天使のローブ

茉莉花 香乃

文字の大きさ
上 下
137 / 173
第七章

06

しおりを挟む
二重の虚構で守られる国。

衝撃の事実を聞いて、僕たちは混乱した。それでも、北の山に行かなければならないことは変わらない。難しい封印がないのなら逆に気は楽になった。…複雑な気はするけれど、失敗する心配はないのだから。

「俺たちここで寝るからさ、ジュリアンはアシュリーのベッドで寝てくれよ」

あの後、五匹は指輪から出たまま、もう戻らなかった。小さな手乗りサイズならベッド一つで十分だけど何故僕のベッドなのさ?

「ジュリアンもその方がいいだろう?」

僕の耳元でそう囁くと頬をペロペロ舐める。ギルバートにそう言われたから、仕方なくアシュリーと一緒に寝るって言えるってこと?この旅の間は別々のベッドで寝るつもりだったから、僕としても嬉しい。ずっと続く不安に押しつぶされそうだったから。でも…みんなの反応が気になる。

「いいんじゃないですか?アンたちもゆっくりしたいでしょうし。ジュリアンさえ良いなら、そうしてあげてください」

イーノックは五匹のためにベッドを空け渡してあげてって言ってくれた。ダレルとジョナスも少しニヤニヤしているように見えるけれど、頷いてくれる。


「アシュ、抱きしめて」

二人でベッドに横になり甘える。アシュリーの腕の中は僕を癒してくれる。出発してからの緊張と、ジョナスと使い魔たちから聞いた建国以来守り続けられてきた本当の伝承を聞いて心が落ち着かない。

ドキドキとした嫌な動悸が抱きしめられることにより、落ち着いていくのがわかる。

『びっくりしたな』
『うん。想像もしてなかった。これから、どうしたら良いんだろ?』
『旅は続ける。その先はアルシャント…なんか変だな、これの名前が国名なんて』
「ぁっ…んっ…」

そう言って服の中に手を差し入れ、アザをなぞる。

『ふふっ…可愛いジュリ。アルシャントに会って、お祝いをして、あと百年もよろしくって言って直ぐに帰る』
『でも…』
『一緒に帰るよ』
『うん』
『ジュリアン、愛してるよ』
『僕も、愛してる。アシュリーだけだよ……』
「ジュリ?…ジュリ!
ギル!マックス!誰か!ジュリが…」



◇◇◇◇◇



周りは暗く、ここがどこだかわからない。

アシュリーはいないのかな?さっきまで抱きしめていてくれたのに…。温もりはまだ僕の身体に残るのに大好きな人はいない。腕を伸ばして辺りを探すけど、腕は虚しく空を切る。

寂しい。
嫌だ、抱きしめて…。


「やっと会えるんだね」

いつか聞いたことのある声がする。

「君は…もしかして、アルシャント?」
「そうだよ」

途端に明るくなり目の前にドラゴンが現れた。いつか見た夢の中。じゃあ、これも夢?

森の中だ。水の跳ねる音が聞こえ、爽やかな風が吹いている。見上げれば青い空が広がっていた。

アシュリーと僕の胸にあるアザや黄金の剣に彫金されているドラゴンとは違い、やはり迫力がある。目は赤く、身体はシルバーに光り輝いて見える。けれど、こんなに小さいんだ。僕と同じくらいの大きさのアルシャントは、強く大きいっていうドラゴンのイメージとは違い可愛らしい。

「ねえ、アルシャントももっと大きくなれるの?」
「そうだよ」

やっぱり!ギルバートたちが手乗りサイズから、僕を乗せられるくらいの大きさになれるんだからアルシャントも大きくなれるかもって思ったんだ。

「綺麗な色だね」
「ミシェルは僕のことを忘れてしまったの?」
「あっ、あの…ごめんね、僕はミシェルじゃないんだ」
「ああ、そうだね。知ってるんだけどね。人間って、なんでそんなに直ぐに死んじゃうんだ?僕が力をあげても、次々に死んじゃうんだ。ミシェルも最後は弱っちゃって…かわいそうだったな…」
「僕はジュリアンって言うんだ。よろしくね」

アルシャントがあまりにも悲しそうな雰囲気なので、何を言ったのかちゃんと聞いてなかった。

「ここは綺麗なところだね」
「そうだよ。気に入った?」
「えっ?ああ、うん。凄く、素敵なところだよ」
「良かった。気に入ってくれて。待ってるからね。早く来てね。いっぱい、遊ぼうね」
「うん……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

英雄の帰還。その後に

亜桜黄身
BL
声はどこか聞き覚えがあった。記憶にあるのは今よりもっと少年らしい若々しさの残る声だったはずだが。 低くなった声がもう一度俺の名を呼ぶ。 「久し振りだ、ヨハネス。綺麗になったな」 5年振りに再会した従兄弟である男は、そう言って俺を抱き締めた。 ── 相手が大切だから自分抜きで幸せになってほしい受けと受けの居ない世界では生きていけない攻めの受けが攻めから逃げようとする話。 押しが強めで人の心をあまり理解しないタイプの攻めと攻めより精神的に大人なせいでわがままが言えなくなった美人受け。 舞台はファンタジーですが魔王を倒した後の話なので剣や魔法は出てきません。

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

【完結】少年王が望むは…

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
 シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。  15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。  恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか? 【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

処理中です...