天使のローブ

茉莉花 香乃

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第七章

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いよいよだ。
緊張する。

北の山に入ったら、ギルバートから離れてはいけない。

「お気を付けて。行ってらっしゃいませ」
「「行ってきます」」

リミントン夫妻に見送られて出発した一行は、先ず自らの足で森に入る。使い魔に乗ったままなんて失礼なことらしい。挨拶もなしに他人の家に入るようなもの。

何かの儀式のように、ひざまずいて左手を地面に付ける。すると、まるで脈打つようにドクドクと力が伝わり、力強く存在を主張する。

一陣の風が五人の周りを舐めるように一周すると去って行った。

たちまち、今まで感じなかった精霊の気配があちこちでした。伺うように木の陰からこちらを見ている可愛い精霊が迎えてくれる。森に入る許可が下りたということなのかな。言葉では上手く言い表せないけど、今までとは違う風が吹く。夢で見た景色とは違うけれど、何故だろう…懐かしく感じる。

『よく来たね…待ってたよ……』
「今の声は?」
「声なんて聞こえたか?」

ダレルの返事に戸惑った。

「聞こえたんだ。多分…アルシャントの声だと思う。よく来たね、待ってたよって」

アシュリーが僕を抱きしめた。まるでアルシャントに自分のだと主張するかのように、その腕は強く抱きしめる。僕もアシュリーが大切な存在だとわかってもらうために、腕を回し抱きついた。胸に顔を擦り付け、アシュリーの匂いを鼻腔いっぱい吸い込む。顔を上げるとアシュリーと目が合った。微笑むとおでこ同士をコツンと当て、頭を一撫でして離れた。

ここに来て僕の魔力は落ち着いている。アシュリーが付いててくれる。ダレルが、イーノックが、ジョナスが、そして五匹の使い魔が。

「ここからが本番だ。気を引き締めてな」

ジョナスの言葉にみんなで頷く。

「アシュリー、俺の背中に乗れ」

ギルバートが僕を乗せた後、アシュリーに言う。

「わかった」

大きな姿のギルバートは二人乗っても余裕だ。アシュリーに腰を抱かれ、安心感に包まれた。何があっても一緒に…。耳元で囁く声に『うん、一緒』と答えた。

「どのくらいで着くんだ」

ダレルの質問にレイモンドが答える。

「今回は早いんじゃないかな」
「今回って、毎回違うのか?」
「いや、そうじゃない」
「通る道が違うとか?」
「ここを右に向かっても、左に向かっても着く場所は同じだ」
「おいおい、わざわざ遠回りして行く時があるってことなのか?今回はやめてくれよ」
「違う。道はないんだ」
「迷ったってことか?」

いつまでも続くダレルの質問にシルベスターが代わりに答える。

「この森は意思が支配しています。特にアルシャントの。招かれざる客は何日経っても目的の場所には着けないし、出口もわからなくなる。そもそも、目的の場所などなく訪れるのですけれどね」
「怖いなそれ」
「あなたたちは正式に招き入れられたのだから、そんな心配はないです。それにわたしたちが付いています」

距離ではないんだ。だから五匹はゆっくりと進む。まるで景色を楽しむように、穏やかな行進だ。僕たちの移動に合わせて付いて来る愛くるしい精霊や、木の上で威嚇してくる気の強そうな精霊がいる。その姿は様々で大きさもいろいろ。この森の中では姿を偽る必要はないから、多分今見えているのが本来の姿なのだろう。

「話しかけても怒らない?」
「そうだな…あっ、あそこに…おーいヴァージル・エントウィッスル・レイヴンクロウト、久しぶりだな。元気か?」
「おや、ギルバート・イヴァンジェリン・ジョンストーンじゃないか。もうそんな季節なのか?おや、マクシミリアン・バーソロミュー・レインウォーターも一緒かい?喧嘩したって聞いたから心配してたんだ。良かった、良かった。それより、アルシャント・カーラ・ドランスフィード・セネティル=カノファムの機嫌が悪くてね。困ったもんだ。でも、お前さんたちが来たから、その機嫌も治るだろうさ」

精霊たちは長い名前を縮めて言ったりしない。

「ファーストネームだけで呼ばないんだね」
「俺たちはその全てが名前なんだ」
「僕はギルって呼ぶよ?嫌だった?」
「ジュリアンたちはまだ言葉もしゃべれない時から一緒にいる。そんな幼児には無理だろ?」

つまりは仕方なくってことなのか。五匹がお互いをファーストネームだけで呼ぶのは、郷に入れば郷に従えってことなのか?
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