50 / 173
第四章
18
しおりを挟む
☆★☆ ★☆★ ☆★☆
今年の誕生パーティーは僕が先。
この頃はセシリアの容体を見に、度々帰っていたから長期休暇って感じがしない。
セシリアは元気になって、今では走り回って可愛さを振りまいている。休みの度に兄が全員帰ってくるから上機嫌だ。
アシュリーにも懐いていて嬉しくなる。帰る時はいつもアシュリーと一緒。最初の日から、ロドニー兄上のアシュリーに対する態度は随分変わった。幾らか、ぎこちない感じではあるけれど、僕のパートナーとして認めてくれたのか漂う雰囲気は穏やかなものになった。
「ジュリアン!ちょっと、お父さまのお部屋に来て」
アシュリーと自分の部屋でお茶を飲んでいた時に、母上が慌てて入ってきた。僕の手をグイグイと引っ張り、そのまま連れ出されてしまった。
パーティーの時間にはまだ早い。挨拶ももう少し後で良いと思っていたから、ゆっくりしていたのに…。
父上の部屋に入ると来客のようだ。戸の両側に警護が立ち、この制服は…。あまり見かけないお顔は、しかしよく知っているお方だった。
「…殿下」
コーディ王太子殿下がローブのフードをはらりと下ろし立ち上がられた。近衛兵に部屋から出るように命じてから、僕の前まで来られた。
「やあ、久しぶりだね」
久しぶりと言う挨拶が適切かどうかわからない。学園では何度かお見かけしたことがあった。僕が一年生の時八年生だった殿下は、度々一年生の教室にお見えになった。
ミシェルである事はご存知だったろうけれど、僕には他の同級生と同じような対応だった。
「王太子殿下におかれ…」
「ああ、そんな堅苦しい挨拶なんかいらないよ。今日はお忍びだから…君に会いたかったんだ。学園にいた時も何度も会いに行ったけど、自分の事も知らない人に他の子と違う扱いは可笑しいだろう?だから、我慢してたんだ。陛下から、覚醒されて、先日は素晴らしい御力を…」
「えっ…?」
内密にと父上が仰っていたから、誰にも言ってないと思ってた。そうか…陛下には報告しなくてはいけなかったんだ。
問題になるのだろうか?
父上の反応から、してはいけないことをしてしまったのではないかと心配だった。セシリアのためと思うけれど、この力は僕の力じゃないのでは…と思う時がある。
殿下は笑顔のままで、僕の手を取られた。
「そんな不安そうな顔なんかしないで。咎めに来たんじゃない。その愛らしいお顔と御力を見せてもらいたいと思っただけなんだ。陛下とどちらが会いに来るか喧嘩になってね。わたしが勝ったんだよ。陛下はまだ国務があるからね。わたしも…まぁ、少し抜け出して来たんだよ。直ぐに戻らなければならないんだ」
貴族の家と王宮は特別な移転魔法で行き来出来る。勿論、僕の家にも移転魔法のための部屋がある。誰もが入ることの許されない場所は魔法で開けることが出来る。何度か父上と一緒に王宮に行ったことはある。けれど、まだ一人で入ることは許されていない。
移転魔法は一瞬で行き来出来る便利なものだけど、高度な魔法なので学校ではまだ習っていない。バーンズ先生が許してくだされば来年は習いたいと思っている。
通常の移転魔法は力を沢山使うけれど、その部屋からは行き先が決まっているから間違うこともなく、魔力の消費もほどんどない。だから、殿下もほんの数分前まで王宮にいらしたのだろう。
「陛下が?」
今、陛下と喧嘩までして決めたって言わなかった?
「そうだよ?」
おかしそうにククッと笑われる殿下は、悪戯が見つかった子どものようにバツが悪そうに頭を掻いておられる。
「殿下、お座り下さい。ジュリアンもこちらに」
父上に促されて三人でソファーに座った。隣の父上を見ると、困ったような顔で殿下に話しかけておられる。
「それで、今日はジュリアンに会いにいらしたのですか?」
「そうだよ。御力を見せてもらえたら嬉しいけど…どうかな?」
「それは…殿下が見たいと仰せならば、ジュリアン…いいね?」
「父上、何をすれば?セシリアがいて、治してあげたいと思った時にできていたことなので…」
「そうだな…先ずは、アシュリーを呼ぼうか?」
今年の誕生パーティーは僕が先。
この頃はセシリアの容体を見に、度々帰っていたから長期休暇って感じがしない。
セシリアは元気になって、今では走り回って可愛さを振りまいている。休みの度に兄が全員帰ってくるから上機嫌だ。
アシュリーにも懐いていて嬉しくなる。帰る時はいつもアシュリーと一緒。最初の日から、ロドニー兄上のアシュリーに対する態度は随分変わった。幾らか、ぎこちない感じではあるけれど、僕のパートナーとして認めてくれたのか漂う雰囲気は穏やかなものになった。
「ジュリアン!ちょっと、お父さまのお部屋に来て」
アシュリーと自分の部屋でお茶を飲んでいた時に、母上が慌てて入ってきた。僕の手をグイグイと引っ張り、そのまま連れ出されてしまった。
パーティーの時間にはまだ早い。挨拶ももう少し後で良いと思っていたから、ゆっくりしていたのに…。
父上の部屋に入ると来客のようだ。戸の両側に警護が立ち、この制服は…。あまり見かけないお顔は、しかしよく知っているお方だった。
「…殿下」
コーディ王太子殿下がローブのフードをはらりと下ろし立ち上がられた。近衛兵に部屋から出るように命じてから、僕の前まで来られた。
「やあ、久しぶりだね」
久しぶりと言う挨拶が適切かどうかわからない。学園では何度かお見かけしたことがあった。僕が一年生の時八年生だった殿下は、度々一年生の教室にお見えになった。
ミシェルである事はご存知だったろうけれど、僕には他の同級生と同じような対応だった。
「王太子殿下におかれ…」
「ああ、そんな堅苦しい挨拶なんかいらないよ。今日はお忍びだから…君に会いたかったんだ。学園にいた時も何度も会いに行ったけど、自分の事も知らない人に他の子と違う扱いは可笑しいだろう?だから、我慢してたんだ。陛下から、覚醒されて、先日は素晴らしい御力を…」
「えっ…?」
内密にと父上が仰っていたから、誰にも言ってないと思ってた。そうか…陛下には報告しなくてはいけなかったんだ。
問題になるのだろうか?
父上の反応から、してはいけないことをしてしまったのではないかと心配だった。セシリアのためと思うけれど、この力は僕の力じゃないのでは…と思う時がある。
殿下は笑顔のままで、僕の手を取られた。
「そんな不安そうな顔なんかしないで。咎めに来たんじゃない。その愛らしいお顔と御力を見せてもらいたいと思っただけなんだ。陛下とどちらが会いに来るか喧嘩になってね。わたしが勝ったんだよ。陛下はまだ国務があるからね。わたしも…まぁ、少し抜け出して来たんだよ。直ぐに戻らなければならないんだ」
貴族の家と王宮は特別な移転魔法で行き来出来る。勿論、僕の家にも移転魔法のための部屋がある。誰もが入ることの許されない場所は魔法で開けることが出来る。何度か父上と一緒に王宮に行ったことはある。けれど、まだ一人で入ることは許されていない。
移転魔法は一瞬で行き来出来る便利なものだけど、高度な魔法なので学校ではまだ習っていない。バーンズ先生が許してくだされば来年は習いたいと思っている。
通常の移転魔法は力を沢山使うけれど、その部屋からは行き先が決まっているから間違うこともなく、魔力の消費もほどんどない。だから、殿下もほんの数分前まで王宮にいらしたのだろう。
「陛下が?」
今、陛下と喧嘩までして決めたって言わなかった?
「そうだよ?」
おかしそうにククッと笑われる殿下は、悪戯が見つかった子どものようにバツが悪そうに頭を掻いておられる。
「殿下、お座り下さい。ジュリアンもこちらに」
父上に促されて三人でソファーに座った。隣の父上を見ると、困ったような顔で殿下に話しかけておられる。
「それで、今日はジュリアンに会いにいらしたのですか?」
「そうだよ。御力を見せてもらえたら嬉しいけど…どうかな?」
「それは…殿下が見たいと仰せならば、ジュリアン…いいね?」
「父上、何をすれば?セシリアがいて、治してあげたいと思った時にできていたことなので…」
「そうだな…先ずは、アシュリーを呼ぼうか?」
0
お気に入りに追加
153
あなたにおすすめの小説
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
英雄の帰還。その後に
亜桜黄身
BL
声はどこか聞き覚えがあった。記憶にあるのは今よりもっと少年らしい若々しさの残る声だったはずだが。
低くなった声がもう一度俺の名を呼ぶ。
「久し振りだ、ヨハネス。綺麗になったな」
5年振りに再会した従兄弟である男は、そう言って俺を抱き締めた。
──
相手が大切だから自分抜きで幸せになってほしい受けと受けの居ない世界では生きていけない攻めの受けが攻めから逃げようとする話。
押しが強めで人の心をあまり理解しないタイプの攻めと攻めより精神的に大人なせいでわがままが言えなくなった美人受け。
舞台はファンタジーですが魔王を倒した後の話なので剣や魔法は出てきません。
たまにはゆっくり、歩きませんか?
隠岐 旅雨
BL
大手IT企業でシステムエンジニアとして働く榊(さかき)は、一時的に都内本社から埼玉県にある支社のプロジェクトへの応援増員として参加することになった。その最初の通勤の電車の中で、つり革につかまって半分眠った状態のままの男子高校生が倒れ込んでくるのを何とか支え抱きとめる。
よく見ると高校生は自分の出身高校の後輩であることがわかり、また翌日の同時刻にもたまたま同じ電車で遭遇したことから、日々の通勤通学をともにすることになる。
世間話をともにするくらいの仲ではあったが、徐々に互いの距離は縮まっていき、週末には映画を観に行く約束をする。が……

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
【完結】少年王が望むは…
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。
15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。
恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか?
【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる