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第五章
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☆★☆ ★☆★ ☆★☆
「今年の収穫祭は移転魔法の課題で準備できなかったから、出場できないんだ…」
ダレルが残念そうに僕に言ってくる。
「今年もジュリアンに楽しんで欲しかったから、出たかったのにな…」
そんなふうに言われたら嬉しいけど、みんなで一緒に行けるだけで楽しい。
去年の剣舞は見応えあった。剣を花に変えるのも綺麗で、観衆の心もがっちり掴んでた。順位を付けることはないけれど、もし付けるなら上位に入ってたと思う。
今年はケントとガイも一緒に行く。僕としてはそれだけで満足だけどな。
ジョナス殿下が収穫祭に来られた。
収穫祭は庶民のお祭りで、王族が正式に出席することはない。
殿下は生きる歴史的英雄だから、国民の憧れの的だ。…まあ、僕もそうなのだけど…複雑な気持ちです。
殿下の両脇と前後には近衛兵が並び、かなり物々しい一団になっている。卒業するまではお忍びで来られていたみたいだけど、今年からはそうもいかない。
『アシュ、殿下が…』
『ああ、わかってる』
僕たちがいる所を目指して来られているのか、徐々に殿下の気配が近寄る。
今年もフードを目深にかぶり、クラスメイトに囲まれている。僕ってそんなに頼りないと思われているのかな?剣は全然ダメだけど、魔法はそれなりにできるのに…。
背の高いクラスメイトに囲まれて小柄な僕は殿下を目で確認することはできない。けれど、周りがザワザワとしだして気配が更に近寄った。
「聞いていた通り、随分仲が良いんだな、お前たちのクラス」
「殿下…」
「アシュリー、お久しぶりです。覚えてくれていますか?」
「勿論です、シンクレア隊長。お久しぶりです」
殿下の後ろからライナス・シンクレア隊長が笑顔でアシュリーに話し掛ける。
「今日、ジュリアンは一緒じゃないのですか?」
「あっ、はい。ここに居ます」
フードを外し手を挙げて、アシュリーの隣に並ぶと驚かれた。
「過保護だな」
「この人混みでは仕方ない」
殿下とシンクレア隊長がほぼ同時に手を差し出す。
「えっと…」
「俺だろ?」
殿下が隊長さんを退け、僕の手を取り甲にキスをした。
止めてよ。
アシュリーが僕の手を掴み殿下との間に入ると、殿下がふふっと笑われた。
ジョナス殿下とライナス・シンクレア隊長お二人に、親しげに話すアシュリーと僕をクラスメイトは不思議そうに見る。
ジョナス殿下は言うまでもないが、シンクレア隊長もかなり有名な人だから驚くのも無理はないだろう。
「ジュリ、フード…」
アシュリーがせっかく下ろしたフードをまた被せる。
「殿下の御前なのに…」
周りを見ると、殿下を見ようと視線が集まっている。
「いや、構わない。フードはある方がいいだろう」
「そうですよ。何かあってからでは遅いですからね」
…いや、もうあったけどな…。
殿下はボソッと呟かれたけど、ガイが居るのを認めるとそれ以上は何も言わなかった。
殿下はガイに卒業後二年間、近衛隊に入るように命令された。
「俺がその腐った根性叩き直してやる」
ジミーや近衛隊に入りたい人にしてみたら、これ以上素敵な命令はないと思う。ケントの側を離れたくないガイにしてみたら、二年間も離れるのは嫌だろう。しかし、自分のしたことの罰ならば従うしかない。
「ちょっと、通して!」
人垣を掻き分けるようにしてジミー・スネルが現れた。そして、アシュリーの袖をちぎれんばかりに引っ張る。
「なあ、紹介!してくれよ!」
「えっ?ああ、そうだったな」
「なんだよ…忘れんなよ!」
「いや、別に忘れてたわけじゃ…」
「遠くから見えたんだ。そしたら、お前らんとこで話されてるからさ…ほら、頼むよ」
必死なジミーはなんだかとても可愛い。
顔を赤くして、今までの勢いが嘘のように急に恥ずかしそうにして、上目遣いでシンクレア隊長を見る。クラスメイトは何事かと再び驚いた。
「シンクレアさん、こちら俺たちの一つ上のジミー・スネルです。なんか、隊長さんに恋…」
「えっと、ジミー・スネルです。あの…俺…」
アシュリーが恋してるって言うのを遮ってしまった。好きだとは言わないのかな?そうか…いきなりだと、近くに行くのさえ難しくなるかもしれない。先ずはお友だちから…いや、年齢差があるから、先ずは…なんだろう?
「あの…俺、近衛隊に入りたくて、でも、ダメで…えっと、それで…」
「今年の収穫祭は移転魔法の課題で準備できなかったから、出場できないんだ…」
ダレルが残念そうに僕に言ってくる。
「今年もジュリアンに楽しんで欲しかったから、出たかったのにな…」
そんなふうに言われたら嬉しいけど、みんなで一緒に行けるだけで楽しい。
去年の剣舞は見応えあった。剣を花に変えるのも綺麗で、観衆の心もがっちり掴んでた。順位を付けることはないけれど、もし付けるなら上位に入ってたと思う。
今年はケントとガイも一緒に行く。僕としてはそれだけで満足だけどな。
ジョナス殿下が収穫祭に来られた。
収穫祭は庶民のお祭りで、王族が正式に出席することはない。
殿下は生きる歴史的英雄だから、国民の憧れの的だ。…まあ、僕もそうなのだけど…複雑な気持ちです。
殿下の両脇と前後には近衛兵が並び、かなり物々しい一団になっている。卒業するまではお忍びで来られていたみたいだけど、今年からはそうもいかない。
『アシュ、殿下が…』
『ああ、わかってる』
僕たちがいる所を目指して来られているのか、徐々に殿下の気配が近寄る。
今年もフードを目深にかぶり、クラスメイトに囲まれている。僕ってそんなに頼りないと思われているのかな?剣は全然ダメだけど、魔法はそれなりにできるのに…。
背の高いクラスメイトに囲まれて小柄な僕は殿下を目で確認することはできない。けれど、周りがザワザワとしだして気配が更に近寄った。
「聞いていた通り、随分仲が良いんだな、お前たちのクラス」
「殿下…」
「アシュリー、お久しぶりです。覚えてくれていますか?」
「勿論です、シンクレア隊長。お久しぶりです」
殿下の後ろからライナス・シンクレア隊長が笑顔でアシュリーに話し掛ける。
「今日、ジュリアンは一緒じゃないのですか?」
「あっ、はい。ここに居ます」
フードを外し手を挙げて、アシュリーの隣に並ぶと驚かれた。
「過保護だな」
「この人混みでは仕方ない」
殿下とシンクレア隊長がほぼ同時に手を差し出す。
「えっと…」
「俺だろ?」
殿下が隊長さんを退け、僕の手を取り甲にキスをした。
止めてよ。
アシュリーが僕の手を掴み殿下との間に入ると、殿下がふふっと笑われた。
ジョナス殿下とライナス・シンクレア隊長お二人に、親しげに話すアシュリーと僕をクラスメイトは不思議そうに見る。
ジョナス殿下は言うまでもないが、シンクレア隊長もかなり有名な人だから驚くのも無理はないだろう。
「ジュリ、フード…」
アシュリーがせっかく下ろしたフードをまた被せる。
「殿下の御前なのに…」
周りを見ると、殿下を見ようと視線が集まっている。
「いや、構わない。フードはある方がいいだろう」
「そうですよ。何かあってからでは遅いですからね」
…いや、もうあったけどな…。
殿下はボソッと呟かれたけど、ガイが居るのを認めるとそれ以上は何も言わなかった。
殿下はガイに卒業後二年間、近衛隊に入るように命令された。
「俺がその腐った根性叩き直してやる」
ジミーや近衛隊に入りたい人にしてみたら、これ以上素敵な命令はないと思う。ケントの側を離れたくないガイにしてみたら、二年間も離れるのは嫌だろう。しかし、自分のしたことの罰ならば従うしかない。
「ちょっと、通して!」
人垣を掻き分けるようにしてジミー・スネルが現れた。そして、アシュリーの袖をちぎれんばかりに引っ張る。
「なあ、紹介!してくれよ!」
「えっ?ああ、そうだったな」
「なんだよ…忘れんなよ!」
「いや、別に忘れてたわけじゃ…」
「遠くから見えたんだ。そしたら、お前らんとこで話されてるからさ…ほら、頼むよ」
必死なジミーはなんだかとても可愛い。
顔を赤くして、今までの勢いが嘘のように急に恥ずかしそうにして、上目遣いでシンクレア隊長を見る。クラスメイトは何事かと再び驚いた。
「シンクレアさん、こちら俺たちの一つ上のジミー・スネルです。なんか、隊長さんに恋…」
「えっと、ジミー・スネルです。あの…俺…」
アシュリーが恋してるって言うのを遮ってしまった。好きだとは言わないのかな?そうか…いきなりだと、近くに行くのさえ難しくなるかもしれない。先ずはお友だちから…いや、年齢差があるから、先ずは…なんだろう?
「あの…俺、近衛隊に入りたくて、でも、ダメで…えっと、それで…」
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