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第七章
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ギルバートたちはこの庭に入った途端、五匹で走り回ってる。かなりのお年なのにこのはしゃぎっぷりは凄い。いつもはどんと構え、落ち着いているアンブローズまでピョンピョン跳ねている。
「久しぶりだな」
「はい、ここは落ち着きますね」
ギルバートとアンブローズが仔犬サイズでじゃれてるのはとても可愛いけど、これは落ち着いてるのか?凄く興奮しているように見える。
「俺たちの故郷の風の匂いがする。アリルの花も咲いてるしな。シルベスターは度々こっちに来てるけど、俺たちは百年に一度なんだ。なあ、レイモンド」
「ほんとうに!みんなは元気にやってるかな?楽しみだ」
「どうしてシルベスターみたいに帰らないの?」
「そりゃ、ジュリアンみたいな頼りない…いやいや、可愛い勇者を一人残して帰れないだろう?」
僕の睨みを目の端に捉え、一応言い直してくれた。ギルバートたちを庭に残し、家の中に案内された。小さな小屋のように見えたけど招き入れられた居間は広く、二十人くらいのお客さまでもおもてなしできそうだ。奥に二人の寝室やキッチンもあり、二階に上がると六つの部屋がある。
「それぞれ使われますか?」
バートがジョナスに聞く。
「いや、アシュリーとジュリアンは同じで構わない」
「畏まりました」
そう言って、一つの部屋に入り杖を振る。多分ベッドを大きくしたんだろう。恥ずかしいです…。…さっきも見られたから、もう気付いてたとは思うけどね…。
「最後の一つは誰の部屋なんだ?」
「ああ、ここは陛下のためのお部屋です」
「来られるのか?」
「在位中にいらっしゃる方と退位されてからいらっしゃる方がおられます。…日誌によると」
「父上は?」
「前任が王都に戻られたそのに日に、付き添い移転で来られました。お疲れだったと思います」
可哀想に…と小さな声で呟き、口に手を当てた。
「今まで、一緒の部屋で休まれた方はいたんですか?」
僕だけなんて恥ずかしいから聞いてみた。
「先代はピーター殿下とメイヴィスさまが同じお部屋だったと書いてありました。結婚もされましたしね」
そうか、旅に出る前からお二人は仲良しだったんだ。それにしても…そんなことまで書いてあるんだ。
……今回、僕とアシュリーが同じ部屋を使うこともその日誌に書くのだろうか?それはどうなの?真面目なバートはお役目を果たすだろうな。この先ずっとその記録は残るのか…。
アシュリーを見ると何故か辛そうな顔だ。どうしたんだろう?
『アシュ?』
『…ぅん?』
『どうしたの?』
『いや、何でもないよ』
『そう?』
『ほら、みんな下りるみたいだよ』
使い魔は庭で寝るそうだ。直ぐそこなんだから、今夜は結界を超えて故郷に帰るのかと思ったけど違うみたい。最後の最後まで勇者から離れないんだ。
食事は美味しかった。リミントン夫妻の話は面白く、楽しい食事会になった。ただ気になるのはアシュリーとジョナス。二階に案内されてから少し元気がない。食後のお茶を出してもらいケーキもペロリと平らげて、それぞれが休むために部屋に入る。
おやすみと言ってイーノックとダレルが部屋に入るとアシュリーが口を開いた。
「ジョナス、俺たちは関係ない」
「わかってるさ」
「じゃあ…」
「違うんだ。先代の気持ちがわからないだけさ。無理矢理じゃなかっただろうけど、俺には…わからない」
「わからなくて良いさ。寧ろわかる方が怖い」
「そうだな…、俺は俺。お前はお前。ジュリアンはジュリアンだ」
部屋に入ると後ろ手でドアを閉め、僕を抱きしめる。背中から伝わる体温が心地良い。
「アシュ?」
クルリと反転させておでこを合わせる。
「ジョナスと何の話をしてたの?」
僕にはわからない内容はきっとイーノックとダレルにもわからないのだろう。二人の雰囲気が違うことに気付いていたみたいだけど何も言わなかった。必要なことなら言ってくれるはず…。僕たちは強い絆で結ばれている。発表の日から、少しずつ深められていたそれは、この旅でますます強固なものとなった。それはアシュリーとジョナスも同じはず。
「今まで、ジュリアンに黙っていたことがある。聞いてくれる?」
「勿論」
「今から話すことはジュリアンには関係ないことなんだ」
「関係ないの?でも、大切なことなんだね?」
「そうだな…、俺には大切なことだ。ジョナスにも。ジュリアンには…知っていて欲しい」
「久しぶりだな」
「はい、ここは落ち着きますね」
ギルバートとアンブローズが仔犬サイズでじゃれてるのはとても可愛いけど、これは落ち着いてるのか?凄く興奮しているように見える。
「俺たちの故郷の風の匂いがする。アリルの花も咲いてるしな。シルベスターは度々こっちに来てるけど、俺たちは百年に一度なんだ。なあ、レイモンド」
「ほんとうに!みんなは元気にやってるかな?楽しみだ」
「どうしてシルベスターみたいに帰らないの?」
「そりゃ、ジュリアンみたいな頼りない…いやいや、可愛い勇者を一人残して帰れないだろう?」
僕の睨みを目の端に捉え、一応言い直してくれた。ギルバートたちを庭に残し、家の中に案内された。小さな小屋のように見えたけど招き入れられた居間は広く、二十人くらいのお客さまでもおもてなしできそうだ。奥に二人の寝室やキッチンもあり、二階に上がると六つの部屋がある。
「それぞれ使われますか?」
バートがジョナスに聞く。
「いや、アシュリーとジュリアンは同じで構わない」
「畏まりました」
そう言って、一つの部屋に入り杖を振る。多分ベッドを大きくしたんだろう。恥ずかしいです…。…さっきも見られたから、もう気付いてたとは思うけどね…。
「最後の一つは誰の部屋なんだ?」
「ああ、ここは陛下のためのお部屋です」
「来られるのか?」
「在位中にいらっしゃる方と退位されてからいらっしゃる方がおられます。…日誌によると」
「父上は?」
「前任が王都に戻られたそのに日に、付き添い移転で来られました。お疲れだったと思います」
可哀想に…と小さな声で呟き、口に手を当てた。
「今まで、一緒の部屋で休まれた方はいたんですか?」
僕だけなんて恥ずかしいから聞いてみた。
「先代はピーター殿下とメイヴィスさまが同じお部屋だったと書いてありました。結婚もされましたしね」
そうか、旅に出る前からお二人は仲良しだったんだ。それにしても…そんなことまで書いてあるんだ。
……今回、僕とアシュリーが同じ部屋を使うこともその日誌に書くのだろうか?それはどうなの?真面目なバートはお役目を果たすだろうな。この先ずっとその記録は残るのか…。
アシュリーを見ると何故か辛そうな顔だ。どうしたんだろう?
『アシュ?』
『…ぅん?』
『どうしたの?』
『いや、何でもないよ』
『そう?』
『ほら、みんな下りるみたいだよ』
使い魔は庭で寝るそうだ。直ぐそこなんだから、今夜は結界を超えて故郷に帰るのかと思ったけど違うみたい。最後の最後まで勇者から離れないんだ。
食事は美味しかった。リミントン夫妻の話は面白く、楽しい食事会になった。ただ気になるのはアシュリーとジョナス。二階に案内されてから少し元気がない。食後のお茶を出してもらいケーキもペロリと平らげて、それぞれが休むために部屋に入る。
おやすみと言ってイーノックとダレルが部屋に入るとアシュリーが口を開いた。
「ジョナス、俺たちは関係ない」
「わかってるさ」
「じゃあ…」
「違うんだ。先代の気持ちがわからないだけさ。無理矢理じゃなかっただろうけど、俺には…わからない」
「わからなくて良いさ。寧ろわかる方が怖い」
「そうだな…、俺は俺。お前はお前。ジュリアンはジュリアンだ」
部屋に入ると後ろ手でドアを閉め、僕を抱きしめる。背中から伝わる体温が心地良い。
「アシュ?」
クルリと反転させておでこを合わせる。
「ジョナスと何の話をしてたの?」
僕にはわからない内容はきっとイーノックとダレルにもわからないのだろう。二人の雰囲気が違うことに気付いていたみたいだけど何も言わなかった。必要なことなら言ってくれるはず…。僕たちは強い絆で結ばれている。発表の日から、少しずつ深められていたそれは、この旅でますます強固なものとなった。それはアシュリーとジョナスも同じはず。
「今まで、ジュリアンに黙っていたことがある。聞いてくれる?」
「勿論」
「今から話すことはジュリアンには関係ないことなんだ」
「関係ないの?でも、大切なことなんだね?」
「そうだな…、俺には大切なことだ。ジョナスにも。ジュリアンには…知っていて欲しい」
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