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第四章
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陛下はアシュリーと、僕にはわからない話をされた後、僕の方を向いてすまなかったねと仰った。
「見せてくれとせがんだわたしが言っても説得力がないかもしれないが、個人的に頼まれても応じなくて良い。今は誰もが知っているわけじゃないが、来年には発表されるからの。その時はわたしが見せなくていいと言っていたと言うが良いよ」
今年もリンメルさまにエスコートされて会場に入る。
天井には本物の星が輝き、中庭を囲むように植えられている木はさやさやと揺れている。それでも寒くはなかった。
中庭に入り数歩歩くとアシュリーの腕が伸びてくる。リンメルさまは笑いながら僕の手を離し、イライザさまを伴って会場の中央へと進まれた。
アシュリーとフロアーの中央に立つ。
リンメルさまの合図で演奏が始まった。一年ぶりのダンスは楽しい。碧い瞳が真っ直ぐ僕を見る。アシュリーの顔を見ながらゆったりとした曲を踊った。去年もそうだったけど、僕が踊りやすいように選曲してくださっているのかもしれない。
『ジュリアン、愛してるよ』
『アシュリー、僕も愛してる』
『今年も綺麗だよ。…でも、ドレス嫌じゃない?俺は綺麗なジュリがますます綺麗になるのを見るのは嬉しいけど』
『アシュとこうして踊るのは楽しいよ?もし、ドレスじゃなくてもこうしてアシュと踊れるなら言うことないけど、それは無理だろうから』
『…そうか』
『フランクさまと踊らなくて良いよね?』
『ああ、そんなの良いに決まってる。ほら、あそこに…、パトリシアさまとローザが見てるよ』
『あの二人、似てると思わない?伯母と姪って似るんだね…。ちょっと怖いんだ』
『ローザが俺の事、溺愛とか呟いてたけど、あれもある意味溺愛じゃないのかな?ジュリの事、好きなんだよ、二人とも。ああ、恋愛的な意味じゃないけどね』
『そうなの?』
『まあ、わからなくて良いよ。ジュリは俺だけ見てれば良いからね』
『うん。アシュも僕だけだよ?』
『勿論だよ』
腰に回ってた腕の力が強まり引き寄せられる。一瞬、抱きしめられて、そのままくるりと身体を回されダンスを踊っているように見えただろう。
『ジュリ…もう一曲、踊らない?』
『アシュとなら何曲でも良いよ?』
『そう?良かった』
『ねえ、アシュリー。今年はいつもより招待してる人、多くない?踊ってる人は少ないのに周りには沢山いるよ?だからリンメルさまは中庭でパーティーを開かれたのかな?』
『そうだね。みんなローザと一緒だよ』
『えっ…?ローザが目当てなの?』
『ジュリ…、違うよ』
ドレスを着て、こうしてアシュリーと踊るのは今年で最後だろう。来年はきっとこんなふうにパーティーを開くことはできないだろうから。
母上が諦めてないから、やっぱり僕のトランクの中にはドレスが入っている。だから、今度こそ寮の部屋でアシュリーにだけ見せよう。喜んでくれるかな?
踊り終わり、会場を後にする。
今年はカイルとアレンはいなかった。その代わり、何人もの上級生がホールに集まっていた。中庭からアシュリーの部屋に行くにはホールを横切らなくてはならない。
『ジュリ、おいで』
アシュリーに横抱きにされる。
歩きやすい前開きのドレスは抱かれると足が見えてしまう。さっきも同じように抱かれたけれど、急いでいたからあまり気にしてなかった。
僕たちの横にカイルとアレンがスッと並ぶ。前にもクラスメイトがどこからか現れた。先頭にイーノックが立っている。
「じゃあ、行きますか?」
後ろからダレルの声がして行進のようにホールを横切る。何かのパフォーマンスなのだろうか?収穫祭の舞台のようにここで踊りとか始めるのかな?
『アシュリー…これは?』
『ああ、あいつらが「ジュリアン親衛隊」とか言ってたな。ジュリを守るって息巻いてた』
『何から?』
『…気にしなくて良い』
行進はアシュリーの部屋まで続いた。降ろしてもらい、みんなを見て笑ってしまう。いつも一緒の教室で勉強しているのに妙に緊張した面持ちで僕を見る。
『お礼…言った方が良いの?』
『そうだな…』
「あ、あの…ありがとう?」
「……ぁの、握手して下さい!」
言い出しは小さな声だったのに、最後は叫ぶように手を出すクラスメイト。
「うん…?『アシュ…握手って?』」
『してあげたら?』
苦笑いで僕の後ろに立った。
それから、順番に握手した。どう言うことなのかさっぱりわからないけど、嬉しそうなみんなの顔を見ると僕も嬉しくなった。
「見せてくれとせがんだわたしが言っても説得力がないかもしれないが、個人的に頼まれても応じなくて良い。今は誰もが知っているわけじゃないが、来年には発表されるからの。その時はわたしが見せなくていいと言っていたと言うが良いよ」
今年もリンメルさまにエスコートされて会場に入る。
天井には本物の星が輝き、中庭を囲むように植えられている木はさやさやと揺れている。それでも寒くはなかった。
中庭に入り数歩歩くとアシュリーの腕が伸びてくる。リンメルさまは笑いながら僕の手を離し、イライザさまを伴って会場の中央へと進まれた。
アシュリーとフロアーの中央に立つ。
リンメルさまの合図で演奏が始まった。一年ぶりのダンスは楽しい。碧い瞳が真っ直ぐ僕を見る。アシュリーの顔を見ながらゆったりとした曲を踊った。去年もそうだったけど、僕が踊りやすいように選曲してくださっているのかもしれない。
『ジュリアン、愛してるよ』
『アシュリー、僕も愛してる』
『今年も綺麗だよ。…でも、ドレス嫌じゃない?俺は綺麗なジュリがますます綺麗になるのを見るのは嬉しいけど』
『アシュとこうして踊るのは楽しいよ?もし、ドレスじゃなくてもこうしてアシュと踊れるなら言うことないけど、それは無理だろうから』
『…そうか』
『フランクさまと踊らなくて良いよね?』
『ああ、そんなの良いに決まってる。ほら、あそこに…、パトリシアさまとローザが見てるよ』
『あの二人、似てると思わない?伯母と姪って似るんだね…。ちょっと怖いんだ』
『ローザが俺の事、溺愛とか呟いてたけど、あれもある意味溺愛じゃないのかな?ジュリの事、好きなんだよ、二人とも。ああ、恋愛的な意味じゃないけどね』
『そうなの?』
『まあ、わからなくて良いよ。ジュリは俺だけ見てれば良いからね』
『うん。アシュも僕だけだよ?』
『勿論だよ』
腰に回ってた腕の力が強まり引き寄せられる。一瞬、抱きしめられて、そのままくるりと身体を回されダンスを踊っているように見えただろう。
『ジュリ…もう一曲、踊らない?』
『アシュとなら何曲でも良いよ?』
『そう?良かった』
『ねえ、アシュリー。今年はいつもより招待してる人、多くない?踊ってる人は少ないのに周りには沢山いるよ?だからリンメルさまは中庭でパーティーを開かれたのかな?』
『そうだね。みんなローザと一緒だよ』
『えっ…?ローザが目当てなの?』
『ジュリ…、違うよ』
ドレスを着て、こうしてアシュリーと踊るのは今年で最後だろう。来年はきっとこんなふうにパーティーを開くことはできないだろうから。
母上が諦めてないから、やっぱり僕のトランクの中にはドレスが入っている。だから、今度こそ寮の部屋でアシュリーにだけ見せよう。喜んでくれるかな?
踊り終わり、会場を後にする。
今年はカイルとアレンはいなかった。その代わり、何人もの上級生がホールに集まっていた。中庭からアシュリーの部屋に行くにはホールを横切らなくてはならない。
『ジュリ、おいで』
アシュリーに横抱きにされる。
歩きやすい前開きのドレスは抱かれると足が見えてしまう。さっきも同じように抱かれたけれど、急いでいたからあまり気にしてなかった。
僕たちの横にカイルとアレンがスッと並ぶ。前にもクラスメイトがどこからか現れた。先頭にイーノックが立っている。
「じゃあ、行きますか?」
後ろからダレルの声がして行進のようにホールを横切る。何かのパフォーマンスなのだろうか?収穫祭の舞台のようにここで踊りとか始めるのかな?
『アシュリー…これは?』
『ああ、あいつらが「ジュリアン親衛隊」とか言ってたな。ジュリを守るって息巻いてた』
『何から?』
『…気にしなくて良い』
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「……ぁの、握手して下さい!」
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『してあげたら?』
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