家じゃなかったんだ。
「お邪魔します…」
恐る恐る中に入ると大きなテーブルに椅子が五脚置いてある。テーブルと飾り棚の上、壁に掛かっているランプが一斉に灯る。扉が開いていたのは僕たちを迎え入れるためだったそうだ。
バーンズ先生の部屋で掃除していたのと同じように箒がパッパッとチリを掃く。既に綺麗だからなのか、その埃を浄化する魔法が掛けられているのか、部屋の中に埃っぽさはなかった。
「本当だ、綺麗だな」
ジョナスがテーブルの上に指を這わす。百年の埃はなかった。使われない家や家財は傷みやすいと言うけれど、木製のこのテーブルも椅子も古臭さは感じない。凄く豪華なアンティーク家具だ。隣にキッチンがあり、そこにはテーブルはない。と言うことは、ここで食事もするのだろう。
「この家はアレースたちが建てたんだ」
レイモンドが直ぐに着くと言ったけれど、なかなか到着しない。森は暗くはなく全てを見ることができる。見たことのないいろんな種類の木々が生育していて最初は楽しかったのだけど…、周りの景色は代わり映えしない。
アリルの花や珍しい見たことのない花が群生していたり、深い森の中は陽の光が所々に筋を作り綺麗ではあるけれど少々飽きてきた。
「後少しだよ。アルシャントがジュリアンとアシュリーの仲良さ気な雰囲気に意地悪してるだけだ」
「なんだそれ…」
ダレルがボヤいたその時だった。
「あっ!」
「どうしたの、ジュリ?」
アシュリーが後ろで、僕の腰を抱いたままその力を強めた。
「この景色は見たことある」
水音が聞こえてきた。気持ち良い風が吹いていて…そんなとこまで同じ。小鳥の鳴く声も、風に揺れる葉の微かな音もあの時見た風景そのまま。ただ、そこには誰も居ない。
「見たことあるって?」
「うん、僕がミシェルだと自覚した時、見えたんだ…。ミシェルさまとミネルヴァさまの…多分別れの場面だったと思う。ここで、お別れされたんだ」
『ジュリ…』
『大丈夫…ほら、僕の魔力、平気でしょ?』
『そうだな』
抱きしめられて、心も魔力も落ち着いている。背中にずっと感じるアシュリーの体温に、体に絡まる逞しい腕に、時々触れる唇に…全てが僕を守ってる。
「アルシャントには俺たちの事が見えているのですか?」
イーノックの質問に勇者たちは一様に頷く。
だって、おかしいよね?
気に食わないと遅くしちゃうの?
意思が支配する森。
願えば叶うってこと?
僕の願いも叶えて欲しい。
僕の願いはただ一つ、アシュリーと離れたくない。
ミシェルとミネルヴァの願いは叶えてくれなかった…。
自分の我を通したアルシャント。
反省していると言う。
少し行くと川沿いの道に出る。今まで森の中で直接太陽の光が入らなかった。暗くはなかったけれど、森を抜けひらけた場所に出ると、突然の眩しさに太陽に手をかざす。
蝶がヒラヒラと舞っている。
初めて見る滝はとても迫力があり、滝壺に水が落ちるさまは綺麗だ。三段になった滝は様々な形状の地形で複雑な動きをする。
見たことのあった景色から程なく着いたここは、草は生い茂っているけれど鬱蒼とした…と言う感じはない。誰にも踏まれないから道もできないし、草が枯れることもない。森の中も獣道さえなかった。
使い魔たちは大きな身体だけれど、落ち葉や枯れ枝を踏む音は小さく、足音もほとんどしない。いつもその音を気にしたことはなかったけれど、そう言えば大きな足音は聞いたことはなかった。
そこに一軒の建物がポツンと建っている。
森に入って初めての人工的なものだ。アルシャントの住まいは想像とは違っていた。洞窟のようなところだと思っていたのに、石造りの立派な家だった。二階建ての重厚な建物は、煙突から煙は出ていないけれど、絵本から飛び出したような昔を連想させる家だった。窓にはカーテンがかかり中は見えない。反対側に行くと玄関があった。玄関扉は開け放してある。中を伺うと、直ぐそこはテーブルが置かれていた。
「ここは勇者のための館だ。歴代の勇者が様々な魔法を掛けてるから、中は快適に保ってるよ」
ギルバートの言葉に納得した。
アルシャントの家じゃなかったんだ。
「お邪魔します…」
恐る恐る中に入ると大きなテーブルに椅子が五脚置いてある。テーブルと飾り棚の上、壁に掛かっているランプが一斉に灯る。扉が開いていたのは僕たちを迎え入れるためだったそうだ。
バーンズ先生の部屋で掃除していたのと同じように箒がパッパッとチリを掃く。既に綺麗だからなのか、その埃を浄化する魔法が掛けられているのか、部屋の中に埃っぽさはなかった。
「本当だ、綺麗だな」
ジョナスがテーブルの上に指を這わす。百年の埃はなかった。使われない家や家財は傷みやすいと言うけれど、木製のこのテーブルも椅子も古臭さは感じない。凄く豪華なアンティーク家具だ。隣にキッチンがあり、そこにはテーブルはない。と言うことは、ここで食事もするのだろう。
「この家はアレースたちが建てたんだ」
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