天使のローブ

茉莉花 香乃

文字の大きさ
上 下
114 / 173
第六章

03

しおりを挟む
ケントは本当にわからないんだ。

「ちょっとここに立ってみて?」

向かい合わせに立ってみる。一年生からケントとの身長差は縮まらなかった。当然僕の方が低い。当然?…自分で言っててこれは辛い言葉だね…。

「椅子じゃ高すぎるよね?」

そう言って、杖を振り半分くらいの高さに変えてしまう。

「これでいいかな?」

低くした椅子に僕を立たせ、もう一度向かい合わせに立つ。

「うん、これくらいかな」

僕はいつもと違う景色に戸惑いつつ、ケントの頭を撫でてみる。

「ちょっ、ジュリアン、やめてよ」
「だって、僕クラスで一番低いからこんなふうに人の頭を撫でたのって、妹のセシリアかイーノックの弟のマシューくらいしかないんだ。なんか、新鮮」
「じゃあ、いくよ」

ドキドキする。

見つめあって、ケントが僕の肩に手を置いた。顎をぐっと上に向け、背伸びする。目をつむり唇を少しすぼませてだんだん僕に迫ってくる。

「ジュリ!」
「ケント!」

ほぼ同時に発せられたそれぞれの名前に入口を見る。僕はバランスを崩し椅子から落ちかけたけど、アシュリーに抱きとめられた。

「アシュ、ありがとう」

ケントを見ると、どこからも落ちるわけないのにこちらもガイに抱きしめられている。

「「何をしてたんだ?」」

少し怖い声音で二人が同じことを聞く。

「ケントが…」

僕がその先の言葉を探しているとガイがパッとケントを離してしまった。

「すみません。取り乱してしまいました」

ケントが悲しそうに良いよと言って低くした椅子を元に戻した。

『何度か話しかけたんだけど返事ないから』
『ごめん…』

緊張で、ケントに意識が集中してて、アシュリーに返事し忘れてた。

「ドアをノックしても返事ないから、入ったんだ」

今度はケントにも、どうして突然入ってきたかを説明する。

「ごめん、俺…」

二人は少し距離を取り見つめ合う。
ケントはともすれば下を向いてしまう顔を懸命に上げて、ガイと向き合おうとする。ガイは誤りはしたものの入って来た時の激昂した感情をそのままにケントを見つめた。

「なんかさ…キスしそうに見えて慌てたんだけど。多分ガイも…そうだろ?」

ガイはケントを見たまま頷く。

『ケントはガイとキスしたいなって思ってて。でも、ガイはそうじゃないみたいって悩んでたんだ』
『でも、どうしてあんな格好で向き合ってたんだ?』

強い口調で言われたら困る。

『アシュ、怒らないで?』
『怒ってない。聞いてるんだよ?』
『うん。待ってないでケントからしたらって言ったら、したことないって言うんだ。だから、仕方がわからないって』

突然顔を覗き込まれて焦る。

『ち、違うよ!キスしようとしたわけじゃないから。触れるつもりはなかったんだ』
『ほんと?』

うんうんと激しく首を上下に振り返事する。

「違うよ!ジュリアンとキスなんかしない!」

僕は未だにアシュリーの腕の中で、ケントとガイは向かい合ってる。

「ケント、頑張って!」

チラリと僕を見て頷くと、ガイにずいっと近寄った。

「ガ、ガイ、あの…キ、キスはジュリアンとじゃなくて、ガイと、あの…」
「俺と?俺とならキス…しても良いと?」

真っ赤になってコクリと頷いた。俯いたまま顔を上げることができない。それ以上は何も言わず、動かないガイにケントは泣きそうだ。

「い、嫌なら……ごめん、変なこと言って」

少しずつ後退りしてガイと距離を取る……ことはできなかった。ガイがケントを抱きしめる。

「ケント」

顎を持ち、顔を上げさせると唇を合わせた。
一瞬触れて直ぐに離れた唇をケントがなぞるように指で触れる。

「嬉しい…ガイは嫌じゃない?」

硬直しているのか動かないガイにケントはだんだん不安になったようだ。

「無理させて…ごめん。俺は嬉しかったよ、ありがとう。もうこんなこと言わないか…っん…あっん」

その続きの言葉は言えなかった。

た、多分舌が入り込んでるんだろう。物凄く恥ずかしい。きっとファーストキスだ。目撃してしまった。人のキスシーンなんて初めて見た。申し訳なくて、アシュリーの胸に顔を隠した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

みなしご白虎が獣人異世界でしあわせになるまで

キザキ ケイ
BL
親を亡くしたアルビノの小さなトラは、異世界へ渡った────…… 気がつくと知らない場所にいた真っ白な子トラのタビトは、子ライオンのレグルスと出会い、彼が「獣人」であることを知る。 獣人はケモノとヒト両方の姿を持っていて、でも獣人は恐ろしい人間とは違うらしい。 故郷に帰りたいけれど、方法が分からず途方に暮れるタビトは、レグルスとふれあい、傷ついた心を癒やされながら共に成長していく。 しかし、珍しい見た目のタビトを狙うものが現れて────?

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

【完結】ワンコ系オメガの花嫁修行

古井重箱
BL
【あらすじ】アズリール(16)は、オメガ専用の花嫁学校に通うことになった。花嫁学校の教えは、「オメガはアルファに心を開くなかれ」「閨事では主導権を握るべし」といったもの。要するに、ツンデレがオメガの理想とされている。そんな折、アズリールは王太子レヴィウス(19)に恋をしてしまう。好きな人の前ではデレデレのワンコになり、好き好きオーラを放ってしまうアズリール。果たして、アズリールはツンデレオメガになれるのだろうか。そして王太子との恋の行方は——?【注記】インテリマッチョなアルファ王太子×ワンコ系オメガ。R18シーンには*をつけます。ムーンライトノベルズとアルファポリスに掲載中です。

聖獣王~アダムは甘い果実~

南方まいこ
BL
 日々、慎ましく過ごすアダムの元に、神殿から助祭としての資格が送られてきた。神殿で登録を得た後、自分の町へ帰る際、乗り込んだ馬車が大規模の竜巻に巻き込まれ、アダムは越えてはいけない国境を越えてしまう。  アダムが目覚めると、そこはディガ王国と呼ばれる獣人が暮らす国だった。竜巻により上空から落ちて来たアダムは、ディガ王国を脅かす存在だと言われ処刑対象になるが、右手の刻印が聖天を示す文様だと気が付いた兵士が、この方は聖天様だと言い、聖獣王への貢ぎ物として捧げられる事になった。  竜巻に遭遇し偶然ここへ投げ出されたと、何度説明しても取り合ってもらえず。自分の家に帰りたいアダムは逃げ出そうとする。 ※私の小説で「大人向け」のタグが表示されている場合、性描写が所々に散りばめられているということになります。タグのついてない小説は、その後の二人まで性描写はありません

俺は勇者のお友だち

むぎごはん
BL
俺は王都の隅にある宿屋でバイトをして暮らしている。たまに訪ねてきてくれる騎士のイゼルさんに会えることが、唯一の心の支えとなっている。 2年前、突然この世界に転移してきてしまった主人公が、頑張って生きていくお話。

侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます

muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。 仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。 成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。 何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。 汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...