天使のローブ

茉莉花 香乃

文字の大きさ
上 下
100 / 173
第五章

37

しおりを挟む
「ありがとうございます。でもそれは、勇者であるとわかる前の対応です。何者かがわかった今、重い罰が下ってもわたしは受け入れます。どうか…」
「何度も言いますが、あの時、ガイはジョナス殿下に引き渡したし、殿下にも尋問されたはず。俺たちはその時はそうであると知っていたし、ガイが気付いたと思ってたよ。発表まではまだ時間があったけど、口止めしなかったのに口外しないでくれてありがたかった。混乱するからね…、色々と」
「ガイ、どうなんだ?」

テッドが驚いてガイに詰め寄る。

「俺は……、そうかもしれないとは思ったけど、発表までは自分がそうであることも知らないはずだから違うと思い込んでた。いや…違っていてくれと思ったんだ。アシュリーがそうであってもジュリアンは違うと…」
「お前…」

弟の胸ぐらを掴み今にも殴りかかりそうになるのをアシュリーが制した。

「テッド、手を離せ!ガイも!ガイに対する今回のことは何もなかった。殿下にもそう言われたんだろ?ガイ」
「ジュリアンが一緒に行ってくれて、殿下に頼んでくれたから」

ケントが申し訳なさそうに言う。
あっ、アシュリーには内緒だったのに。

『ジュリ!行ったの?』
『ごめん…、アシュリー。…少し顔だして、殿下にお願いして、直ぐに帰ったよ?』
『仕方ないな…お仕置きだな』
『えっと…はい』

下を向いて赤くなってるだろう顔を隠す。
僕とアシュリーの会話を知らない三人は突然下を向いた僕を不審に思ったかもしれないな。

「俺たちの周りの対応はこれから変わってしまう。こんなふうに…な。だから、今まで通り接して欲しいんだ。特にケントはジュリアンの友だちとして今まで以上に仲良くして欲しい。今回のこともジュリアンの希望だから。だからテッドが気にやむことは何もないよ」
「ありがとうございます」

テッドはヘナヘナとその場に座り込んでしまった。勇者を拐かした罪なんてどんな恐ろしいことになるかと、発表からこっち生きてる心地がしなかったと呟くと、ようやく弱々しく笑った。

ガイに支えられ僕とアシュリーにいつまでも頭を下げながら離れた。



◇◇◇◇◇



本日、最初の授業はバーンズ先生の魔法学。

「みなさん、もうとっくに知っているとは思うけど、このクラスになんと勇者が四人も居る」
「先生は知ってたんですか?」

クラスメイトが色々聞きたいことがあるとウズウズしている。

「勿論、知っていましたよ」
「いつから?いつから知ってたんですか?」

「そうだね…、先生が成人した時かな」
「え~、教えてくれても良いのに」

そうだ、そうだと大合唱が始まった。

「こらこら、本人でさえ知らないことだぞ?」

先生がアシュリーと僕にウインクする。

「君たちはこれから勇者を支えていくんだよ。学園がざわつき、落ち着いて勉強できなくなる。今まで、四人に引っ張られて頑張ったよね。五年生まで誰も脱落せずに同じクラスに在籍し続けてる学年は初めてだそうだ。これからも一緒に成長して欲しい。そして、それは学園を卒業してからもだ」
「「「はい!」」」

「でもね、君たちだけの勇者じゃない」
「当たり前じゃないですか?」
「どう言う意味ですか?」

「勇者に触れたいと無闇に近寄ろうとする人もいるだろう。でも、その人を力で遠ざけるだけじゃダメなんだ」
「でも、守るためには力も必要です」

「では、君たちが…例えば学年が違ったりしたら、挨拶くらいしたいと思わないかい?」
「そりゃ、名前とか覚えてもらいたい」
「声なんか掛けられたら泣いて喜ぶよ」
「俺も!」

「じゃあ、たまたま同じクラスになっただけの勇者のクラスメイトに邪魔されたらどう思う?」
「それは…でも、たまたまじゃないです!」
「頑張ったんだ!」

「そうだね。先生方はみんなの努力は知っています。上級生の中にも、私のクラスの頑張りを認めてくれる人もいます。でも、下級生や頑張りを知らない人は、やはり、たまたまなのですよ。たまたま同じ年に生まれた。たまたま魔力が大きかった。それはやっかみもあるでしょう」
「では、どうすればいいのですか?」

「それは、皆さんで考えてください。正解は一つではありません。皆さんがもっと高みに行くための試練だと思って、勇者とともに成長してください」
「「「はい!」」」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

英雄の帰還。その後に

亜桜黄身
BL
声はどこか聞き覚えがあった。記憶にあるのは今よりもっと少年らしい若々しさの残る声だったはずだが。 低くなった声がもう一度俺の名を呼ぶ。 「久し振りだ、ヨハネス。綺麗になったな」 5年振りに再会した従兄弟である男は、そう言って俺を抱き締めた。 ── 相手が大切だから自分抜きで幸せになってほしい受けと受けの居ない世界では生きていけない攻めの受けが攻めから逃げようとする話。 押しが強めで人の心をあまり理解しないタイプの攻めと攻めより精神的に大人なせいでわがままが言えなくなった美人受け。 舞台はファンタジーですが魔王を倒した後の話なので剣や魔法は出てきません。

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

処理中です...