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第六章
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「マシューか…」
ギャリーがイーノックの肩に置いていた手をポンポンと叩いた。
「食事会を学年ごとに行うのも、それが目的なのか?」
わたしがとガイが前に出て説明する。
「低学年から不満が出ていたのは本当です。満遍なくと心がけていても、高学年からの申し込み数が多いのでどうしてもそう見えてしまいます。開催の回数を変えないなら、勇者にも負担はないと思い、今回二年生を集めて情報を得ようとしました。申し訳ありません」
深々と頭を下げて謝る姿に、僕も一緒に頭を下げる。
「ガイだけが悪いんじゃないんです」
「そのような!止めてください。みんながイーノックやマシューの為に動いてくれていたことは兄としてお礼を言います。けれど、ここからは我が家の問題のようです」
イーノックを見て、場所を変えようと背中を押す。
「あの…俺たちも同席してもいいですか?」
ダレルが遠慮がちにギャリーに言う。少し考え、一緒に行くことを許してくれた。自分の部屋に招き入れて杖を振り椅子を出して、もう一度杖を振りお茶の用意をしてくれた。手際いい。全員が座ると、間を置かずギャリーがイーノックに質問する。
「マシューにお前の秘密を言ったのか?」
「いえ、兄上…言っていません」
「マシューを抱いたのか?」
全員の視線を集め、落ち着いた様子で兄君を見返すイーノックはゆっくりと口を開いた。
「はい」
ガタッと立ち上がり、イーノックも立たせると殴りかかった。避けることなくその拳を受ける。まるでそれが贖罪であるかのように、ギャリーに殴られるままそれを受け、その場に倒れた。
「ギャリー!」
「「イーノック!」」
ダレルとアシュリーがイーノックに駆け寄り、僕はまるで自分が殴られたかのように蹲るギャリーを抱きしめた。しばらくそうしていると、興奮で小刻みに震えていた肩の力が抜けていく。
「落ち着きましたか?」
「ああ。ありがとう、ジュリアン」
もう一度、みんなで椅子に座る。
「あの…マシューはイーノックの事を嫌がったりしていませんでした。今回もマシューが申し込んでいたんです」
「わかってる…」
「俺は謝りません。謝ったら…マシュに対する気持ちが嘘になる。俺はマシューの事を愛してる」
「お前は兄弟じゃないと知っているから良いよ。マシューはどうする?兄とそういう関係になり、今後悩むぞ?今は深く考えられない精神状態だけなんだ。それに世間も。絶対!絶対秘密にしてやってくれ!勇者は何をしても人の口に登る。俺はイーノックが勇者であると教えられた時に、実の弟でないことも知った。それからもお前は俺の弟だ。その気持ちは今も、これからも変わらない。でも、マシューも可愛い弟なんだ。何にせよ傷つく姿は見たくない。だから、極端に避けるようなこともして欲しくない。マシューは…イーノックの事が……好きなんだ。兄として、多分今は一人の人として。実家にいる時からお前たちの距離は近かった。でも、兄弟としてだった。恐らく、イーノックが抑えてたんだろ?それ以上どうにかなることはなかった。でも、血の繋がりが無いことを知ってしまった。最後まで、抑えてくれれば良かったのに…」
「……兄上…」
「反対ではないのですか?」
アシュリーの言葉にギャリーは肩をすくめる。
「反対したところで、人の気持ちは変わらない。アシュリーだってそうだろ?誰に何を言われようがジュリアンを愛する気持ちは揺るがないだろ?俺が反対だからもう会うなと言ったところでそれは無理だ。諸手を挙げて賛成することはできないけれど、反対は……しない。ただ、二人が傷付かないように…、幸せに…、それを望むだけだ」
「マシューに実の兄弟ではないと教えるのですか?」
「それは…。どうなんだろ?アンブローズに任せるよ。俺もアンから聞いたから」
アンブローズがテーブルに現れると、ギルバートたちも一斉に指輪から出てきた。
「こんな時でなかったら感動なのにな…あとはジョナス殿下のシルベスターが揃えば…凄いな」
四色の使い魔が鼻をコツンと当てて挨拶する。
「アン…」
イーノックが手を差し出すと、アンブローズがその上に乗った。ギルバートたちはテーブルの上で前脚に頭を乗せて目を瞑る。
ギャリーがイーノックの肩に置いていた手をポンポンと叩いた。
「食事会を学年ごとに行うのも、それが目的なのか?」
わたしがとガイが前に出て説明する。
「低学年から不満が出ていたのは本当です。満遍なくと心がけていても、高学年からの申し込み数が多いのでどうしてもそう見えてしまいます。開催の回数を変えないなら、勇者にも負担はないと思い、今回二年生を集めて情報を得ようとしました。申し訳ありません」
深々と頭を下げて謝る姿に、僕も一緒に頭を下げる。
「ガイだけが悪いんじゃないんです」
「そのような!止めてください。みんながイーノックやマシューの為に動いてくれていたことは兄としてお礼を言います。けれど、ここからは我が家の問題のようです」
イーノックを見て、場所を変えようと背中を押す。
「あの…俺たちも同席してもいいですか?」
ダレルが遠慮がちにギャリーに言う。少し考え、一緒に行くことを許してくれた。自分の部屋に招き入れて杖を振り椅子を出して、もう一度杖を振りお茶の用意をしてくれた。手際いい。全員が座ると、間を置かずギャリーがイーノックに質問する。
「マシューにお前の秘密を言ったのか?」
「いえ、兄上…言っていません」
「マシューを抱いたのか?」
全員の視線を集め、落ち着いた様子で兄君を見返すイーノックはゆっくりと口を開いた。
「はい」
ガタッと立ち上がり、イーノックも立たせると殴りかかった。避けることなくその拳を受ける。まるでそれが贖罪であるかのように、ギャリーに殴られるままそれを受け、その場に倒れた。
「ギャリー!」
「「イーノック!」」
ダレルとアシュリーがイーノックに駆け寄り、僕はまるで自分が殴られたかのように蹲るギャリーを抱きしめた。しばらくそうしていると、興奮で小刻みに震えていた肩の力が抜けていく。
「落ち着きましたか?」
「ああ。ありがとう、ジュリアン」
もう一度、みんなで椅子に座る。
「あの…マシューはイーノックの事を嫌がったりしていませんでした。今回もマシューが申し込んでいたんです」
「わかってる…」
「俺は謝りません。謝ったら…マシュに対する気持ちが嘘になる。俺はマシューの事を愛してる」
「お前は兄弟じゃないと知っているから良いよ。マシューはどうする?兄とそういう関係になり、今後悩むぞ?今は深く考えられない精神状態だけなんだ。それに世間も。絶対!絶対秘密にしてやってくれ!勇者は何をしても人の口に登る。俺はイーノックが勇者であると教えられた時に、実の弟でないことも知った。それからもお前は俺の弟だ。その気持ちは今も、これからも変わらない。でも、マシューも可愛い弟なんだ。何にせよ傷つく姿は見たくない。だから、極端に避けるようなこともして欲しくない。マシューは…イーノックの事が……好きなんだ。兄として、多分今は一人の人として。実家にいる時からお前たちの距離は近かった。でも、兄弟としてだった。恐らく、イーノックが抑えてたんだろ?それ以上どうにかなることはなかった。でも、血の繋がりが無いことを知ってしまった。最後まで、抑えてくれれば良かったのに…」
「……兄上…」
「反対ではないのですか?」
アシュリーの言葉にギャリーは肩をすくめる。
「反対したところで、人の気持ちは変わらない。アシュリーだってそうだろ?誰に何を言われようがジュリアンを愛する気持ちは揺るがないだろ?俺が反対だからもう会うなと言ったところでそれは無理だ。諸手を挙げて賛成することはできないけれど、反対は……しない。ただ、二人が傷付かないように…、幸せに…、それを望むだけだ」
「マシューに実の兄弟ではないと教えるのですか?」
「それは…。どうなんだろ?アンブローズに任せるよ。俺もアンから聞いたから」
アンブローズがテーブルに現れると、ギルバートたちも一斉に指輪から出てきた。
「こんな時でなかったら感動なのにな…あとはジョナス殿下のシルベスターが揃えば…凄いな」
四色の使い魔が鼻をコツンと当てて挨拶する。
「アン…」
イーノックが手を差し出すと、アンブローズがその上に乗った。ギルバートたちはテーブルの上で前脚に頭を乗せて目を瞑る。
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