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第五章
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「マシューは僕の兄上の事は知ってる?」
「はい、八年生にルシアンさまがいらっしゃるのですよね。お顔とかよく似てらっしゃいます」
「そうだよ。でも、あの時も挨拶したけど、あと二人兄上がいるんだ」
「はい。クラレンスさまとロドニーさまですよね?」
「そうだよ。二人と僕は似てないよね」
「それでもどことなく漂う雰囲気は似てらっしゃると思います!でも、僕と兄さまは…」
感情が昂ぶり、またハラハラと泣き出してしまった。
「マシュー、こっちにおいでよ」
手を持って引き寄せ、抱きしめた。
「やっ…、あれ…?」
「ねえ、マシューはイーノックの事が好き?」
「はい。大好きです。自慢の兄です。誰にでも分け隔てなく優しくて、でも、すごく強いんです。勇者だとわかる前からそうでした。僕にもとても優しくて…」
「落ち着いた?」
「はい。ありがとうございます。僕は凄い人に慰められたんですね。何を悩んでたんだろう」
「例え似ていなくても、イーノックはマシューのお兄ちゃんだよ。そんなことで落ち込まないで」
「マシュッ!」
「あっ、兄さま…」
ザザっと地面を蹴る音がしてイーノックが現れた。泣きはらした目はまだ赤く、僕の腕の中で縮こまるマシューはその目を隠したいのか肩に顔を埋める。
「ジュリアン、ありがとう」
「ううん…いいんだよ。だいぶ落ち着いたみたい」
「マシュ、おいで」
「兄さま…」
「ほら」
「兄さま!」
イーノックが両手を広げ近づくと、マシューも僕から離れ、イーノックに抱きついた。
僕もいつまでも兄上に抱きついてた。だから、そこまでおかしいことじゃないと思うけど、イーノックのこの慌てようは尋常じゃない。……でも、僕に何かあった時の兄上たちの様子は今のイーノックに似ているかもしれない。ガイに連れ出された時のルシアン兄上は今のイーノックと被るかも…。
軽々とまるで子どものように腰まで抱き上げ、頬ずりする。
「止めてよ、兄さま。ジュリアンさまたちがいるのに」
「大丈夫だよ。恥ずかしがることない」
今にもキスしそうな勢いのイーノックに驚いた。それを恥ずかしがるだけで、嫌がる様子もない。凄く仲いいんだな。
それから四人で一年生の教室にマシューを送って行った。
抱いたまま歩こうとするイーノックにマシューが必死にお願いしてる。
「兄さま、恥ずかしい」
「だから、恥ずかしがらなくてもいいって」
イーノックは、マシューが相手だと砕けた言葉遣いになる。
「からかわれるし、虐められたら嫌だもの」
「虐めるような奴は俺が…いや、もう無理か…。わかった」
「兄さま、虐められてないよ」
心配かけたくないのか、マシューがイーノックに言い募る。僕も兄上たちに言えなかったもんね。…本当は違ったらしいけど。
「じゃあ、なんで泣いてたんだ?こんなに目を赤くして、可哀想に」
『イーノックって、こんなに熱い奴だったか?』
『ううん、初めて見たよ。こんなに感情的になってるの』
『ジュリの兄貴たちみたいだな』
『アシュ…それは言わないで…。僕も思ってたよ』
教室に入るとザワザワとしていた雰囲気が急に鎮まり返り、一瞬の沈黙の後歓声が上がった。それぞれに僕たちの名前を呼ぶ声が聞こえる。
「マシュー、さっきは悪かったよ、庇ってやれなくて。みんな、謝りたいって」
「ううん。実際似てないし…、でも、僕の兄さまだよ」
「そうだな。俺も小さな頃から遊んでもらってたし、一番知ってるのに。ここまで送ってもらったのか?凄いな、アシュリーさまとジュリアンさままで一緒なんて」
「王宮で挨拶したんだ」
「そうか、パレードの時だな?」
「そうだよ。今、ジュリアンさまに抱きしめてもらったんだ。嫌なことなんて、一瞬で吹き飛んだよ」
「そうか、羨ましいよ」
マシューの一番仲良しなんだろうか、一人の男の子と話しているのをイーノックが後ろで見ていた。同じくらいの背で手を握り合っているさまは、見ていて癒される。
「マシュ、帰るからな」
その男の子とも話したことがあるのか、イーノックがその子の肩を叩く。
「頼んだぞ」
「はい、わかってます」
僕たちに握手を求める声があるけど、授業が始まってしまう。また来てくださいねとお願いする声を聞きながら、教室に戻った。
「はい、八年生にルシアンさまがいらっしゃるのですよね。お顔とかよく似てらっしゃいます」
「そうだよ。でも、あの時も挨拶したけど、あと二人兄上がいるんだ」
「はい。クラレンスさまとロドニーさまですよね?」
「そうだよ。二人と僕は似てないよね」
「それでもどことなく漂う雰囲気は似てらっしゃると思います!でも、僕と兄さまは…」
感情が昂ぶり、またハラハラと泣き出してしまった。
「マシュー、こっちにおいでよ」
手を持って引き寄せ、抱きしめた。
「やっ…、あれ…?」
「ねえ、マシューはイーノックの事が好き?」
「はい。大好きです。自慢の兄です。誰にでも分け隔てなく優しくて、でも、すごく強いんです。勇者だとわかる前からそうでした。僕にもとても優しくて…」
「落ち着いた?」
「はい。ありがとうございます。僕は凄い人に慰められたんですね。何を悩んでたんだろう」
「例え似ていなくても、イーノックはマシューのお兄ちゃんだよ。そんなことで落ち込まないで」
「マシュッ!」
「あっ、兄さま…」
ザザっと地面を蹴る音がしてイーノックが現れた。泣きはらした目はまだ赤く、僕の腕の中で縮こまるマシューはその目を隠したいのか肩に顔を埋める。
「ジュリアン、ありがとう」
「ううん…いいんだよ。だいぶ落ち着いたみたい」
「マシュ、おいで」
「兄さま…」
「ほら」
「兄さま!」
イーノックが両手を広げ近づくと、マシューも僕から離れ、イーノックに抱きついた。
僕もいつまでも兄上に抱きついてた。だから、そこまでおかしいことじゃないと思うけど、イーノックのこの慌てようは尋常じゃない。……でも、僕に何かあった時の兄上たちの様子は今のイーノックに似ているかもしれない。ガイに連れ出された時のルシアン兄上は今のイーノックと被るかも…。
軽々とまるで子どものように腰まで抱き上げ、頬ずりする。
「止めてよ、兄さま。ジュリアンさまたちがいるのに」
「大丈夫だよ。恥ずかしがることない」
今にもキスしそうな勢いのイーノックに驚いた。それを恥ずかしがるだけで、嫌がる様子もない。凄く仲いいんだな。
それから四人で一年生の教室にマシューを送って行った。
抱いたまま歩こうとするイーノックにマシューが必死にお願いしてる。
「兄さま、恥ずかしい」
「だから、恥ずかしがらなくてもいいって」
イーノックは、マシューが相手だと砕けた言葉遣いになる。
「からかわれるし、虐められたら嫌だもの」
「虐めるような奴は俺が…いや、もう無理か…。わかった」
「兄さま、虐められてないよ」
心配かけたくないのか、マシューがイーノックに言い募る。僕も兄上たちに言えなかったもんね。…本当は違ったらしいけど。
「じゃあ、なんで泣いてたんだ?こんなに目を赤くして、可哀想に」
『イーノックって、こんなに熱い奴だったか?』
『ううん、初めて見たよ。こんなに感情的になってるの』
『ジュリの兄貴たちみたいだな』
『アシュ…それは言わないで…。僕も思ってたよ』
教室に入るとザワザワとしていた雰囲気が急に鎮まり返り、一瞬の沈黙の後歓声が上がった。それぞれに僕たちの名前を呼ぶ声が聞こえる。
「マシュー、さっきは悪かったよ、庇ってやれなくて。みんな、謝りたいって」
「ううん。実際似てないし…、でも、僕の兄さまだよ」
「そうだな。俺も小さな頃から遊んでもらってたし、一番知ってるのに。ここまで送ってもらったのか?凄いな、アシュリーさまとジュリアンさままで一緒なんて」
「王宮で挨拶したんだ」
「そうか、パレードの時だな?」
「そうだよ。今、ジュリアンさまに抱きしめてもらったんだ。嫌なことなんて、一瞬で吹き飛んだよ」
「そうか、羨ましいよ」
マシューの一番仲良しなんだろうか、一人の男の子と話しているのをイーノックが後ろで見ていた。同じくらいの背で手を握り合っているさまは、見ていて癒される。
「マシュ、帰るからな」
その男の子とも話したことがあるのか、イーノックがその子の肩を叩く。
「頼んだぞ」
「はい、わかってます」
僕たちに握手を求める声があるけど、授業が始まってしまう。また来てくださいねとお願いする声を聞きながら、教室に戻った。
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