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第七章
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ジョナスの言葉は続く。
「このことは陛下と王太子の兄上しか知らない。デュークも知らないんだ」
デューク殿下も知らない?
勇者は別として、一子相伝と言うことか…。
「アルシャントがわがままなんだよ」
ギルバートの言葉に驚いた。
「アルシャントって国名じゃないの?」
「昔話の中の邪悪な暗黒の名前さ」
「えっ…そんなものを国名にしたの、初代さまたちは?」
「ジュリアン、服あげてみろよ。胸の下にアザがあるだろ?」
「ダメだ」
アシュリーが僕を後ろに隠した。
「そんな必要はない」
「じゃあ、アシュリーでいいや」
なんだよと言いながら、アシュリーが服を胸の上までたくし上げる。
「全員の胸に同じアザがあるだろ?これが暗黒の正体。名はアルシャント・フェアースター・ウォルステンホーム・セネティル=カノファム」
「セネティル・カノファムってドラゴンの名前だったんだ。それに、やっぱりみんなにあるんだね、このアザ。じゃあ、ドラゴンが暗黒で、封印する対象なの?」
「封印じゃないんだな」
「あの昔話は全部作り話なの?」
「そうでもないさ。でもな、千五百年も経てば、その時代により脚色もされる。わざと変えた部分もあるしな。ここ五百年はあまり変わらないけど、口伝だった時なんか酷いもんさ。俺たちがなんとか元に戻したけどな」
「わがままって?」
「俺たちが…みんなが北の山と呼ぶ精霊の森に里帰りする時に…」
この旅ってギルバートたちの里帰りなの?
「アルシャントが勇者を連れて来いって言うんだ。とりわけミシェルを気に入って…」
「待てよ。凄い和やかな感じに聞こえるんだけど?」
ダレルの言葉に僕たち三人は頷く。
「昔話の異変が起こった時はアルシャントが生まれた時だ」
「難産でした」
「母親はアルシャントが生まれてしばらくしたら死んでしまった。まあ、しばらくと言っても十年や二十年は経ってたかな」
マクシミリアン、アンブローズ、レイモンドが次々に言葉を繋げる。
「その時の大地の異変があの物語のことさ」
「身体が弱るごとに大地が揺れました」
「そんな時に精霊の森まで来たのがアレースたちさ」
次々に話される内容は今までの常識を覆す。
「ここからはわたしが…。」
シルベスターが他の四匹の周りを一回りして、それぞれに鼻の頭を当てて挨拶のような仕草をした。
「もともとは、アルシャントの母親が、息子が寂しくならないようにと五人に頼んだことが始まりです。百年ごとにここを訪れることを条件にこの国を護ると約束したのです。でも人間はそんなに長生きじゃない。だから、同じ気を持つ勇者を生まれ変わらせ、この地に来ることを約束させました。あなたたちに備わる能力はこの時に授かったものです。北の山に住む神とは…アルシャントの母親で、今はアルシャントのことなのです。神と呼ばれるのに寂しいなんて…そんなことはないとは思うのですが、やはり、ギルバートの言うようにわがままなのかもしれません」
「じゃあ、この旅をする目的は?」
「アルシャントに会って誕生年を祝うことです」
「た、誕生日?」
「今世紀は少し早いですがね」
「じゃあ、じゃあ、この旅に行かなかったらどうなるの?」
「そうですね。アルシャントが拗ねてしまったら…大地は揺れるかもしれませんが、国が滅びることはないでしょう」
「今世紀は早く行かなきゃならないって、シルベスターが言ったんだよね?どうして?行かなくてもいいなら早くなるのもおかしいよね?」
僕がする質問にアシュリーたちは静かに聴いている。
「わたしたちは移転魔法は使えません。でも、一晩で精霊の森まで飛ぶことができます。わたしは度々北の山まで赴き、アルシャントに会ってきていました。アルシャントの具合が良くないのは数年前からでしたが、ここ一年はよくありません。こんなことは初めてで、わたしたちも戸惑っています。勇者が五人揃ってアルシャントに会うことで、今回の病も回復するのではないかと思われます」
「どうして?僕たちの力はアルシャントのお母さんがくれたんだったら、それ以上の力がアルシャントにあるってことでしょ?それなら僕たちの力なんて微々たるものなんじゃないの?」
「アルシャントの力をそれぞれに与えたから、その力はアルシャントを癒すでしょう」
「そうなんだ」
「それに…」
「それに?」
「ミシェル…」
「ミ、ミシェル?」
「ミシェルに会いたがっています」
「ミシェルは死んでしまってるよ。僕はミシェルじゃない」
「それでも、アルシャントはミシェルをとても気に入っていましたから、ジュリアンに会いたいのじゃないですか?行くたびに、ミシェルはまだなのと聞きますから」
「このことは陛下と王太子の兄上しか知らない。デュークも知らないんだ」
デューク殿下も知らない?
勇者は別として、一子相伝と言うことか…。
「アルシャントがわがままなんだよ」
ギルバートの言葉に驚いた。
「アルシャントって国名じゃないの?」
「昔話の中の邪悪な暗黒の名前さ」
「えっ…そんなものを国名にしたの、初代さまたちは?」
「ジュリアン、服あげてみろよ。胸の下にアザがあるだろ?」
「ダメだ」
アシュリーが僕を後ろに隠した。
「そんな必要はない」
「じゃあ、アシュリーでいいや」
なんだよと言いながら、アシュリーが服を胸の上までたくし上げる。
「全員の胸に同じアザがあるだろ?これが暗黒の正体。名はアルシャント・フェアースター・ウォルステンホーム・セネティル=カノファム」
「セネティル・カノファムってドラゴンの名前だったんだ。それに、やっぱりみんなにあるんだね、このアザ。じゃあ、ドラゴンが暗黒で、封印する対象なの?」
「封印じゃないんだな」
「あの昔話は全部作り話なの?」
「そうでもないさ。でもな、千五百年も経てば、その時代により脚色もされる。わざと変えた部分もあるしな。ここ五百年はあまり変わらないけど、口伝だった時なんか酷いもんさ。俺たちがなんとか元に戻したけどな」
「わがままって?」
「俺たちが…みんなが北の山と呼ぶ精霊の森に里帰りする時に…」
この旅ってギルバートたちの里帰りなの?
「アルシャントが勇者を連れて来いって言うんだ。とりわけミシェルを気に入って…」
「待てよ。凄い和やかな感じに聞こえるんだけど?」
ダレルの言葉に僕たち三人は頷く。
「昔話の異変が起こった時はアルシャントが生まれた時だ」
「難産でした」
「母親はアルシャントが生まれてしばらくしたら死んでしまった。まあ、しばらくと言っても十年や二十年は経ってたかな」
マクシミリアン、アンブローズ、レイモンドが次々に言葉を繋げる。
「その時の大地の異変があの物語のことさ」
「身体が弱るごとに大地が揺れました」
「そんな時に精霊の森まで来たのがアレースたちさ」
次々に話される内容は今までの常識を覆す。
「ここからはわたしが…。」
シルベスターが他の四匹の周りを一回りして、それぞれに鼻の頭を当てて挨拶のような仕草をした。
「もともとは、アルシャントの母親が、息子が寂しくならないようにと五人に頼んだことが始まりです。百年ごとにここを訪れることを条件にこの国を護ると約束したのです。でも人間はそんなに長生きじゃない。だから、同じ気を持つ勇者を生まれ変わらせ、この地に来ることを約束させました。あなたたちに備わる能力はこの時に授かったものです。北の山に住む神とは…アルシャントの母親で、今はアルシャントのことなのです。神と呼ばれるのに寂しいなんて…そんなことはないとは思うのですが、やはり、ギルバートの言うようにわがままなのかもしれません」
「じゃあ、この旅をする目的は?」
「アルシャントに会って誕生年を祝うことです」
「た、誕生日?」
「今世紀は少し早いですがね」
「じゃあ、じゃあ、この旅に行かなかったらどうなるの?」
「そうですね。アルシャントが拗ねてしまったら…大地は揺れるかもしれませんが、国が滅びることはないでしょう」
「今世紀は早く行かなきゃならないって、シルベスターが言ったんだよね?どうして?行かなくてもいいなら早くなるのもおかしいよね?」
僕がする質問にアシュリーたちは静かに聴いている。
「わたしたちは移転魔法は使えません。でも、一晩で精霊の森まで飛ぶことができます。わたしは度々北の山まで赴き、アルシャントに会ってきていました。アルシャントの具合が良くないのは数年前からでしたが、ここ一年はよくありません。こんなことは初めてで、わたしたちも戸惑っています。勇者が五人揃ってアルシャントに会うことで、今回の病も回復するのではないかと思われます」
「どうして?僕たちの力はアルシャントのお母さんがくれたんだったら、それ以上の力がアルシャントにあるってことでしょ?それなら僕たちの力なんて微々たるものなんじゃないの?」
「アルシャントの力をそれぞれに与えたから、その力はアルシャントを癒すでしょう」
「そうなんだ」
「それに…」
「それに?」
「ミシェル…」
「ミ、ミシェル?」
「ミシェルに会いたがっています」
「ミシェルは死んでしまってるよ。僕はミシェルじゃない」
「それでも、アルシャントはミシェルをとても気に入っていましたから、ジュリアンに会いたいのじゃないですか?行くたびに、ミシェルはまだなのと聞きますから」
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