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第四章
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剣術大会から数日が経った時だった。
その日、授業が始まる前の教室がいつもとは違いザワザワと騒がしい。
「どうしたの?」
近くにいたケントに聞くと耳打ちしてくれた。
「なんかね…盗難事件らしいんだ」
「えっ?何が盗まれたの?」
「イーノックが剣術大会で優勝した時に国王陛下から賜った盾だよ」
同級生や下級生は、みんなが見たがったし、何処かに飾ろうということになった。上級生の中には四年生で優勝したイーノックを面白く思わない人もいるみたいだけど、兄上たちに聞いてみたら、実力で勝ったイーノックを悪く言う人はいないようだし、表立って騒ぐことはなかった。
学園長の部屋や職員室では誰もが見に行くことができないので、どこか教室にして欲しいとの声が多かった。
担任のバーンズ先生の魔法学の教室に飾るのが良いだろうとクラスメイトと話し合った。クラスに代表はいないけれど、アシュリーが自然とその位置にいる。まさか魔法の先生の鼻先から盗まれるとは思わなかった。
「みんな、静かにしてください。今回のことは残念です。せっかく陛下から賜った盾ですからね。できれば返して欲しいですが、これ以上騒ぎを大きくしたくありません。みんなも事を広めないでください」
「良いのか?」
アシュリーがイーノックに聞いている。クラスメイトは二人のやり取りを見守った。
「良くはないですよ。でも、それは俺の徳がないってことです」
「そうじゃないだろ?」
「そうですか?俺が尊敬される人物なら盗まれるようなことは起こらないんじゃないですか?」
「違うぞ?盗む奴の気持ちなんてわからないけど、イーノックが蔑ろにされるような人間じゃないのはここにいる全員が知ってる」
そうだ、そうだとみんなが言う。
でも、イーノックの希望ならと賛成した。バーンズ先生から学園長と宰相さまには報告すると言われたけど、勿論イーノックに非があるわけじゃない。
誰からも軽く見られることはなく、非難などされることはないとクラスメイトはみんなが思ってる。
盾は、表向きは学園長の部屋に保管するということになった。クラスの結束はますます固まり、盗難事件も噂が漏れることはないと思われた。
しかし、その日の放課後には学園中にその噂が流れ、あろうことか犯人はクラスメイトのニコラス・グレンだと実しやかに囁かれる。
「俺は盗んでない!イーノック信じてくれ!みんなも!俺は…」
本当なのかと疑う人がクラスの中にも少しはいる。犯人探しは当事者でないなら楽しいものだ。
ニコラスがと言うよりも、栄誉ある盾を誰が盗んだのかははっきりさせたいと思っている人はいるのだろう。
「信じてるさ。でもクラスメイトしか知らないはずなのに、どこから噂が漏れて、ニコラスが犯人にされたんだろうな」
アシュリーがニコラスの肩を叩き励ます。
「火がないところに煙は立たないぜ。本当のこと言えよ」
放課後、僕たちの周りはクラスメイトだけじゃなく上級生が何人も来て、面白がるように囃し立てる。もうクラスだけの問題ではなくなった。
「ジュリ、大変なことになったね」
クラレンス兄上が来てくれた。その後ろにルシアン兄上とロドニー兄上もいる。
「兄さまはいつ聞いたの?」
「ジュリ、場所を変えよう」
『アシュ、兄さまたちとちょっと離れるからね』
『わかった』
アシュリーはこの場を納めるために残らなければならない。その時側にいたダレルが自分も行くとついて来た。
クラレンス兄上の部屋に着くと、クルクルと杖を回し全員分の椅子を出してくれた。
「俺は三時間目が終わって…移動してる時に五年生が騒いでるのを聞いた。その時から犯人はニコラスだと言ってたな。おかしいと思ったよ。犯人がわかってるなら事件は解決じゃないか?何を騒ぐことがある?」
ロドニー兄上が冷静に言う。
「兄さま!ニコラスは犯人じゃありません!それに盗まれたこと自体クラスメイトしか知らないことなんですよ?」
「どう言うこと?俺は昼の休憩時間が終わる時に聞いたよ。そうだな…あれも、五年生だったと思う。大きな声で喋ってたな」
ルシアン兄上も五年生に聞いたんだ。
「俺、ニコラスと同室なんだ。良い奴だよ。盗むなんて…そんなことするとは思えない」
「盗まれたのは確かなんだな?」
その日、授業が始まる前の教室がいつもとは違いザワザワと騒がしい。
「どうしたの?」
近くにいたケントに聞くと耳打ちしてくれた。
「なんかね…盗難事件らしいんだ」
「えっ?何が盗まれたの?」
「イーノックが剣術大会で優勝した時に国王陛下から賜った盾だよ」
同級生や下級生は、みんなが見たがったし、何処かに飾ろうということになった。上級生の中には四年生で優勝したイーノックを面白く思わない人もいるみたいだけど、兄上たちに聞いてみたら、実力で勝ったイーノックを悪く言う人はいないようだし、表立って騒ぐことはなかった。
学園長の部屋や職員室では誰もが見に行くことができないので、どこか教室にして欲しいとの声が多かった。
担任のバーンズ先生の魔法学の教室に飾るのが良いだろうとクラスメイトと話し合った。クラスに代表はいないけれど、アシュリーが自然とその位置にいる。まさか魔法の先生の鼻先から盗まれるとは思わなかった。
「みんな、静かにしてください。今回のことは残念です。せっかく陛下から賜った盾ですからね。できれば返して欲しいですが、これ以上騒ぎを大きくしたくありません。みんなも事を広めないでください」
「良いのか?」
アシュリーがイーノックに聞いている。クラスメイトは二人のやり取りを見守った。
「良くはないですよ。でも、それは俺の徳がないってことです」
「そうじゃないだろ?」
「そうですか?俺が尊敬される人物なら盗まれるようなことは起こらないんじゃないですか?」
「違うぞ?盗む奴の気持ちなんてわからないけど、イーノックが蔑ろにされるような人間じゃないのはここにいる全員が知ってる」
そうだ、そうだとみんなが言う。
でも、イーノックの希望ならと賛成した。バーンズ先生から学園長と宰相さまには報告すると言われたけど、勿論イーノックに非があるわけじゃない。
誰からも軽く見られることはなく、非難などされることはないとクラスメイトはみんなが思ってる。
盾は、表向きは学園長の部屋に保管するということになった。クラスの結束はますます固まり、盗難事件も噂が漏れることはないと思われた。
しかし、その日の放課後には学園中にその噂が流れ、あろうことか犯人はクラスメイトのニコラス・グレンだと実しやかに囁かれる。
「俺は盗んでない!イーノック信じてくれ!みんなも!俺は…」
本当なのかと疑う人がクラスの中にも少しはいる。犯人探しは当事者でないなら楽しいものだ。
ニコラスがと言うよりも、栄誉ある盾を誰が盗んだのかははっきりさせたいと思っている人はいるのだろう。
「信じてるさ。でもクラスメイトしか知らないはずなのに、どこから噂が漏れて、ニコラスが犯人にされたんだろうな」
アシュリーがニコラスの肩を叩き励ます。
「火がないところに煙は立たないぜ。本当のこと言えよ」
放課後、僕たちの周りはクラスメイトだけじゃなく上級生が何人も来て、面白がるように囃し立てる。もうクラスだけの問題ではなくなった。
「ジュリ、大変なことになったね」
クラレンス兄上が来てくれた。その後ろにルシアン兄上とロドニー兄上もいる。
「兄さまはいつ聞いたの?」
「ジュリ、場所を変えよう」
『アシュ、兄さまたちとちょっと離れるからね』
『わかった』
アシュリーはこの場を納めるために残らなければならない。その時側にいたダレルが自分も行くとついて来た。
クラレンス兄上の部屋に着くと、クルクルと杖を回し全員分の椅子を出してくれた。
「俺は三時間目が終わって…移動してる時に五年生が騒いでるのを聞いた。その時から犯人はニコラスだと言ってたな。おかしいと思ったよ。犯人がわかってるなら事件は解決じゃないか?何を騒ぐことがある?」
ロドニー兄上が冷静に言う。
「兄さま!ニコラスは犯人じゃありません!それに盗まれたこと自体クラスメイトしか知らないことなんですよ?」
「どう言うこと?俺は昼の休憩時間が終わる時に聞いたよ。そうだな…あれも、五年生だったと思う。大きな声で喋ってたな」
ルシアン兄上も五年生に聞いたんだ。
「俺、ニコラスと同室なんだ。良い奴だよ。盗むなんて…そんなことするとは思えない」
「盗まれたのは確かなんだな?」
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