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第四章
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しおりを挟むセシリアの具合が悪いと知らされたのはちょうど寒くなってきた頃だった。
熱が引かず、苦しんでいると言う。
「明日は休みだから俺たち様子を見に行くけど、ジュリはどうする?」
「兄さま、勿論一緒に行くよ!」
クラレンス兄上が昼食の時に席に来て心配そうにしている。どうすると聞きながら、僕の返事はわかっているだろう。
兄がみんな学園に入学してから生まれたセシリアは一人っ子のように育ち、僕たちが休暇の度に大喜びではしゃぐ。その姿や声は可愛くて、妹ってだけじゃなくみんなに愛されるだろう。
見る度に大きくなる妹は、正しく女の子で僕を安心させる。一人っ子のように育ったと言ってもわがままじゃなく、四人の兄を等しく愛してくれる。
「兄さま、アシュリーも一緒に行ってもいいかな?」
「アシュリーも?……ああ、アシュリーが良いなら、構わない」
『アシュ?お願い…』
『わかってる、一緒に行くよ。大丈夫だから』
兄上には覚醒したことは伝えた。勿論父上にも。アシュリーからクラレンス兄上は僕がミシェルであることを知っていることは聞いていたから報告しておいた方が良いと思った。
その日の夕方、三人の兄上と僕とアシュリーで馬車に乗る。四人乗りの馬車はぎゅうぎゅう詰めで、僕はアシュリーとルシアン兄上に挟まれて、身動きが取れない。
「二台にすれば良かったね」
「アシュリーが来るとは思わなかったんだ」
ロドニー兄上がぶっきらぼうに答える。普段、僕に対して優しい兄上はアシュリーとのことにまだ反対なのか僕がアシュリーと一緒にいると不機嫌になってしまう。
『ごめんね…アシュリー』
『ああ…まぁ、気持ちはわからないでもないから』
『どう言うこと?』
『ロドニーはジュリが可愛くて仕方ないんだ。俺じゃなくても同じ態度だと思う。だから、俺が嫌い…ってわけじゃないと思うよ…多分…』
そうか…僕がセシリアを可愛いと思うように、ロドニー兄上は僕の事もこんなに大きくなっても大切な弟と思ってくれているのかな。
和やかな雰囲気とはいかないけれど、程なく馬車は実家に着いた。
僕たちの実家は王都アデルの中でも貴族が多く住んでいる区画で、学園と実家は馬車でそんなに時間はかからない。因みに、アシュリーの実家も割と近い。
母上が出迎えてくれてセシリアの部屋に急いだ。メイド長のドナがセシリアのベッド傍のテーブルに新しい水とタオルを置いている。僕たちが入ると、入れ替わるように出て行った。
僕の小さな頃の部屋よりも更にフリルが多い気がする。ベットにかかるカーテンは薄い布が幾重にも重なりその一つ一つにフリルが付いている。見る度に増えているのではないかと思うくらいに凄い。
そのカーテンは今、ドレープを美しく見せて上げられている。
「母上、セシリアの容態は?」
医者によると原因がわからないらしい。どんな薬も魔法も効かないそうだ。まだ幼いから、様子を見ながら試しているそうだけどまだ適した治療方が見つからない。
クラレンス兄上がセシリアの顔を覗きながらおでこに手を当てている。
クラレンス兄上は僕が熱を出した時もずっと付いていてくれた。兄弟思いの兄上だ。
「熱がね…下がらないのよ…。それに、昨日から目を開けてくれなくて…」
今にも泣きそうな母上をロドニー兄上が椅子に促す。
ルシアン兄上も顔を覗きながら首筋に手を当てる。
「熱…随分、高いね」
母上を椅子に座らせたロドニー兄上がセシリアの鼻に自分の鼻を付ける。
「可哀想に…」
「ジュリアン…見てあげて」
母上の弱々しい声に優しく笑いかけてセシリアのベッドの傍に跪く。アシュリーが隣に立ち、僕の肩をトントンと叩いた。
『大丈夫、ここにいる』
『うん』
「セシリア…お兄ちゃんだよ…」
いつもは大きな瞳をキラキラと輝かせて僕を見つけると走り寄ってくるのに…。今は目を閉じて、苦しそうな息遣いが見ていても辛い。
ブロンドの柔らかな髪が汗で額にへばり付いているのを丁寧に拭いてあげた。
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