144 / 173
第七章
13
しおりを挟む
「おい!なんだよ?離せよ!ちょっと肩を叩いただけだろ?」
「ジュリに触れたのか?」
アシュリーが男の言葉に反応する。辺りに漂うアシュリーの強すぎる怒りの気に、二人も気づいたのか見る間に青ざめる。
「あっ、いや…その…」
「なんだよ…触れただけだろ?…」
言い澱み、次の言葉が出てこないのか口をパクパクさせて震えだした。木に括られて動けない男の、胸ぐらを掴み射殺さんばかりに睨みつける。
一般人にとって勇者の気は、そこに存在するだけで畏怖の念が湧くらしい。今はアシュリーの怒りが強すぎて男たちは多分腰を抜かしてる。木に括られているから立っているだけで、支えがなくなれば崩れてしまうだろう。
それでもアシュリーはその気を放出することはなかった。僕の事を過保護なほど心配する恋人は、しかし、勇者なのだ。そんなことをすればどうなるかは理解している。でも、溢れ出ている気だけでも凄まじいのだろう。多分、僕が勇者だからってだけじゃなくいつも一緒にいる僕にとって、アシュリーの気は癒されるだけなのだけどな…。
最後は理性で睨みつけるだけに留め、ジョナスを見た。
「任せるよ」
「わかった」
僕を抱きしめ軽く唇を合わせ目をつむった。
『ごめん。ジュリの気は穏やかで、それほど酷いことはされてないってのはわかってても…』
『うん、ありがとう。ふふっ、アシュ、大好き』
『どうした?俺も好きだよ』
『こんなに愛されてるって、幸せだなって思って』
『ごめん』
『どうして謝るの?』
『いや、もうちょっと感情のコントロールをしないとな…。ジョナスに怒られそうだ』
『そうだね。お説教されちゃうかも』
『うっ…ヤダな』
『僕も一緒に怒られてあげる』
僕たちが心で会話している間にジョナスが二人に質問していた。
「何が目的だったんだ?」
アシュリーの気に当てられて、先ほどまでの威勢はすっかり無くなっている。
「金を持って無くてよ…」
「無銭飲食か?騒ぎを起こし、その間に逃げる…、もしくは、言いがかりをつけた相手に払わせる」
「そうだ…」
観念したのか素直に認めた。男たちは逞しい身体で、腕っ節は自慢だったと思う。それなのに、まさか自分たちより華奢な男に軽々と捕まるとは思ってなかったのだろう。
僕たちはあのお店の客の中で一番若く、頼りなげな五人組。そして、狙いを定めたのは一番小柄な僕なのだ。今は木からは外し、両腕を後ろに回し身体ごとグルグルと紐で括られている。
それにしても、無銭飲食って…。アルシャント国は戦争がないので国が荒れることはなく、そんなに貧しい暮らしの人はいないと聞いている。みんながみんな貴族のようには暮らせないのは知っているが、先日会った農夫夫婦のように慎ましく暮らすには問題ないのではないだろうか?
世の中真っ当に暮らしている人ばかりではない。働かずに、泥棒ばかりしている人もいる。自分で言うのもあれだけど…人攫いも存在する。詐欺や婦女暴行、殺人など様々な悪事を働く人はいる。
それでも働く意思があり、意欲があればこんな卑怯なことをせずとも食事に困ることはないだろう。それとも子どもの僕ではわからない何か事情があるのだろうか?
「仕事は?」
「金鉱で働いてたんだよ」
「なんだ、まともに働いてるんじゃないか」
「それがよう…地面が揺れた時に金鉱の入り口が崩れて、中に入れないほどじゃないけど、危険だからって入坑禁止になったんだ」
「それなら保障はあるだろ?」
「あったさ」
「なら…」
「そんな端金なんか、直ぐになくなるさ」
「端金?」
「そうだ!」
「それは、お前らが悪いよ。国からも保障金は出てるはずだから。日頃から蓄えてないから、ちょっとのことで困るんだ」
「何を!?偉そうなこと言ってんじゃねぇよ!俺たちの稼いだ金をどう使おうが、お前の知ったことじゃねぇ!」
「おい!」
今まで黙っていたもう一人が仲間に声をかける。ずっとジョナスを睨んでいたのに、今はどことなく慌てているようだ。
「何だよ?」
「こいつの顔どこかで見たことないか?」
「はあ?」
二人でジョナスの顔を見て、何か思い出してる。
「あっ!アレース殿…」
「そうだよ!」
これはマズイんじゃないか?
「ジュリに触れたのか?」
アシュリーが男の言葉に反応する。辺りに漂うアシュリーの強すぎる怒りの気に、二人も気づいたのか見る間に青ざめる。
「あっ、いや…その…」
「なんだよ…触れただけだろ?…」
言い澱み、次の言葉が出てこないのか口をパクパクさせて震えだした。木に括られて動けない男の、胸ぐらを掴み射殺さんばかりに睨みつける。
一般人にとって勇者の気は、そこに存在するだけで畏怖の念が湧くらしい。今はアシュリーの怒りが強すぎて男たちは多分腰を抜かしてる。木に括られているから立っているだけで、支えがなくなれば崩れてしまうだろう。
それでもアシュリーはその気を放出することはなかった。僕の事を過保護なほど心配する恋人は、しかし、勇者なのだ。そんなことをすればどうなるかは理解している。でも、溢れ出ている気だけでも凄まじいのだろう。多分、僕が勇者だからってだけじゃなくいつも一緒にいる僕にとって、アシュリーの気は癒されるだけなのだけどな…。
最後は理性で睨みつけるだけに留め、ジョナスを見た。
「任せるよ」
「わかった」
僕を抱きしめ軽く唇を合わせ目をつむった。
『ごめん。ジュリの気は穏やかで、それほど酷いことはされてないってのはわかってても…』
『うん、ありがとう。ふふっ、アシュ、大好き』
『どうした?俺も好きだよ』
『こんなに愛されてるって、幸せだなって思って』
『ごめん』
『どうして謝るの?』
『いや、もうちょっと感情のコントロールをしないとな…。ジョナスに怒られそうだ』
『そうだね。お説教されちゃうかも』
『うっ…ヤダな』
『僕も一緒に怒られてあげる』
僕たちが心で会話している間にジョナスが二人に質問していた。
「何が目的だったんだ?」
アシュリーの気に当てられて、先ほどまでの威勢はすっかり無くなっている。
「金を持って無くてよ…」
「無銭飲食か?騒ぎを起こし、その間に逃げる…、もしくは、言いがかりをつけた相手に払わせる」
「そうだ…」
観念したのか素直に認めた。男たちは逞しい身体で、腕っ節は自慢だったと思う。それなのに、まさか自分たちより華奢な男に軽々と捕まるとは思ってなかったのだろう。
僕たちはあのお店の客の中で一番若く、頼りなげな五人組。そして、狙いを定めたのは一番小柄な僕なのだ。今は木からは外し、両腕を後ろに回し身体ごとグルグルと紐で括られている。
それにしても、無銭飲食って…。アルシャント国は戦争がないので国が荒れることはなく、そんなに貧しい暮らしの人はいないと聞いている。みんながみんな貴族のようには暮らせないのは知っているが、先日会った農夫夫婦のように慎ましく暮らすには問題ないのではないだろうか?
世の中真っ当に暮らしている人ばかりではない。働かずに、泥棒ばかりしている人もいる。自分で言うのもあれだけど…人攫いも存在する。詐欺や婦女暴行、殺人など様々な悪事を働く人はいる。
それでも働く意思があり、意欲があればこんな卑怯なことをせずとも食事に困ることはないだろう。それとも子どもの僕ではわからない何か事情があるのだろうか?
「仕事は?」
「金鉱で働いてたんだよ」
「なんだ、まともに働いてるんじゃないか」
「それがよう…地面が揺れた時に金鉱の入り口が崩れて、中に入れないほどじゃないけど、危険だからって入坑禁止になったんだ」
「それなら保障はあるだろ?」
「あったさ」
「なら…」
「そんな端金なんか、直ぐになくなるさ」
「端金?」
「そうだ!」
「それは、お前らが悪いよ。国からも保障金は出てるはずだから。日頃から蓄えてないから、ちょっとのことで困るんだ」
「何を!?偉そうなこと言ってんじゃねぇよ!俺たちの稼いだ金をどう使おうが、お前の知ったことじゃねぇ!」
「おい!」
今まで黙っていたもう一人が仲間に声をかける。ずっとジョナスを睨んでいたのに、今はどことなく慌てているようだ。
「何だよ?」
「こいつの顔どこかで見たことないか?」
「はあ?」
二人でジョナスの顔を見て、何か思い出してる。
「あっ!アレース殿…」
「そうだよ!」
これはマズイんじゃないか?
0
お気に入りに追加
153
あなたにおすすめの小説
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)


皇帝陛下の精子検査
雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。
しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。
このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。
焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?

禁断の祈祷室
土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。
アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。
それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。
救済のために神は神官を抱くのか。
それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。
神×神官の許された神秘的な夜の話。
※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。
幸せの温度
本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。
まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。
俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。
陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。
俺にあんまり触らないで。
俺の気持ちに気付かないで。
……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。
俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。
家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。
そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である


【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる