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第五章
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『アシュ…。もしかしてハリソンは…』
『うん。俺もそう思う』
「どの家かも教えてくれませんでした。詮索することは許さないと言ったきり、今後この話題は出さないようにと言われました。忘れるようにと。それならば、何故わたしに弟の事を教えたのでしょうか?そうでしょう?聞かなければ、わからなかったのに。
悩みました。何故父がわたしに忘れなければならない事実を話したのか。いろいろ考えて、父も誰かに知っていて欲しかったのではないかと思い至りました。誰か…は、息子であり、その養子に出した子の兄であるわたしであったのではないかと。弟とミーガン家との関わりが露と消えてしまうのを恐れたのではないかと思いました。でも、表立って会うことも、それを口にすることさえ許されない理由がある」
一息つくと僕たちの方をちらりと見て、改めてイーノックに向き合った。
「本来なら、このようなことを口外してはならないのは重々承知しています。してはいるのですが……。長年思い描いていた弟との触れ合いが叶うなら…。でも、そんなことは無理だとわかっていました。本当は影でこっそり見守るつもりでした。元気でやっているか、出された先の家で虐められていないか…。それがわかればよかったのです。父にわがままを言って、一番上のクラスに合格することを条件に、この学園に入る許可をもらいました。何があっても本人には言わないと約束させられました。父も会いたいのだと思います。しかし叶わぬなら、息子に託そうと思われたのだと思います。一年間必死に勉強してやっと入ることが出来ました」
「あれ?俺はまだ、十五歳だぞ?お前いくつだよ?」
ジミーがハリソンに質問する。
「俺は本当なら七年生だよ」
「俺に会いたいと言うのは?」
イーノックが落ち着いた様子でハリソンに質問する。
そうだよね。何があっても本人には言わない…と言うのなら、イーノックに言葉に出して伝えてはいけない。伝えてはいけないのに、会いたいと思うのは何故?ここまで言ってしまったのは…何故?
イーノックも薄々気付いてる。
僕たちのように客観的に見ることが出来なくても、自分とハリソンが似ていると。
今のハリソンの言葉が表しているのことの意味を。
ショックなのではないだろうか?僕が兄上やセシリアと兄弟じゃないって言われたら、悲しいよ。
「わたしは…」
「ダメだ!」
「そうです。言ってはいけません」
アシュリーと指輪から出てきたアンブローズがハリソンを止める。
手乗りサイズのアンブローズは迫力に欠けるけれど、パレードを見たのならあの大きな使い魔が本来の姿だとわかるはずだ。
「どうしたんだよ?」
ジミーが暖気に質問する。
「ジミーは黙ってて!」
アシュリーが語気を荒げて言う。
「わ、わかったよ…」
「ハリソン、自分勝手だと思わないのか?」
「そうですね…」
「わざわざ幸せに暮らしているイーノックに波風を立てて、自分の気持ちだけ満足させて!何が、ここで聞いたことは他の誰にも言わないでくださいだよ!口外してはいけないとわかってるんだろ?何が影でこっそり見守るだ!自分が何を言おうとしているのかが本当にわかっているのか?」
「やはり、忘却の魔法をかけるべきでした。まさかこのようなことになってしまうとは」
アンブローズが瑠璃色のフサフサの毛を逆立ててハリソンを威嚇する。
「説明してください、アン」
イーノックはあくまでも落ち着いている。心なしか笑っているように見えるのは、感情が上手くコントロールできないのか?
「そうですね…」
「アン、なんでも言ってくれて構いません。俺がハリソンの弟だと言うのは本当なのですね?」
「イーノック……」
「大丈夫です。むしろ納得と言いますか…。いえ、ハーシェル家の人たちに虐められたとか、そのようなことはないのです」
やはり、辛い目にあっていたのかと、ハリソンがイーノックに心配気な顔をするのに慌てて言葉を付け足した。
「マシューが気にしていたように、わたしは兄にも弟にも似ていません。兄弟でも似ていないのはよくあることなので、気にしないようにはしていましたが…」
『うん。俺もそう思う』
「どの家かも教えてくれませんでした。詮索することは許さないと言ったきり、今後この話題は出さないようにと言われました。忘れるようにと。それならば、何故わたしに弟の事を教えたのでしょうか?そうでしょう?聞かなければ、わからなかったのに。
悩みました。何故父がわたしに忘れなければならない事実を話したのか。いろいろ考えて、父も誰かに知っていて欲しかったのではないかと思い至りました。誰か…は、息子であり、その養子に出した子の兄であるわたしであったのではないかと。弟とミーガン家との関わりが露と消えてしまうのを恐れたのではないかと思いました。でも、表立って会うことも、それを口にすることさえ許されない理由がある」
一息つくと僕たちの方をちらりと見て、改めてイーノックに向き合った。
「本来なら、このようなことを口外してはならないのは重々承知しています。してはいるのですが……。長年思い描いていた弟との触れ合いが叶うなら…。でも、そんなことは無理だとわかっていました。本当は影でこっそり見守るつもりでした。元気でやっているか、出された先の家で虐められていないか…。それがわかればよかったのです。父にわがままを言って、一番上のクラスに合格することを条件に、この学園に入る許可をもらいました。何があっても本人には言わないと約束させられました。父も会いたいのだと思います。しかし叶わぬなら、息子に託そうと思われたのだと思います。一年間必死に勉強してやっと入ることが出来ました」
「あれ?俺はまだ、十五歳だぞ?お前いくつだよ?」
ジミーがハリソンに質問する。
「俺は本当なら七年生だよ」
「俺に会いたいと言うのは?」
イーノックが落ち着いた様子でハリソンに質問する。
そうだよね。何があっても本人には言わない…と言うのなら、イーノックに言葉に出して伝えてはいけない。伝えてはいけないのに、会いたいと思うのは何故?ここまで言ってしまったのは…何故?
イーノックも薄々気付いてる。
僕たちのように客観的に見ることが出来なくても、自分とハリソンが似ていると。
今のハリソンの言葉が表しているのことの意味を。
ショックなのではないだろうか?僕が兄上やセシリアと兄弟じゃないって言われたら、悲しいよ。
「わたしは…」
「ダメだ!」
「そうです。言ってはいけません」
アシュリーと指輪から出てきたアンブローズがハリソンを止める。
手乗りサイズのアンブローズは迫力に欠けるけれど、パレードを見たのならあの大きな使い魔が本来の姿だとわかるはずだ。
「どうしたんだよ?」
ジミーが暖気に質問する。
「ジミーは黙ってて!」
アシュリーが語気を荒げて言う。
「わ、わかったよ…」
「ハリソン、自分勝手だと思わないのか?」
「そうですね…」
「わざわざ幸せに暮らしているイーノックに波風を立てて、自分の気持ちだけ満足させて!何が、ここで聞いたことは他の誰にも言わないでくださいだよ!口外してはいけないとわかってるんだろ?何が影でこっそり見守るだ!自分が何を言おうとしているのかが本当にわかっているのか?」
「やはり、忘却の魔法をかけるべきでした。まさかこのようなことになってしまうとは」
アンブローズが瑠璃色のフサフサの毛を逆立ててハリソンを威嚇する。
「説明してください、アン」
イーノックはあくまでも落ち着いている。心なしか笑っているように見えるのは、感情が上手くコントロールできないのか?
「そうですね…」
「アン、なんでも言ってくれて構いません。俺がハリソンの弟だと言うのは本当なのですね?」
「イーノック……」
「大丈夫です。むしろ納得と言いますか…。いえ、ハーシェル家の人たちに虐められたとか、そのようなことはないのです」
やはり、辛い目にあっていたのかと、ハリソンがイーノックに心配気な顔をするのに慌てて言葉を付け足した。
「マシューが気にしていたように、わたしは兄にも弟にも似ていません。兄弟でも似ていないのはよくあることなので、気にしないようにはしていましたが…」
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