天使のローブ

茉莉花 香乃

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第四章

18

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☆★☆  ★☆★  ☆★☆


今年の誕生パーティーは僕が先。
この頃はセシリアの容体を見に、度々帰っていたから長期休暇って感じがしない。

セシリアは元気になって、今では走り回って可愛さを振りまいている。休みの度に兄が全員帰ってくるから上機嫌だ。
アシュリーにも懐いていて嬉しくなる。帰る時はいつもアシュリーと一緒。最初の日から、ロドニー兄上のアシュリーに対する態度は随分変わった。幾らか、ぎこちない感じではあるけれど、僕のパートナーとして認めてくれたのか漂う雰囲気は穏やかなものになった。

「ジュリアン!ちょっと、お父さまのお部屋に来て」

アシュリーと自分の部屋でお茶を飲んでいた時に、母上が慌てて入ってきた。僕の手をグイグイと引っ張り、そのまま連れ出されてしまった。
パーティーの時間にはまだ早い。挨拶ももう少し後で良いと思っていたから、ゆっくりしていたのに…。

父上の部屋に入ると来客のようだ。戸の両側に警護が立ち、この制服は…。あまり見かけないお顔は、しかしよく知っているお方だった。

「…殿下」

コーディ王太子殿下がローブのフードをはらりと下ろし立ち上がられた。近衛兵に部屋から出るように命じてから、僕の前まで来られた。

「やあ、久しぶりだね」

久しぶりと言う挨拶が適切かどうかわからない。学園では何度かお見かけしたことがあった。僕が一年生の時八年生だった殿下は、度々一年生の教室にお見えになった。

ミシェルである事はご存知だったろうけれど、僕には他の同級生と同じような対応だった。

「王太子殿下におかれ…」
「ああ、そんな堅苦しい挨拶なんかいらないよ。今日はお忍びだから…君に会いたかったんだ。学園にいた時も何度も会いに行ったけど、自分の事も知らない人に他の子と違う扱いは可笑しいだろう?だから、我慢してたんだ。陛下から、覚醒されて、先日は素晴らしい御力を…」
「えっ…?」

内密にと父上が仰っていたから、誰にも言ってないと思ってた。そうか…陛下には報告しなくてはいけなかったんだ。
問題になるのだろうか?

父上の反応から、してはいけないことをしてしまったのではないかと心配だった。セシリアのためと思うけれど、この力は僕の力じゃないのでは…と思う時がある。

殿下は笑顔のままで、僕の手を取られた。

「そんな不安そうな顔なんかしないで。咎めに来たんじゃない。その愛らしいお顔と御力を見せてもらいたいと思っただけなんだ。陛下とどちらが会いに来るか喧嘩になってね。わたしが勝ったんだよ。陛下はまだ国務があるからね。わたしも…まぁ、少し抜け出して来たんだよ。直ぐに戻らなければならないんだ」

貴族の家と王宮は特別な移転魔法で行き来出来る。勿論、僕の家にも移転魔法のための部屋がある。誰もが入ることの許されない場所は魔法で開けることが出来る。何度か父上と一緒に王宮に行ったことはある。けれど、まだ一人で入ることは許されていない。
移転魔法は一瞬で行き来出来る便利なものだけど、高度な魔法なので学校ではまだ習っていない。バーンズ先生が許してくだされば来年は習いたいと思っている。
通常の移転魔法は力を沢山使うけれど、その部屋からは行き先が決まっているから間違うこともなく、魔力の消費もほどんどない。だから、殿下もほんの数分前まで王宮にいらしたのだろう。

「陛下が?」

今、陛下と喧嘩までして決めたって言わなかった?

「そうだよ?」

おかしそうにククッと笑われる殿下は、悪戯が見つかった子どものようにバツが悪そうに頭を掻いておられる。

「殿下、お座り下さい。ジュリアンもこちらに」

父上に促されて三人でソファーに座った。隣の父上を見ると、困ったような顔で殿下に話しかけておられる。

「それで、今日はジュリアンに会いにいらしたのですか?」
「そうだよ。御力を見せてもらえたら嬉しいけど…どうかな?」
「それは…殿下が見たいと仰せならば、ジュリアン…いいね?」 
「父上、何をすれば?セシリアがいて、治してあげたいと思った時にできていたことなので…」
「そうだな…先ずは、アシュリーを呼ぼうか?」
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