天使のローブ

茉莉花 香乃

文字の大きさ
上 下
149 / 173
第七章

18

しおりを挟む
「先代のミシェルとアレースが結婚していたのは知ってるよね?」
「うん。有名な話だよ」

二人でベッドに上がり、アシュリーを跨ぐように向かい合って座っている。

メイヴィスさまは女性だ。ミシェルが男だったから、発表の時、女の子たちの落胆とも喜びとも取れる声を聞いた。先代同様今世紀もミシェルとアレースが結婚するのではとの噂はあったから、それは仕方ない。でも、ジョナスの結婚相手はまだ決まっていない。僕じゃないなら、自分にもチャンスがあるかもって話は女子寮で凄いってローザが言っていた。

『ジュリアン、俺たちのこの力は初代さまからずっと受け継がれて今、俺たちにもたらされている』

心に響くアシュリーの声を、意味を考えながら心にとめる。初代さまからずっと…。それは先代も同じと言うこと?

「アシュ…」
「そうだ」

アシュリーが僕を抱きしめキスをする。自分を落ち着かせるためか、ついばむようなキスは顔中に降り注ぐ。

「先代アレースのピーター殿下は、先代ミシェルのメイヴィスさまが学園に入学されると度々王宮に招いていたそうだ。勿論、ピーター殿下はメイヴィスさまがミシェルだとご存知だった。その時、ピーター殿下は三年生。ジョナス同様アレースであることは国民全員が知っている。そんなふうに殿下が一人の女の子に執着すると、隠していてもいつかは噂になる。
メイヴィスさまが面会を辞退すると、王族であることとアレースであることの強権を使い、監禁まがいの行動に出たんだ。俺たちの時も公爵さまや侯爵さまはご存知だっただろ?だから、メイヴィスさまがミシェルだと理解した上で、誰もその暴挙を止められなかった。メイヴィスさまは殿下に、会いに来るから学園に戻してと、泣いてお願いし続けたそうだ。半年経ってやっと学園に戻り…そして、約束通り王宮に会いに出かけた。それは発表してからも続いた。一人の女学生との逢瀬を非難していた一般の人たちも、アレースとミシェルの交際を反対する人などいない」

辛そうなアシュリーの頬を持ち鼻を合わせ、ペロンと舐めた。途端に笑顔が戻り安心する。

「ありがと、俺のことじゃないのに…。爺さんの記憶はその辛さも俺に感じさせるんだ」
「僕はここにいるよ?だからそんな辛そうな顔しないで」
「うん。わかってるさ」

一旦僕を抱きしめ、前に座らせると手を握る。顔見て話したい…って笑顔を見せるアシュリーは、いつものアシュリーだった。

「一方俺の爺さん、先代ミネルヴァのハーマンは勇者だと知らなかった。ダレルやイーノックと同じように発表の直前に知るんだ。途端に感じるミシェルの気に、早く会いたいと思ったそうだ。名前も知らない、顔も見たことないミシェルを愛しいと感じたと言ってた。俺たちと同じように王宮に行き……そこには有名な二人が手を繋いで残る三人を待っていたんだ。ピーター殿下とメイヴィスが…。あとの二人はよく知るクラスメイトだったそうだ。『メイヴィス、君だったのか…』」
「えっ?」
「ハーマンが心で呟いた声さ。それをメイヴィスさまは聞き取った。それから二人で話したそうだ。さっきも言ったけど、メイヴィスさまの事は有名だった。それはアレース殿下の想い人として。ハーマンも顔を見たことがあるくらい目立ってた。今と同じように男子寮と女子寮に分かれていたし、学園ではほとんど顔を合わすことがないのにその存在は知れ渡っていた」
「それほどピーター殿下がメイヴィスさまを愛してらしたってことだよね?」
「執着…」
「…えっ?」
「自分を安心させる何かへの固執」
「それは…」
「アレースは孤独さ。ジョナスを見てたらわかるだろ?」
「うん」

誕生と同時に発表されるから、幼い頃から王太子殿下よりも目立ってた。

「そんな環境で育ち、ピーター殿下はミネルヴァとミシェルが出会う前に自分のものにしてしまおうって考えたんだ。ミネルヴァとミシェルの繋がりは文献に残っているからね」

ジョナスに私室に呼び出された時を思い出す。俺のミシェルと言ってた。

「ジョナスはわかってたさ。先代が犯した罪も、俺たちの絆も。あれは悪足掻きだな…。俺が行くのはわかってたよ。そう言ってた。それに、クラレンスがいくら反対したところで、ジョナスが本当に会いたければジュリアンに会うことはできたはずだろ?」

そうか…そうだよね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが

なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です 酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります 攻 井之上 勇気 まだまだ若手のサラリーマン 元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい でも翌朝には完全に記憶がない 受 牧野・ハロルド・エリス 天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司 金髪ロング、勇気より背が高い 勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん ユウキにオヨメサンにしてもらいたい 同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

いじめられっこが異世界召喚? だけど彼は最強だった?! (イトメに文句は言わせない)

小笠原慎二
ファンタジー
いじめられっこのイトメが学校帰りに攫われた。 「勇者にするには地味顔すぎる」と女神に言われ、異世界に落とされてしまう。 甘いものがないと世界を滅ぼしてしまう彼は、世界のためにも自分の為にも冒険者となって日々のお金を稼ぐことにした。 イトメの代わりに勇者として召喚されたのは、イトメをいじめていたグループのリーダー、イケメンのユーマだった。 勇者として華やかな道を歩くユーマと、男のストーカーに追い回されるイトメ。 異世界で再び出会ってしまった両者。ユーマはイトメをサンドバッグ代わりとして再び弄ぼうと狙ってくる。

【完結】我が国はもうダメかもしれない。

みやこ嬢
BL
【2024年11月26日 完結、既婚子持ち国王総受BL】 ロトム王国の若き国王ジークヴァルトは死後女神アスティレイアから託宣を受ける。このままでは国が滅んでしまう、と。生き返るためには滅亡の原因を把握せねばならない。 幼馴染みの宰相、人見知り王宮医師、胡散臭い大司教、つらい過去持ち諜報部員、チャラい王宮警備隊員、幽閉中の従兄弟、死んだはずの隣国の王子などなど、その他多数の家臣から異様に慕われている事実に幽霊になってから気付いたジークヴァルトは滅亡回避ルートを求めて奔走する。 既婚子持ち国王総受けBLです。

処理中です...