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第六章
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☆★☆ ★☆★ ☆★☆
今日は新年の祝賀会が王宮で開かれる。
丁度一年前の今日、僕たち勇者の発表があった。怒涛の一年だった。公式な行事に参加することはなかったけれど、国中の意識が変わったと思う。
一番の変化は学園の中だろう。問題なく過ぎていく日常は隊長始めクラスメイトやみんなのお陰だ。
謁見の間に両陛下、コーディー殿下、ジョナス殿下、デューク殿下の両脇に僕たち勇者も並び、新年の挨拶を受ける。
収穫祭の時にジョナス殿下に言われた御前会議の議題はこれのことだった。先代は祝賀行事にこのように陛下の隣に立つことはなかったそうだけど、今年は要望が多くてどうにかできないかと聞かれた。父上たちは反対してくれたけれど、陛下の意思は思いの外強かった。
学園でジョナス殿下と数年過ごした時、殿下は一生徒ではあるけれど公人であり常に人の目に晒されて生活されていた。そこに座られているだけで人目を惹くオーラは隠しようもなく、堂々とした立ち居振る舞いはみんなの憧れの的だった。僕たちに殿下と同じものを求められているのだ。
各地で起こる異変での不満を、少しでも和らげたいとの陛下の思いは痛いほどわかる。僕たちができることはしたい。それは四人の共通の思いだった。そんなことしかできないことが逆に申し訳なく思う。
挨拶を終えた貴族たちは、今年は特別に参加している勇者と挨拶だけでもしたいと謁見の間の隣の控え室は混み合っていた。これも陛下直々の願いだった。
その中にイーノックの実父もいる。目で挨拶を交わし、お互いの健康を喜ぶ。アンブローズはあってはならないことと怒っていたけれど、イーノックにとっては知ることができて良かったと思う。
「今の人で最後?」
「俺、みんな同じ顔に見える」
「僕も…」
「一度に全ての人は覚えられないでしょう」
「イーノック、良かったな」
アシュリーが何気無い感じで話しかけるのに慌てる。
「ああ、父上ですか?」
「イーノック!」
「大丈夫ですよ。そんなに慌てないで、ジュリアン」
「そうだぞ?そんなに慌てる方が怪しくなる」
「そ、そうだよね…ははっ…」
そして、僕たちの控え室に移った。謁見の間の近くは落ち着かない。
「先ほど父上に呼ばれて、父上の執務室に入ったらミーガンさまがいらしてびっくりしたよ」
僕が言葉も出ないくらい驚いてるのに、アシュリーとダレルは落ち着いている。隣に座るアシュリーの手を握り、驚く心を落ち着かせる。
「モットレイは養殖している魚の発育が悪いそうです。山の栄養が足りなくてと言ってましたよ」
ああ、陳情という形を取ったのか?
「交易は野菜が不出来なので、工芸品などでまかなっているようです。需要があるものはいいのですが…やはり野菜の不作は深刻なようです」
突然、ノックもなしにドアが開きジョナス殿下がシンクレア隊長を伴って入ってきた。
「晩餐会のパートナーは決まってるんだろうな?」
「俺、姉貴に頼んだけど…良いかな?」
夜に開かれる陛下主催の晩餐会にパートナーを伴って参加しなければならない。ダレルは女性を誘うことを早々に諦め、僕たちはこの晩餐会に出席が決まった時から悩んでいた。
「俺は…マシュがようやくドレスを着るの受けてくれましたから、マシュと…」
「俺たちは二人で…このままの姿で二人で出席します」
一昨年まではアシュリーの誕生パーティでは僕がドレスを着た。でも、今回はそうもいかない。お互いが女性と踊ることを拒否すれば自ずとそうなる。最初、渋っていた父上も仕方ないと許してくれた。今更二人の仲を反対するのかと思ったけれど違った。どうやら会場の席を勇者それぞれを囲むように五つに分けてあって、今から四つに分けられるかと、調整していてくれたようだ。貴族のバランスを考えて席順が決められているため、一度決まったものを変更するのはかなり厄介だと言われた。
「ああ、聞いてる。ネイトが怒ってた。一曲くらい踊ってくれてもいいのにってブツブツ文句言ってた。あんなイライラした宰相は久しぶりに見たよ」
ククッと楽しそうに笑う殿下の後ろには、ローザが綺麗な淡いピンクのドレスを着て恥ずかしそうに下を向いてる。もしかして…殿下のお相手はローザ?
「ローザ」
パッと顔を上げた従姉妹は、優雅な所作で殿下に一礼すると僕の前までやって来た。
「ごきげんよう、ジュリ。ごめんね、ジュリの相手してあげられなくて」
「そんなの、良いんだよ。殿下と踊るの?」
「うん…」
「すごく、お似合いだよ。今日のドレスもよく似合ってる。いつ誘われたの?」
「一年前にここでお会いしてから、時々遊びにおいでって誘ってくださるの。今回も、正式にお父さまに申し込んでくださって」
「そうなんだ。まるで結婚の申し込みのようだね」
途端に下を向き頬を染める。
「ち、違うから」
その違うは恥ずかしさからの言葉なのか?殿下のお気持ちはどうなのだろう?
隣に座るアシュリーもローザから殿下に視線を移し確かめるように見つめる。僕たちの視線を感じながらも、殿下は何も言わなかった。まだ早いと言うことなのか?
今日は新年の祝賀会が王宮で開かれる。
丁度一年前の今日、僕たち勇者の発表があった。怒涛の一年だった。公式な行事に参加することはなかったけれど、国中の意識が変わったと思う。
一番の変化は学園の中だろう。問題なく過ぎていく日常は隊長始めクラスメイトやみんなのお陰だ。
謁見の間に両陛下、コーディー殿下、ジョナス殿下、デューク殿下の両脇に僕たち勇者も並び、新年の挨拶を受ける。
収穫祭の時にジョナス殿下に言われた御前会議の議題はこれのことだった。先代は祝賀行事にこのように陛下の隣に立つことはなかったそうだけど、今年は要望が多くてどうにかできないかと聞かれた。父上たちは反対してくれたけれど、陛下の意思は思いの外強かった。
学園でジョナス殿下と数年過ごした時、殿下は一生徒ではあるけれど公人であり常に人の目に晒されて生活されていた。そこに座られているだけで人目を惹くオーラは隠しようもなく、堂々とした立ち居振る舞いはみんなの憧れの的だった。僕たちに殿下と同じものを求められているのだ。
各地で起こる異変での不満を、少しでも和らげたいとの陛下の思いは痛いほどわかる。僕たちができることはしたい。それは四人の共通の思いだった。そんなことしかできないことが逆に申し訳なく思う。
挨拶を終えた貴族たちは、今年は特別に参加している勇者と挨拶だけでもしたいと謁見の間の隣の控え室は混み合っていた。これも陛下直々の願いだった。
その中にイーノックの実父もいる。目で挨拶を交わし、お互いの健康を喜ぶ。アンブローズはあってはならないことと怒っていたけれど、イーノックにとっては知ることができて良かったと思う。
「今の人で最後?」
「俺、みんな同じ顔に見える」
「僕も…」
「一度に全ての人は覚えられないでしょう」
「イーノック、良かったな」
アシュリーが何気無い感じで話しかけるのに慌てる。
「ああ、父上ですか?」
「イーノック!」
「大丈夫ですよ。そんなに慌てないで、ジュリアン」
「そうだぞ?そんなに慌てる方が怪しくなる」
「そ、そうだよね…ははっ…」
そして、僕たちの控え室に移った。謁見の間の近くは落ち着かない。
「先ほど父上に呼ばれて、父上の執務室に入ったらミーガンさまがいらしてびっくりしたよ」
僕が言葉も出ないくらい驚いてるのに、アシュリーとダレルは落ち着いている。隣に座るアシュリーの手を握り、驚く心を落ち着かせる。
「モットレイは養殖している魚の発育が悪いそうです。山の栄養が足りなくてと言ってましたよ」
ああ、陳情という形を取ったのか?
「交易は野菜が不出来なので、工芸品などでまかなっているようです。需要があるものはいいのですが…やはり野菜の不作は深刻なようです」
突然、ノックもなしにドアが開きジョナス殿下がシンクレア隊長を伴って入ってきた。
「晩餐会のパートナーは決まってるんだろうな?」
「俺、姉貴に頼んだけど…良いかな?」
夜に開かれる陛下主催の晩餐会にパートナーを伴って参加しなければならない。ダレルは女性を誘うことを早々に諦め、僕たちはこの晩餐会に出席が決まった時から悩んでいた。
「俺は…マシュがようやくドレスを着るの受けてくれましたから、マシュと…」
「俺たちは二人で…このままの姿で二人で出席します」
一昨年まではアシュリーの誕生パーティでは僕がドレスを着た。でも、今回はそうもいかない。お互いが女性と踊ることを拒否すれば自ずとそうなる。最初、渋っていた父上も仕方ないと許してくれた。今更二人の仲を反対するのかと思ったけれど違った。どうやら会場の席を勇者それぞれを囲むように五つに分けてあって、今から四つに分けられるかと、調整していてくれたようだ。貴族のバランスを考えて席順が決められているため、一度決まったものを変更するのはかなり厄介だと言われた。
「ああ、聞いてる。ネイトが怒ってた。一曲くらい踊ってくれてもいいのにってブツブツ文句言ってた。あんなイライラした宰相は久しぶりに見たよ」
ククッと楽しそうに笑う殿下の後ろには、ローザが綺麗な淡いピンクのドレスを着て恥ずかしそうに下を向いてる。もしかして…殿下のお相手はローザ?
「ローザ」
パッと顔を上げた従姉妹は、優雅な所作で殿下に一礼すると僕の前までやって来た。
「ごきげんよう、ジュリ。ごめんね、ジュリの相手してあげられなくて」
「そんなの、良いんだよ。殿下と踊るの?」
「うん…」
「すごく、お似合いだよ。今日のドレスもよく似合ってる。いつ誘われたの?」
「一年前にここでお会いしてから、時々遊びにおいでって誘ってくださるの。今回も、正式にお父さまに申し込んでくださって」
「そうなんだ。まるで結婚の申し込みのようだね」
途端に下を向き頬を染める。
「ち、違うから」
その違うは恥ずかしさからの言葉なのか?殿下のお気持ちはどうなのだろう?
隣に座るアシュリーもローザから殿下に視線を移し確かめるように見つめる。僕たちの視線を感じながらも、殿下は何も言わなかった。まだ早いと言うことなのか?
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