天使のローブ

茉莉花 香乃

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第七章

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「ねぇ…お二人は幸せだったよね?」

アシュリーに聞いても仕方ないことだけど、どうしても確かめたかった。

「どうかな?俺はわからない。爺さんはそこまで見せてくれなかった。たださ、そこまでして手に入れたメイヴィスさまが側にいるのに、ピーター殿下は死ぬまで不安と戦ったと思う。ハーマンに取られるんじゃないかって、心休まらなかったんじゃないかな。きっと、メイヴィスさまはそんなことしなかったと思うけど」
「ねぇ…」
「なに?」
「お二人は…その……なのかな?」
「ふふっ、ジュリは恥ずかしがり屋なんだな。さっきまであんなに乱れてたのに」
「や、やん…言わないで」
「二人の関係は…夫婦だろ?愛し合われてたさ、きっと。子どもができなかったのは…自然に任せたらそうなっただけのことさ。子どもを授かれない夫婦もいるだろう?それが良かったのか、悪かったのかわからないけど」
「そうだね、僕たちが今何を言っても仕方のないことだよね」

翌朝、ドアを開けると廊下にジョナスが立っていた。僕たちを待っていたのか、片手を上げておはよ、と言う。

「聞いたか?」
「うん」
「俺は…謝らないからな」
「うん。僕は僕なんでしょ?ジョナスはジョナスだ」
「……そうだな」

アシュリーをチラリと見て微笑むと、ジョナスの前に立つ。両手を広げ待っていると、躊躇ためらいながらも一歩前に出て僕を抱きしめた。

「ありがとう、ジュリアン」

その時ドアが開いてダレルが出てきた。僕たちを見て固まってる。イーノックもドアを開けたまま、口を「あ」の形のままにして動かない。

「ちょ!アシュリー良いのかよ?」

ダレルが指差して叫んだ。

「そうだな。ちょっと長い」

僕とジョナスを引き離し、今度はアシュリーの腕の中。

「少しぐらい良いだろ?」
「いや、あれで十分でしょ」

ははっと屈託なく笑うジョナスを、ダレルとイーノックがわけがわからないと言いながら見ていた。

昨夜からの不自然さも、今目の前で起きている出来事も、説明してくださいねとイーノックが珍しく強い口調で詰め寄る。

「バートには聞かせない方が良いか?」
「いや、先代の最後を看取ったのがバートだ。聞きたいこともあるだろう?」
「でも、自分の仕えていた人の弱い部分を今更知りたくないんじゃない?」
「近衛兵はそんなに柔じゃないさ」

アシュリーと僕の質問にジョナスは事も無げに言う。五人で一階に降りて食堂へ行くと、美味しそうな朝食が用意されていた。焼きたてのパンとスープ。収穫したばかりの新鮮な野菜と果物のサラダ。ハムやソーセージが大量にドンと置かれ、セアラがそれぞれの皿に次々に取り分けてくれる。そんなに食べられないよ。

食事が終わり、お茶は庭で頂こうということになった。

リミントン夫妻と勇者が五人。何故か使い魔も五匹勢揃いである。

「どうされたのですか?」

何が始まるのかとバートがいぶかる。

「先代の話をダレルとイーノックに話しておこうと思って」
「では、我々は席を外した方がよろしいですか?」
「いや、聞いてくれ」

畏まりましたと小さくいうと、何を話すのかと神妙な面持ちで待っている。昨夜アシュリーから聞いた話を今度はジョナスから聞く。多少ニュアンスの違うところはあるけれど、大体が同じ内容だった。

「だからと言って、俺たちは何も変わらないんだろ?」
「そうだよ?僕も昨日聞いたんだけど、知っていて欲しかったから」
「そうですね。教えろと言ったのは俺ですが…これでは、誰も幸せになれない…」
「メイヴィスさまは幸せそうでしたよ?」

イーノックの呟きに、セアラが堪らずという感じで言う。晩年のメイヴィスさまに仕えていたそうだ。

「お子さまには恵まれなかったですが、お二人でよくお庭を散歩されたりして、仲睦まじい姿をよく見ましたよ。お年を召されてからは寝室は別々でしたけれど、お互いの部屋を行き来してらして……そんな…始まりがどんな形だろうと、お二人の結びつきは強かったと思います」
「わたしは知っていました」

バートは国王陛下に聞いたそうだ。

「陛下から、弱いところのある方なのでよく見てあげてと、勿体無くもお願いされました。仕える者には弱いなんて微塵も感じさせない方でした。身体が弱ってもなおアレースさまでしたよ」

懐かしむように目を瞑る。

「そうですね…。メイヴィスさまにお会いになる時は普段とは違ってましたね。このような言い方は相応しくないかもしれませんが…デレデレする、でしょうか?ああ、愛してらっしゃるんだなと思ったものですよ。出会われてから約九十年経ってもなお、これ程の愛があるのかと…」

良かった。メイヴィスさまは愛されてたんだ。
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