138 / 173
第七章
07
しおりを挟む
「ジュリ!ジュリ!目を開けて!」
「んっ…」
「あっ、大丈夫?良かった」
ふっと夢から覚めて、さっき欲しかった優しい腕に包まれる。でも、僕とアシュリーのベッドはカーテンが開けられ、ジョナスとダレル、イーノックの他、五匹の使い魔、つまりこのテントの中の全員が心配気な顔で僕を見てた。
「ど、どうしたの?」
「急に目を閉じたと思ったら…気を失って、魔力が今までのどんな時より、セシリアを癒した時より急激に減って…びっくりしたよ」
本当に良かったと僕を抱きしめるアシュリーに身体を預け目を閉じる。
「ジュリアン、大丈夫か?」
ギルバートが膝に乗りもっと上に這い上がってこようとする。アシュリーに抱き上げられ僕の手に乗るとペロペロと舐める。
「でもさ。これはこれで良いかもしれない」
「どう言うことだよ!良くないだろう?」
「落ち着けよ、アシュリー」
落ち着きのないアシュリーにギルバートが宥めるように優し気な声で続ける。
「ジュリアンにとってアシュリーがどれだけ大事かってことが証明されたってことさ」
「だからって、アルシャントが企んでいることを阻止できるのか?」
「それは…でも、考えただけでこんなふうになってしまうんだ。アルシャントだって直ぐに気づくだろ?これは、きっとアシュリーでないと癒せない。俺でもダメなんだ。アシュリーとジュリアンの絆がこれほど強くなっているのは…」
「なっているのは?」
「ミネルヴァとミシェルが今度こそ一緒にと思っているからだよ。ジュリアンの気がミシェルと同じなように、アシュリーのもミネルヴァと同じだ。そうだろ?マクシミリアン」
「ああ、そうだな」
「そうですね。そのことはアルシャントがいつも後悔をしています」
シルベスターが続けて言うことにみんなが驚いた。
「後悔してるなら…」
アシュリーが僕を抱きしめて絞り出すように声を出す。
「後悔してるなら…ジュリを俺から取らないでくれよ!」
◇◇◇◇◇
本当の伝承を聞いた後、初代さまたちの話を聞いた。
使い魔たちは北の山に着いてからのことしか知らないけれど、闇黒を退治しに来たのは昔話の通りらしい。五人はアルシャントの母親を看病した。特にミシェルは大地を揺らす張本人(張本ドラゴン?)だからと怖がらずに、献身的に手当てした。
五人が北の山に着いてから一年くらい経った時、五人の介抱も虚しく母親は死んでしまった。残った力全てで国を護ると約束して、息子のことを託した。死ぬ前に母親は自分の力を五人に与えた。特にミシェルには努力で得られない力を与えた。
アルシャントは五人が帰ることを望まなかった。さらに一年一緒に過ごしたけれど、残してきた人々が気にかかるから戻らなければならない。アルシャントに帰ると報告すると、泣いて嫌がった。ミシェルだけは帰らないで、そうでなけりゃ国は護らないと拗ねた。
……僕が見たのはこの時の二人だったんだ。離れ離れになってしまう寂しさがよくわかった。僕にはその理由はわからなかったけれど、アシュリーは未来の子どもたちのためにって言ってた。それは未来の国のためにってことだったんだ。
『アシュは知ってたの?』
『こんな理由で離れてしまってたなんて知らなかった』
それからシルベスターは僕に向かって落ち着いて聞いてくださいと前置きして話し出した。
「アルシャントの具合が数年前から悪いと先ほど言いましたが、これは本当です。そして、寂しいと何度も言うのです。母親はアルシャントを産む時に力尽きてしまいましたが、ドラゴンが些細なことで弱ることはないのです。身体が弱っている理由はわかりませんが、そのことにより気持ちも弱くなっています。ジュリアンの気がミシェルとそっくりだというのは、アルシャントも気付いています。恐らく、アルシャントは……ジュリアンを離さないと思います」
「えっ…」
「どういうことだよ?」
「落ち着いて」
マクシミリアンがアシュリーの手を舐めている。僕はシルベスターの話がうまく飲み込めない。
アシュリーと離れ離れになるの?
国を護るために?
そして、アシュリーの腕の中で意識をなくした。
勇者と発表されてからの不安定な心の原因がわかった。
「んっ…」
「あっ、大丈夫?良かった」
ふっと夢から覚めて、さっき欲しかった優しい腕に包まれる。でも、僕とアシュリーのベッドはカーテンが開けられ、ジョナスとダレル、イーノックの他、五匹の使い魔、つまりこのテントの中の全員が心配気な顔で僕を見てた。
「ど、どうしたの?」
「急に目を閉じたと思ったら…気を失って、魔力が今までのどんな時より、セシリアを癒した時より急激に減って…びっくりしたよ」
本当に良かったと僕を抱きしめるアシュリーに身体を預け目を閉じる。
「ジュリアン、大丈夫か?」
ギルバートが膝に乗りもっと上に這い上がってこようとする。アシュリーに抱き上げられ僕の手に乗るとペロペロと舐める。
「でもさ。これはこれで良いかもしれない」
「どう言うことだよ!良くないだろう?」
「落ち着けよ、アシュリー」
落ち着きのないアシュリーにギルバートが宥めるように優し気な声で続ける。
「ジュリアンにとってアシュリーがどれだけ大事かってことが証明されたってことさ」
「だからって、アルシャントが企んでいることを阻止できるのか?」
「それは…でも、考えただけでこんなふうになってしまうんだ。アルシャントだって直ぐに気づくだろ?これは、きっとアシュリーでないと癒せない。俺でもダメなんだ。アシュリーとジュリアンの絆がこれほど強くなっているのは…」
「なっているのは?」
「ミネルヴァとミシェルが今度こそ一緒にと思っているからだよ。ジュリアンの気がミシェルと同じなように、アシュリーのもミネルヴァと同じだ。そうだろ?マクシミリアン」
「ああ、そうだな」
「そうですね。そのことはアルシャントがいつも後悔をしています」
シルベスターが続けて言うことにみんなが驚いた。
「後悔してるなら…」
アシュリーが僕を抱きしめて絞り出すように声を出す。
「後悔してるなら…ジュリを俺から取らないでくれよ!」
◇◇◇◇◇
本当の伝承を聞いた後、初代さまたちの話を聞いた。
使い魔たちは北の山に着いてからのことしか知らないけれど、闇黒を退治しに来たのは昔話の通りらしい。五人はアルシャントの母親を看病した。特にミシェルは大地を揺らす張本人(張本ドラゴン?)だからと怖がらずに、献身的に手当てした。
五人が北の山に着いてから一年くらい経った時、五人の介抱も虚しく母親は死んでしまった。残った力全てで国を護ると約束して、息子のことを託した。死ぬ前に母親は自分の力を五人に与えた。特にミシェルには努力で得られない力を与えた。
アルシャントは五人が帰ることを望まなかった。さらに一年一緒に過ごしたけれど、残してきた人々が気にかかるから戻らなければならない。アルシャントに帰ると報告すると、泣いて嫌がった。ミシェルだけは帰らないで、そうでなけりゃ国は護らないと拗ねた。
……僕が見たのはこの時の二人だったんだ。離れ離れになってしまう寂しさがよくわかった。僕にはその理由はわからなかったけれど、アシュリーは未来の子どもたちのためにって言ってた。それは未来の国のためにってことだったんだ。
『アシュは知ってたの?』
『こんな理由で離れてしまってたなんて知らなかった』
それからシルベスターは僕に向かって落ち着いて聞いてくださいと前置きして話し出した。
「アルシャントの具合が数年前から悪いと先ほど言いましたが、これは本当です。そして、寂しいと何度も言うのです。母親はアルシャントを産む時に力尽きてしまいましたが、ドラゴンが些細なことで弱ることはないのです。身体が弱っている理由はわかりませんが、そのことにより気持ちも弱くなっています。ジュリアンの気がミシェルとそっくりだというのは、アルシャントも気付いています。恐らく、アルシャントは……ジュリアンを離さないと思います」
「えっ…」
「どういうことだよ?」
「落ち着いて」
マクシミリアンがアシュリーの手を舐めている。僕はシルベスターの話がうまく飲み込めない。
アシュリーと離れ離れになるの?
国を護るために?
そして、アシュリーの腕の中で意識をなくした。
勇者と発表されてからの不安定な心の原因がわかった。
0
お気に入りに追加
153
あなたにおすすめの小説
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)


幸せの温度
本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。
まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。
俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。
陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。
俺にあんまり触らないで。
俺の気持ちに気付かないで。
……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。
俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。
家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。
そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である


罰ゲームって楽しいね♪
あああ
BL
「好きだ…付き合ってくれ。」
おれ七海 直也(ななみ なおや)は
告白された。
クールでかっこいいと言われている
鈴木 海(すずき かい)に、告白、
さ、れ、た。さ、れ、た!のだ。
なのにブスッと不機嫌な顔をしておれの
告白の答えを待つ…。
おれは、わかっていた────これは
罰ゲームだ。
きっと罰ゲームで『男に告白しろ』
とでも言われたのだろう…。
いいよ、なら──楽しんでやろう!!
てめぇの嫌そうなゴミを見ている顔が
こっちは好みなんだよ!どーだ、キモイだろ!
ひょんなことで海とつき合ったおれ…。
だが、それが…とんでもないことになる。
────あぁ、罰ゲームって楽しいね♪
この作品はpixivにも記載されています。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる