天使のローブ

茉莉花 香乃

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第五章

02

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主役不在…そりゃ0歳の赤ん坊に華やかな場所や祝賀パーティーは無理だろう。

そんな注目の中で育つのは大変だったとは思うけど、なんでもないように振舞われていて流石だと思う。

「会いたかったんだ。ミシェル、俺の元で生活しないか?」
「わたしはジュリアンですよ、殿下」
「知ってるよ。でも、もう覚醒したんだろ?」
「それでもわたしはミシェルではありません。わたしは…」
「では、ジュリアン。俺と共に生きてくれないか?」
「仰っている意味がわかりません」
「ミシェルの記憶は何もないのか?特別な力があると聞いた。先代の記憶は…」

言っても良いのだろうか?言わない方が良いのだろうか?先代の記憶はないが、初代さまの記憶はある…。

「先代の記憶はありません。殿下、わたしは男ですよ?先代は女性です。もし、わたしに先代の記憶があったとしてもわたしにはその思いと同じものがあることはない」

先代のアレースさまとミシェルさまは結婚されていた。殿下は今世も…と思われているだけなのじゃないかな?

「そうか……俺はずっとジュリアンとこうして会いたかった。出来れば、こちらに座ってくれないか?」
「それは命令ですか?」
「そうだな…命令でなければこちらに来てくれないなら、俺は……命令するだろう」

仕方ない。
ソファーから立ち上がり、殿下の側まで行くと手を握られた。

「お止め下さい…」
「俺はミシ…いや、ジュリアンを愛している」
「話したこともないのに?」
「俺たちの間に会話など必要ない。何年もの間、俺は…アレースはジュリアンを待っていたんだ」
「申し訳ありません。わたしはアシュリー・ミネルヴァ・リンメルを愛しています。いくら殿下の命令でもそれは…」
「…命令ではない。俺は……。ミネルヴァか…でも、対の存在とは魔力の話だ。俺はミネルヴァよりも強いぞ?」
「わたしはアシュリーの魔力に惹かれたのではありません。それこそ、学園に上がる前から好きだったのです。申し訳ありませんが殿下のお言葉だとしても、その申し出を受けるわけにはいきませ…!あっ、やっ」

いきなり繋いでいた手を引っ張られた。
不意に引かれたのでバランスを崩し殿下の膝の上に倒れこんでしまった。兄弟で同じことをするなんて。

「申し訳ありません」

急いで立ち上がろうとするも、殿下の腕がそれを拒んだ。倒れこんだ僕を抱きとめてくれた殿下の腕が強く抱きしめる。

「そんなこと、言うな」
「お止め下さい」
「俺のものになれ。ここに居てくれ…今年度もアシュリーと同室なのだろう?陛下も何故そんなわがままをお許しになるのか?俺がいると言うのに…俺のジュリアンなのに!」

尚も強く抱きしめられたけど、髪を梳く手は乱暴なものではなかった。

「殿下、離して下さい」

寮でクラスメイトに告白された時は何も考えずに突き飛ばしていたけど、殿下にそんなことは出来ない。

それでもだんだんと近づいて来る殿下の顔に何をしようとしているかがわかり思わず…、

「嫌、アシュ!助けて。ギル!」

指輪からギルバートが大きな姿で現れて、扉からはアシュリーが入ってきた。

室内で大きなギルバートは迫力がある。こんなに広い殿下の部屋でなければギルバートでいっぱいになってしまいそう。

「ジュリアン、大丈夫か?」
「うん。ギル、ありがとう」
『ジュリ、何もされてない?』
『うん、来てくれたんだね。マックスに聞いてくれた?』
『ああ、でも殿下の部屋がわからなくて、遅くなってごめん』
『良いんだ、大丈夫だよ』
「何だよ、見つめ合ってさ…俺の入る余地は無いのか?」

殿下の腕から離れられた僕はアシュリーの後ろへと隠れた。

「無いですね、きっぱり諦めて下さい。これから少なからず、行動を共にすることになる殿下に狙われてちゃ、おちおち封印の旅にも出られない」
「封印か…」
「そうですよ。わざわざ俺を遠ざけて、二人で会うなんて」
「まあ、わかってたさ。噂もあったし、兄上にも聞いている。クラレンスはアドラム家を挙げて阻止するとか息巻いてたけど、何とか言いくるめてジュリアンだけで来てもらったんだ。二人の絆は強そうだな」
「からかったんですか?」
「いや、からかってなんかないさ。ジュリアンさえ良ければ俺は今すぐにでも婚姻の儀式を行っても良いくらい真剣だよ。でも、出遅れたよな…普通ならまだお前たちはミシェルとミネルヴァとしては出会ってなかった筈だろう?そうすれば俺にもチャンスはあったと思うんだ」
「殿下、申し訳ありません。殿下にチャンスは欠片もなかったと思われます」
「欠片も…それは随分な言い草だな」
「事実ですので」

火花が散りそうな殿下とアシュリーのやり取りを後ろで見守りながら、久しぶりに見た大きなギルバートを撫で回す。
寮で見る小っちゃい姿も可愛いけど、僕を乗せてどこまでも走れるこの姿は逞しくて、かっこ良いから大好きだ。
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