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第七章
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「先代のミシェルとアレースが結婚していたのは知ってるよね?」
「うん。有名な話だよ」
二人でベッドに上がり、アシュリーを跨ぐように向かい合って座っている。
メイヴィスさまは女性だ。ミシェルが男だったから、発表の時、女の子たちの落胆とも喜びとも取れる声を聞いた。先代同様今世紀もミシェルとアレースが結婚するのではとの噂はあったから、それは仕方ない。でも、ジョナスの結婚相手はまだ決まっていない。僕じゃないなら、自分にもチャンスがあるかもって話は女子寮で凄いってローザが言っていた。
『ジュリアン、俺たちのこの力は初代さまからずっと受け継がれて今、俺たちにもたらされている』
心に響くアシュリーの声を、意味を考えながら心にとめる。初代さまからずっと…。それは先代も同じと言うこと?
「アシュ…」
「そうだ」
アシュリーが僕を抱きしめキスをする。自分を落ち着かせるためか、啄むようなキスは顔中に降り注ぐ。
「先代アレースのピーター殿下は、先代ミシェルのメイヴィスさまが学園に入学されると度々王宮に招いていたそうだ。勿論、ピーター殿下はメイヴィスさまがミシェルだとご存知だった。その時、ピーター殿下は三年生。ジョナス同様アレースであることは国民全員が知っている。そんなふうに殿下が一人の女の子に執着すると、隠していてもいつかは噂になる。
メイヴィスさまが面会を辞退すると、王族であることとアレースであることの強権を使い、監禁まがいの行動に出たんだ。俺たちの時も公爵さまや侯爵さまはご存知だっただろ?だから、メイヴィスさまがミシェルだと理解した上で、誰もその暴挙を止められなかった。メイヴィスさまは殿下に、会いに来るから学園に戻してと、泣いてお願いし続けたそうだ。半年経ってやっと学園に戻り…そして、約束通り王宮に会いに出かけた。それは発表してからも続いた。一人の女学生との逢瀬を非難していた一般の人たちも、アレースとミシェルの交際を反対する人などいない」
辛そうなアシュリーの頬を持ち鼻を合わせ、ペロンと舐めた。途端に笑顔が戻り安心する。
「ありがと、俺のことじゃないのに…。爺さんの記憶はその辛さも俺に感じさせるんだ」
「僕はここにいるよ?だからそんな辛そうな顔しないで」
「うん。わかってるさ」
一旦僕を抱きしめ、前に座らせると手を握る。顔見て話したい…って笑顔を見せるアシュリーは、いつものアシュリーだった。
「一方俺の爺さん、先代ミネルヴァのハーマンは勇者だと知らなかった。ダレルやイーノックと同じように発表の直前に知るんだ。途端に感じるミシェルの気に、早く会いたいと思ったそうだ。名前も知らない、顔も見たことないミシェルを愛しいと感じたと言ってた。俺たちと同じように王宮に行き……そこには有名な二人が手を繋いで残る三人を待っていたんだ。ピーター殿下とメイヴィスが…。あとの二人はよく知るクラスメイトだったそうだ。『メイヴィス、君だったのか…』」
「えっ?」
「ハーマンが心で呟いた声さ。それをメイヴィスさまは聞き取った。それから二人で話したそうだ。さっきも言ったけど、メイヴィスさまの事は有名だった。それはアレース殿下の想い人として。ハーマンも顔を見たことがあるくらい目立ってた。今と同じように男子寮と女子寮に分かれていたし、学園ではほとんど顔を合わすことがないのにその存在は知れ渡っていた」
「それほどピーター殿下がメイヴィスさまを愛してらしたってことだよね?」
「執着…」
「…えっ?」
「自分を安心させる何かへの固執」
「それは…」
「アレースは孤独さ。ジョナスを見てたらわかるだろ?」
「うん」
誕生と同時に発表されるから、幼い頃から王太子殿下よりも目立ってた。
「そんな環境で育ち、ピーター殿下はミネルヴァとミシェルが出会う前に自分のものにしてしまおうって考えたんだ。ミネルヴァとミシェルの繋がりは文献に残っているからね」
ジョナスに私室に呼び出された時を思い出す。俺のミシェルと言ってた。
「ジョナスはわかってたさ。先代が犯した罪も、俺たちの絆も。あれは悪足掻きだな…。俺が行くのはわかってたよ。そう言ってた。それに、クラレンスがいくら反対したところで、ジョナスが本当に会いたければジュリアンに会うことはできたはずだろ?」
そうか…そうだよね。
「うん。有名な話だよ」
二人でベッドに上がり、アシュリーを跨ぐように向かい合って座っている。
メイヴィスさまは女性だ。ミシェルが男だったから、発表の時、女の子たちの落胆とも喜びとも取れる声を聞いた。先代同様今世紀もミシェルとアレースが結婚するのではとの噂はあったから、それは仕方ない。でも、ジョナスの結婚相手はまだ決まっていない。僕じゃないなら、自分にもチャンスがあるかもって話は女子寮で凄いってローザが言っていた。
『ジュリアン、俺たちのこの力は初代さまからずっと受け継がれて今、俺たちにもたらされている』
心に響くアシュリーの声を、意味を考えながら心にとめる。初代さまからずっと…。それは先代も同じと言うこと?
「アシュ…」
「そうだ」
アシュリーが僕を抱きしめキスをする。自分を落ち着かせるためか、啄むようなキスは顔中に降り注ぐ。
「先代アレースのピーター殿下は、先代ミシェルのメイヴィスさまが学園に入学されると度々王宮に招いていたそうだ。勿論、ピーター殿下はメイヴィスさまがミシェルだとご存知だった。その時、ピーター殿下は三年生。ジョナス同様アレースであることは国民全員が知っている。そんなふうに殿下が一人の女の子に執着すると、隠していてもいつかは噂になる。
メイヴィスさまが面会を辞退すると、王族であることとアレースであることの強権を使い、監禁まがいの行動に出たんだ。俺たちの時も公爵さまや侯爵さまはご存知だっただろ?だから、メイヴィスさまがミシェルだと理解した上で、誰もその暴挙を止められなかった。メイヴィスさまは殿下に、会いに来るから学園に戻してと、泣いてお願いし続けたそうだ。半年経ってやっと学園に戻り…そして、約束通り王宮に会いに出かけた。それは発表してからも続いた。一人の女学生との逢瀬を非難していた一般の人たちも、アレースとミシェルの交際を反対する人などいない」
辛そうなアシュリーの頬を持ち鼻を合わせ、ペロンと舐めた。途端に笑顔が戻り安心する。
「ありがと、俺のことじゃないのに…。爺さんの記憶はその辛さも俺に感じさせるんだ」
「僕はここにいるよ?だからそんな辛そうな顔しないで」
「うん。わかってるさ」
一旦僕を抱きしめ、前に座らせると手を握る。顔見て話したい…って笑顔を見せるアシュリーは、いつものアシュリーだった。
「一方俺の爺さん、先代ミネルヴァのハーマンは勇者だと知らなかった。ダレルやイーノックと同じように発表の直前に知るんだ。途端に感じるミシェルの気に、早く会いたいと思ったそうだ。名前も知らない、顔も見たことないミシェルを愛しいと感じたと言ってた。俺たちと同じように王宮に行き……そこには有名な二人が手を繋いで残る三人を待っていたんだ。ピーター殿下とメイヴィスが…。あとの二人はよく知るクラスメイトだったそうだ。『メイヴィス、君だったのか…』」
「えっ?」
「ハーマンが心で呟いた声さ。それをメイヴィスさまは聞き取った。それから二人で話したそうだ。さっきも言ったけど、メイヴィスさまの事は有名だった。それはアレース殿下の想い人として。ハーマンも顔を見たことがあるくらい目立ってた。今と同じように男子寮と女子寮に分かれていたし、学園ではほとんど顔を合わすことがないのにその存在は知れ渡っていた」
「それほどピーター殿下がメイヴィスさまを愛してらしたってことだよね?」
「執着…」
「…えっ?」
「自分を安心させる何かへの固執」
「それは…」
「アレースは孤独さ。ジョナスを見てたらわかるだろ?」
「うん」
誕生と同時に発表されるから、幼い頃から王太子殿下よりも目立ってた。
「そんな環境で育ち、ピーター殿下はミネルヴァとミシェルが出会う前に自分のものにしてしまおうって考えたんだ。ミネルヴァとミシェルの繋がりは文献に残っているからね」
ジョナスに私室に呼び出された時を思い出す。俺のミシェルと言ってた。
「ジョナスはわかってたさ。先代が犯した罪も、俺たちの絆も。あれは悪足掻きだな…。俺が行くのはわかってたよ。そう言ってた。それに、クラレンスがいくら反対したところで、ジョナスが本当に会いたければジュリアンに会うことはできたはずだろ?」
そうか…そうだよね。
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