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第五章
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この頃ダレルの様子が変だ。
学園は、発表後すぐの興奮状態は徐々に落ち着いてきて、授業も滞りなく進んでいく。
しかし、まだまだ日常には戻らない。…もう戻らないかもしれないけれど。
僕たちが在籍している間は、これが日常ってことなのだろう。
特別講師としてダレルは魔法学、イーノックは剣術を教えることがある。アシュリーと僕の魔力も大きく、強くなったけれど、ダレルとイーノックの魔力の増え方は凄かった。
僕たちは知っていたからその処し方も徐々に身体に覚えさすこともできて上手く対応できたけど、二人はいきなりの発表で身体も心も魔力もなかなか落ち着かなかったようだ。だから、その分身体に負担でもあるのだろうか?
数日に一度の食事会と、教室で出待ちされたり、廊下ですれ違う時に握手を求める声にもようやく慣れてきた。僕の副隊長さんはルシアン兄上のままだ。選ぶのが大変なので卒業されるまではそのまま就ていてもらうことになった。他の三人もそれぞれの兄君にお願いしたままだそうだ。
「どうしたの?今日は食事会じゃなかった?」
「う、うん…。そうなんだけど」
「憂鬱なの?僕も時々そう思うよ。ゆっくり食べたいよね」
「ああ…まあ、そうだな。でも、食べるだけだし、後はしゃべってたらいいんだろ?この頃はパレードで見せた花を出してやると喜ぶから、楽だよ。イーノックがしたように炎に包んでやると場が盛り上がるしな。食事会に参加した奴に聞いたのか、出してくれってせがまれるし」
「じゃあ、どうしたの?」
「ニコラスがさ…」
「ああ、ダレルの隊長さん、頑張ってるよね」
「まあな、頑張りすぎなんだよな…色々と」
「何かあったの?」
「いやぁ…別に何があったって訳じゃないんだけど…」
ダレルは困ったような顔をしてうな垂れる。
「受け入れることができないなら、隊長を変わってもらうか?」
アシュリーが僕の後ろからダレルに話しかける。
「ど、どういう意味だよ?」
「気付いてるんだろ?ニコラスの気持ち。ダレルもちょっとは気があるのかと思ってたけど、違ったんだな」
「そうか…この頃やけに俺に近づく奴を気にしてるからさ、変だなって思ってたんだ。まるで、ジュリアンに近寄る奴を排除してるアシュリーのような…あっ、いや…悪い…」
アシュリーは全然気にしていない。僕を抱きしめて、頬にキスをする。
恥ずかしいから!
ここは教室で、周りにはクラスメイトの他、廊下には僕たちを見ようと何人もの人がいる。ザワッと空気が揺れたような気がしたけど、きっと気のせいだ。
ダレルは呆れ顔で話を続けた。
「でもさ、変だろ?アシュリーはジュリアンの事、愛しちゃってるからさ。ジュリアンは綺麗だから今までだって狙ってる奴がいたし、俺たちも守ってきたしな。でも、俺だぞ?誰が狙うよ?それなのにニコラスは…。別に男ってだけで、あり得ないって訳じゃないけどさ。お前たちも見てたし、それに嫌悪することはないけど自分がって思うとな…。ニコラスはいい奴さ。だけど、好きとか嫌いとかそんな感情じゃないんだよ」
「何か言われたのか?」
「いや…何も言われてないさ…」
キョロキョロと周りを見て、きっとニコラスが近くに居ないのを確かめてるんだろう。
「たださ、俺の着替えを手伝おうとしたり、今までだったら各自でしてたこともしてくれたりさ…。距離が近いんだよ」
「嫌なら…やっぱり、隊長を変わってもらうか?その方がニコラスもいいんじゃないか?寮の部屋も変えてもらうか?」
「そんな…もしかしたら、俺の勘違いかもしれないし。そしたら、ニコラスに失礼だろ?」
「はっきり言われたことじゃないならさ、ニコラスの気持ちはわからないけど、聞いてあげようか?僕たちなら自分の気持ちを言ってくれるよ。ニコラスも辛いんじゃない?」
「でも、ダレルにその気が無くても近くに居たいって言われたら、ダレルはどうするよ?」
僕とアシュリーの言葉にダレルは考え込んでいる。
「俺は今まで約三年同じ部屋でさ、嫌だって思ったことなんてないよ。気が合わなくて毎年部屋変えてもらってる奴もいるけど、俺たちはそんなことなかった。だから、今まで通りがいいんだけどな」
「ニコラスはそれを望んでないかもしれないぞ?」
「そうだよね。僕なら好きな人と一緒に居たら、もっと近くにって思ってしまうよ」
アシュリーが嬉しそうな笑顔で僕を見る。碧い瞳に吸い込まれそう。
「こらこら、俺の話だろ?お熱いこって」
「ごめん、ダレル」
「いいよ、慣れてるし」
な、慣れてる?
僕たちってみんなにはどんなふうに見えてるんだろ?近頃のアシュリーはいつでも、どこでも僕を抱き寄せる。パレードの時もそうだった。僕も慣れてきてる。恥ずかしいよ?恥ずかしいけど、嬉しい。
アシュリーが大好きって子が現れたら、困る。アシュリーは僕のってアピールできるから、だから、いいんだ。それに、アシュリーには僕に夢中になってて欲しいからね。
……ああ、ダレルの話だった。
時間がきてニコラスが迎えに来た。
「ダレル、行こうか?」
僕たちの前では今までと何も変わらないように見えるけれど、二人きりの時にどんなふうなのかはわからない。食事会に向かう時、ダレルもいつものダレルだった。
学園は、発表後すぐの興奮状態は徐々に落ち着いてきて、授業も滞りなく進んでいく。
しかし、まだまだ日常には戻らない。…もう戻らないかもしれないけれど。
僕たちが在籍している間は、これが日常ってことなのだろう。
特別講師としてダレルは魔法学、イーノックは剣術を教えることがある。アシュリーと僕の魔力も大きく、強くなったけれど、ダレルとイーノックの魔力の増え方は凄かった。
僕たちは知っていたからその処し方も徐々に身体に覚えさすこともできて上手く対応できたけど、二人はいきなりの発表で身体も心も魔力もなかなか落ち着かなかったようだ。だから、その分身体に負担でもあるのだろうか?
数日に一度の食事会と、教室で出待ちされたり、廊下ですれ違う時に握手を求める声にもようやく慣れてきた。僕の副隊長さんはルシアン兄上のままだ。選ぶのが大変なので卒業されるまではそのまま就ていてもらうことになった。他の三人もそれぞれの兄君にお願いしたままだそうだ。
「どうしたの?今日は食事会じゃなかった?」
「う、うん…。そうなんだけど」
「憂鬱なの?僕も時々そう思うよ。ゆっくり食べたいよね」
「ああ…まあ、そうだな。でも、食べるだけだし、後はしゃべってたらいいんだろ?この頃はパレードで見せた花を出してやると喜ぶから、楽だよ。イーノックがしたように炎に包んでやると場が盛り上がるしな。食事会に参加した奴に聞いたのか、出してくれってせがまれるし」
「じゃあ、どうしたの?」
「ニコラスがさ…」
「ああ、ダレルの隊長さん、頑張ってるよね」
「まあな、頑張りすぎなんだよな…色々と」
「何かあったの?」
「いやぁ…別に何があったって訳じゃないんだけど…」
ダレルは困ったような顔をしてうな垂れる。
「受け入れることができないなら、隊長を変わってもらうか?」
アシュリーが僕の後ろからダレルに話しかける。
「ど、どういう意味だよ?」
「気付いてるんだろ?ニコラスの気持ち。ダレルもちょっとは気があるのかと思ってたけど、違ったんだな」
「そうか…この頃やけに俺に近づく奴を気にしてるからさ、変だなって思ってたんだ。まるで、ジュリアンに近寄る奴を排除してるアシュリーのような…あっ、いや…悪い…」
アシュリーは全然気にしていない。僕を抱きしめて、頬にキスをする。
恥ずかしいから!
ここは教室で、周りにはクラスメイトの他、廊下には僕たちを見ようと何人もの人がいる。ザワッと空気が揺れたような気がしたけど、きっと気のせいだ。
ダレルは呆れ顔で話を続けた。
「でもさ、変だろ?アシュリーはジュリアンの事、愛しちゃってるからさ。ジュリアンは綺麗だから今までだって狙ってる奴がいたし、俺たちも守ってきたしな。でも、俺だぞ?誰が狙うよ?それなのにニコラスは…。別に男ってだけで、あり得ないって訳じゃないけどさ。お前たちも見てたし、それに嫌悪することはないけど自分がって思うとな…。ニコラスはいい奴さ。だけど、好きとか嫌いとかそんな感情じゃないんだよ」
「何か言われたのか?」
「いや…何も言われてないさ…」
キョロキョロと周りを見て、きっとニコラスが近くに居ないのを確かめてるんだろう。
「たださ、俺の着替えを手伝おうとしたり、今までだったら各自でしてたこともしてくれたりさ…。距離が近いんだよ」
「嫌なら…やっぱり、隊長を変わってもらうか?その方がニコラスもいいんじゃないか?寮の部屋も変えてもらうか?」
「そんな…もしかしたら、俺の勘違いかもしれないし。そしたら、ニコラスに失礼だろ?」
「はっきり言われたことじゃないならさ、ニコラスの気持ちはわからないけど、聞いてあげようか?僕たちなら自分の気持ちを言ってくれるよ。ニコラスも辛いんじゃない?」
「でも、ダレルにその気が無くても近くに居たいって言われたら、ダレルはどうするよ?」
僕とアシュリーの言葉にダレルは考え込んでいる。
「俺は今まで約三年同じ部屋でさ、嫌だって思ったことなんてないよ。気が合わなくて毎年部屋変えてもらってる奴もいるけど、俺たちはそんなことなかった。だから、今まで通りがいいんだけどな」
「ニコラスはそれを望んでないかもしれないぞ?」
「そうだよね。僕なら好きな人と一緒に居たら、もっと近くにって思ってしまうよ」
アシュリーが嬉しそうな笑顔で僕を見る。碧い瞳に吸い込まれそう。
「こらこら、俺の話だろ?お熱いこって」
「ごめん、ダレル」
「いいよ、慣れてるし」
な、慣れてる?
僕たちってみんなにはどんなふうに見えてるんだろ?近頃のアシュリーはいつでも、どこでも僕を抱き寄せる。パレードの時もそうだった。僕も慣れてきてる。恥ずかしいよ?恥ずかしいけど、嬉しい。
アシュリーが大好きって子が現れたら、困る。アシュリーは僕のってアピールできるから、だから、いいんだ。それに、アシュリーには僕に夢中になってて欲しいからね。
……ああ、ダレルの話だった。
時間がきてニコラスが迎えに来た。
「ダレル、行こうか?」
僕たちの前では今までと何も変わらないように見えるけれど、二人きりの時にどんなふうなのかはわからない。食事会に向かう時、ダレルもいつものダレルだった。
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