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第七章
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「おい!なんだよ?離せよ!ちょっと肩を叩いただけだろ?」
「ジュリに触れたのか?」
アシュリーが男の言葉に反応する。辺りに漂うアシュリーの強すぎる怒りの気に、二人も気づいたのか見る間に青ざめる。
「あっ、いや…その…」
「なんだよ…触れただけだろ?…」
言い澱み、次の言葉が出てこないのか口をパクパクさせて震えだした。木に括られて動けない男の、胸ぐらを掴み射殺さんばかりに睨みつける。
一般人にとって勇者の気は、そこに存在するだけで畏怖の念が湧くらしい。今はアシュリーの怒りが強すぎて男たちは多分腰を抜かしてる。木に括られているから立っているだけで、支えがなくなれば崩れてしまうだろう。
それでもアシュリーはその気を放出することはなかった。僕の事を過保護なほど心配する恋人は、しかし、勇者なのだ。そんなことをすればどうなるかは理解している。でも、溢れ出ている気だけでも凄まじいのだろう。多分、僕が勇者だからってだけじゃなくいつも一緒にいる僕にとって、アシュリーの気は癒されるだけなのだけどな…。
最後は理性で睨みつけるだけに留め、ジョナスを見た。
「任せるよ」
「わかった」
僕を抱きしめ軽く唇を合わせ目をつむった。
『ごめん。ジュリの気は穏やかで、それほど酷いことはされてないってのはわかってても…』
『うん、ありがとう。ふふっ、アシュ、大好き』
『どうした?俺も好きだよ』
『こんなに愛されてるって、幸せだなって思って』
『ごめん』
『どうして謝るの?』
『いや、もうちょっと感情のコントロールをしないとな…。ジョナスに怒られそうだ』
『そうだね。お説教されちゃうかも』
『うっ…ヤダな』
『僕も一緒に怒られてあげる』
僕たちが心で会話している間にジョナスが二人に質問していた。
「何が目的だったんだ?」
アシュリーの気に当てられて、先ほどまでの威勢はすっかり無くなっている。
「金を持って無くてよ…」
「無銭飲食か?騒ぎを起こし、その間に逃げる…、もしくは、言いがかりをつけた相手に払わせる」
「そうだ…」
観念したのか素直に認めた。男たちは逞しい身体で、腕っ節は自慢だったと思う。それなのに、まさか自分たちより華奢な男に軽々と捕まるとは思ってなかったのだろう。
僕たちはあのお店の客の中で一番若く、頼りなげな五人組。そして、狙いを定めたのは一番小柄な僕なのだ。今は木からは外し、両腕を後ろに回し身体ごとグルグルと紐で括られている。
それにしても、無銭飲食って…。アルシャント国は戦争がないので国が荒れることはなく、そんなに貧しい暮らしの人はいないと聞いている。みんながみんな貴族のようには暮らせないのは知っているが、先日会った農夫夫婦のように慎ましく暮らすには問題ないのではないだろうか?
世の中真っ当に暮らしている人ばかりではない。働かずに、泥棒ばかりしている人もいる。自分で言うのもあれだけど…人攫いも存在する。詐欺や婦女暴行、殺人など様々な悪事を働く人はいる。
それでも働く意思があり、意欲があればこんな卑怯なことをせずとも食事に困ることはないだろう。それとも子どもの僕ではわからない何か事情があるのだろうか?
「仕事は?」
「金鉱で働いてたんだよ」
「なんだ、まともに働いてるんじゃないか」
「それがよう…地面が揺れた時に金鉱の入り口が崩れて、中に入れないほどじゃないけど、危険だからって入坑禁止になったんだ」
「それなら保障はあるだろ?」
「あったさ」
「なら…」
「そんな端金なんか、直ぐになくなるさ」
「端金?」
「そうだ!」
「それは、お前らが悪いよ。国からも保障金は出てるはずだから。日頃から蓄えてないから、ちょっとのことで困るんだ」
「何を!?偉そうなこと言ってんじゃねぇよ!俺たちの稼いだ金をどう使おうが、お前の知ったことじゃねぇ!」
「おい!」
今まで黙っていたもう一人が仲間に声をかける。ずっとジョナスを睨んでいたのに、今はどことなく慌てているようだ。
「何だよ?」
「こいつの顔どこかで見たことないか?」
「はあ?」
二人でジョナスの顔を見て、何か思い出してる。
「あっ!アレース殿…」
「そうだよ!」
これはマズイんじゃないか?
「ジュリに触れたのか?」
アシュリーが男の言葉に反応する。辺りに漂うアシュリーの強すぎる怒りの気に、二人も気づいたのか見る間に青ざめる。
「あっ、いや…その…」
「なんだよ…触れただけだろ?…」
言い澱み、次の言葉が出てこないのか口をパクパクさせて震えだした。木に括られて動けない男の、胸ぐらを掴み射殺さんばかりに睨みつける。
一般人にとって勇者の気は、そこに存在するだけで畏怖の念が湧くらしい。今はアシュリーの怒りが強すぎて男たちは多分腰を抜かしてる。木に括られているから立っているだけで、支えがなくなれば崩れてしまうだろう。
それでもアシュリーはその気を放出することはなかった。僕の事を過保護なほど心配する恋人は、しかし、勇者なのだ。そんなことをすればどうなるかは理解している。でも、溢れ出ている気だけでも凄まじいのだろう。多分、僕が勇者だからってだけじゃなくいつも一緒にいる僕にとって、アシュリーの気は癒されるだけなのだけどな…。
最後は理性で睨みつけるだけに留め、ジョナスを見た。
「任せるよ」
「わかった」
僕を抱きしめ軽く唇を合わせ目をつむった。
『ごめん。ジュリの気は穏やかで、それほど酷いことはされてないってのはわかってても…』
『うん、ありがとう。ふふっ、アシュ、大好き』
『どうした?俺も好きだよ』
『こんなに愛されてるって、幸せだなって思って』
『ごめん』
『どうして謝るの?』
『いや、もうちょっと感情のコントロールをしないとな…。ジョナスに怒られそうだ』
『そうだね。お説教されちゃうかも』
『うっ…ヤダな』
『僕も一緒に怒られてあげる』
僕たちが心で会話している間にジョナスが二人に質問していた。
「何が目的だったんだ?」
アシュリーの気に当てられて、先ほどまでの威勢はすっかり無くなっている。
「金を持って無くてよ…」
「無銭飲食か?騒ぎを起こし、その間に逃げる…、もしくは、言いがかりをつけた相手に払わせる」
「そうだ…」
観念したのか素直に認めた。男たちは逞しい身体で、腕っ節は自慢だったと思う。それなのに、まさか自分たちより華奢な男に軽々と捕まるとは思ってなかったのだろう。
僕たちはあのお店の客の中で一番若く、頼りなげな五人組。そして、狙いを定めたのは一番小柄な僕なのだ。今は木からは外し、両腕を後ろに回し身体ごとグルグルと紐で括られている。
それにしても、無銭飲食って…。アルシャント国は戦争がないので国が荒れることはなく、そんなに貧しい暮らしの人はいないと聞いている。みんながみんな貴族のようには暮らせないのは知っているが、先日会った農夫夫婦のように慎ましく暮らすには問題ないのではないだろうか?
世の中真っ当に暮らしている人ばかりではない。働かずに、泥棒ばかりしている人もいる。自分で言うのもあれだけど…人攫いも存在する。詐欺や婦女暴行、殺人など様々な悪事を働く人はいる。
それでも働く意思があり、意欲があればこんな卑怯なことをせずとも食事に困ることはないだろう。それとも子どもの僕ではわからない何か事情があるのだろうか?
「仕事は?」
「金鉱で働いてたんだよ」
「なんだ、まともに働いてるんじゃないか」
「それがよう…地面が揺れた時に金鉱の入り口が崩れて、中に入れないほどじゃないけど、危険だからって入坑禁止になったんだ」
「それなら保障はあるだろ?」
「あったさ」
「なら…」
「そんな端金なんか、直ぐになくなるさ」
「端金?」
「そうだ!」
「それは、お前らが悪いよ。国からも保障金は出てるはずだから。日頃から蓄えてないから、ちょっとのことで困るんだ」
「何を!?偉そうなこと言ってんじゃねぇよ!俺たちの稼いだ金をどう使おうが、お前の知ったことじゃねぇ!」
「おい!」
今まで黙っていたもう一人が仲間に声をかける。ずっとジョナスを睨んでいたのに、今はどことなく慌てているようだ。
「何だよ?」
「こいつの顔どこかで見たことないか?」
「はあ?」
二人でジョナスの顔を見て、何か思い出してる。
「あっ!アレース殿…」
「そうだよ!」
これはマズイんじゃないか?
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