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第六章
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イーノックに斬られた水の玉は分裂して僕の周りに浮き始めた。その水の玉に少しだけ癒しの力を加え、参加者の頭上に一つずつ持っていく。そして、破裂させた。水は霧散して濡れはしない。イーノックの炎と僕の癒しで仄かに暖かい気が参加者の身体を包む。
感嘆のため息と、拍手が鳴り響いた。上級生なら僕が破裂させる前に水の玉に魔法を掛けて持ち帰ろうとする人もいる。しかし、二年生はただただ驚き、喜んでいる。毎回同じことをするわけじゃない。今回は二人なのでイーノックと話し合った。
僕とイーノックが席に着くと食事が用意される。クラスメイトが四つに分かれ、それぞれ動いてくれている。他にも手伝いたいと申し込みがあるそうだけど、今のところその受付はしていないそうだ。
その間もイーノックの視線はマシューにいき、ユージンの視線もマシューに絡む。隣に座るユージンとマシューの視線が合うことはない。マシューはなるべくユージンの方を見ないようにしているようだけど、ユージンは何かと話かけている。マシューは下を向き、唇を噛む。
「ジュリアン、マシュの隣に座ってる奴の名前を知っていますか?」
「えっ?」
し、知ってるけど…。なんか怖い。怒ってる?
「どうしたの?」
「いえ…マシュが嫌がってるのに、執拗に話しかけているみたいなので、気になったのですよ」
「そうなんだ」
確かに僕にもそう見えた。しかし、僕は虐めがあるかと疑う目で見ているからユージンのちょっとした行動にも、マシューの表情にも敏感になってる。けれど、ランディーが言っていた通りよく見ないとわからない程度だ。つまり、イーノックがよく見てるってこと。
「ザカリーに聞いたらわかるでしょう」
弟の事をここまで気にするのかな?確かに僕の兄上たちは必要以上に僕を構うし、心配する。けれど、違うような気がする。それは僕を気遣うアシュリーのような…。
食事が終わり、片付けをしている時だった。ユージンの手がマシューの腕を掴む。
イーノックの気が変わった。
会場が騒めく。
「イーノック!ダメ!」
ローブの袖を引っ張り、落ち着けと小さな声で言った。
有難いことに、昼の休み時間は短い。いつもの食事会でも思うことだけど、今日は特に夜でなくて良かった。
イーノックの強過ぎる気に、ザカリー、ケントを始め、手伝いに来ていたクラスメイト、イーノックの兄君のギャリー、ロドニー兄上が気付いた。
「そろそろお昼の休みが終わりますので、散会と致します」
ギャリーが慌てて、イーノックに近寄り自制しろ!と窘めた。参加者の二年生は何かわからない強い気にザワザワとしながらも、ロドニー兄上に促されて退出した。
『ジュリ!イーノックに何かあったのか?』
『失敗した…マシューが虐められてるって気付いたみたい』
『ダレルとそこに行く』
クラスメイトはイーノックの変化にどうしたらいいかわからないまでも、何かがあったのだと知る。
「ここは俺が引き受ける。そうだな、ザカリーとケントは残って」
僕とガイも当然同席するために残るとギャリーは何も言わなかった。アシュリーとダレルがクラスメイトと入れ替わりに入ってくる。
「イーノックどうしたんだ?お前らしくない」
「兄上、すみません…」
いつものイーノックに戻っていて安心する。ユージンを殴るんじゃないかと会場から出て行くまでヒヤヒヤだった。ギャリーが隣にいなければ何をしていたかわからない怖さがある。やはり、兄君には逆らえないのだろう。
「悪かったな、みんな。もう大丈夫だ」
『アシュ…イーノックはマシューの事……』
『マシューの事?どうしたの?』
『マシューの事…アシュリーが僕を心配するような感じがしたんだ。イーノックとマシューは本当の兄弟じゃない…』
『でも、知ったのは最近だぞ?』
『そうだね。でも…』
『知る前から、そうだったってことか?知ってしまい、箍が外れたのかな』
「俺が説明するよ」
アシュリーがギャリーの前に出る。
「俺が悪かった。マシューが虐められてるって話をたまたま聞いて、調べてたんだ。俺は見てないけど、まさかこの場で何かをするとは思わなくって、参加させた」
感嘆のため息と、拍手が鳴り響いた。上級生なら僕が破裂させる前に水の玉に魔法を掛けて持ち帰ろうとする人もいる。しかし、二年生はただただ驚き、喜んでいる。毎回同じことをするわけじゃない。今回は二人なのでイーノックと話し合った。
僕とイーノックが席に着くと食事が用意される。クラスメイトが四つに分かれ、それぞれ動いてくれている。他にも手伝いたいと申し込みがあるそうだけど、今のところその受付はしていないそうだ。
その間もイーノックの視線はマシューにいき、ユージンの視線もマシューに絡む。隣に座るユージンとマシューの視線が合うことはない。マシューはなるべくユージンの方を見ないようにしているようだけど、ユージンは何かと話かけている。マシューは下を向き、唇を噛む。
「ジュリアン、マシュの隣に座ってる奴の名前を知っていますか?」
「えっ?」
し、知ってるけど…。なんか怖い。怒ってる?
「どうしたの?」
「いえ…マシュが嫌がってるのに、執拗に話しかけているみたいなので、気になったのですよ」
「そうなんだ」
確かに僕にもそう見えた。しかし、僕は虐めがあるかと疑う目で見ているからユージンのちょっとした行動にも、マシューの表情にも敏感になってる。けれど、ランディーが言っていた通りよく見ないとわからない程度だ。つまり、イーノックがよく見てるってこと。
「ザカリーに聞いたらわかるでしょう」
弟の事をここまで気にするのかな?確かに僕の兄上たちは必要以上に僕を構うし、心配する。けれど、違うような気がする。それは僕を気遣うアシュリーのような…。
食事が終わり、片付けをしている時だった。ユージンの手がマシューの腕を掴む。
イーノックの気が変わった。
会場が騒めく。
「イーノック!ダメ!」
ローブの袖を引っ張り、落ち着けと小さな声で言った。
有難いことに、昼の休み時間は短い。いつもの食事会でも思うことだけど、今日は特に夜でなくて良かった。
イーノックの強過ぎる気に、ザカリー、ケントを始め、手伝いに来ていたクラスメイト、イーノックの兄君のギャリー、ロドニー兄上が気付いた。
「そろそろお昼の休みが終わりますので、散会と致します」
ギャリーが慌てて、イーノックに近寄り自制しろ!と窘めた。参加者の二年生は何かわからない強い気にザワザワとしながらも、ロドニー兄上に促されて退出した。
『ジュリ!イーノックに何かあったのか?』
『失敗した…マシューが虐められてるって気付いたみたい』
『ダレルとそこに行く』
クラスメイトはイーノックの変化にどうしたらいいかわからないまでも、何かがあったのだと知る。
「ここは俺が引き受ける。そうだな、ザカリーとケントは残って」
僕とガイも当然同席するために残るとギャリーは何も言わなかった。アシュリーとダレルがクラスメイトと入れ替わりに入ってくる。
「イーノックどうしたんだ?お前らしくない」
「兄上、すみません…」
いつものイーノックに戻っていて安心する。ユージンを殴るんじゃないかと会場から出て行くまでヒヤヒヤだった。ギャリーが隣にいなければ何をしていたかわからない怖さがある。やはり、兄君には逆らえないのだろう。
「悪かったな、みんな。もう大丈夫だ」
『アシュ…イーノックはマシューの事……』
『マシューの事?どうしたの?』
『マシューの事…アシュリーが僕を心配するような感じがしたんだ。イーノックとマシューは本当の兄弟じゃない…』
『でも、知ったのは最近だぞ?』
『そうだね。でも…』
『知る前から、そうだったってことか?知ってしまい、箍が外れたのかな』
「俺が説明するよ」
アシュリーがギャリーの前に出る。
「俺が悪かった。マシューが虐められてるって話をたまたま聞いて、調べてたんだ。俺は見てないけど、まさかこの場で何かをするとは思わなくって、参加させた」
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