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第四章
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僕は生まれた時に…正しくは母上が僕を身籠った時に国王陛下から名前を賜った。
その名はミシェル。
母上が女の子の準備を…ピンクのフリフリを用意したのは性別をキチンと聞かなかったからだ。ミシェル=女の子と言う構図は直ぐに思い浮かぶことで、それは仕方ないとは思う。
昔話のミシェルは女性だ。庶民の中には初代さまが男性だと言う事実を知らない人もいる。それでも女の子を待ち望んでいたのは本当で、実際に生まれたのが男の子だと知った時、泣いてしまい大変だったそうだ。
出産で精神的に弱っていたらしく、普段の母上ではなかったのだろう。噴水事件の時もいつもの母上ではなかったけれど…。
父上も僕を護り易いと思ったから、女の子として育てることをうっかり許してしまったらしい。
うっかりね…。
あの護衛はそう言う護衛だったのか?
僕に…ではなくミシェルに付いていた護衛だったんだ。アシュリーにも本人にわからないように…実際はバレていたけれど…付かず離れずで護衛はいたらしい。アシュリーはその意味がわかっていたから何も言わなかったそうだ。でも、兄弟で自分だけ特別な扱いをされると不思議に思うし、嫌かもしれない。
女装の件は国王陛下も笑顔でお許しになった。許さなくても良かったのに…。だから、みんな知ってたんだ。そりゃそうだよね。国王陛下のお許しになったことだし。
それでもどんどんエスカレートする母上に物申したのが、僕が六歳の時だった。
学園に上がる前に父上から大切な話があると書斎に呼び出された。
この名は人前では決して口にしてはいけないと言われた。そしてその名は小さな頃より親しんだ名前だった。
昔話に出てくる英雄の名前だ。
アレースとミシェルとミネルヴァ、マールクとメリクはこの国の人間なら誰でも知ってる建国の物語の登場人物。
絵本なんかにもなってて、最初に読み聞かせるのはこの物語だと決まっているのかというほど、どの家庭でも昔話として親しまれている。
そのお話はーーー
昔々、人々は誰の支配も受けず、幸せに暮らしていました。
畑を耕し、家畜を育て、海や川で漁をし、貧しいながらも穏やかな生活でした。
ところがある日異変が起こりました。
「あれはなんだ」
一人の男が北の空を指差し叫びました。
黒い雲が…真っ黒の雲が山を覆っていたのです。神の住まいである北の山に広がる黒い雲に人々は怯えました。
その黒い雲は次第に広がり邪悪な闇黒が辺りに立ち込めます。闇が垂れ込み、昼でも真っ暗です。
太陽からの恩恵を失った大地は荒れ果て、植物が枯れはじめました。人々は飢えに苦しみ、寒さに耐えながらも懸命に生きました。やがて家畜が死んでいきます。病に倒れる者が出はじめた時、漆黒のローブを翻し一人の青年が立ち上がりました。
「我が名はアレース。闇黒を倒しに行く。誰か一緒に行く者はいないか?」
すると、黄金のローブを靡かせたミネルヴァが剣を手に、翡翠のローブを身に付けたマールクか杖を掲げ、瑠璃のローブを身に付けたメリクが炎の剣を手に立ち上がりました。
四人は戦う準備をしました。しかし、薬が足りません。苦しむ人々から取り上げることはできませんでした。
「わたしも、一緒に行きます」
そんな時に名乗りを上げたのが、白銀のローブを身に纏ったミシェルでした。
人々は反対しました。危険な旅です。女性であるミシェルには過酷な使命になることでしょう。しかし、ミシェルは皆を救いたいと強く言いました。
「わたしが皆を癒します」
輝く白銀の髪が神々しく、その姿を目にした人々はもう反対することはありませんでした。
誰も行ったことのない北の山に向かう旅は大変なものでした。
道もない高い山を登り、橋のかかっていない川を渡り、深い谷を越えます。
長い旅の末、ようやく闇黒の元へ辿り着きました。
全てを見通すアレースは皆を導き、炎の剣を身に宿したメリクが恐れを切り裂きました。マールクが祝福と知恵を皆に与え、傷ついた者をミシェルが癒し、ミネルヴァは災いから皆を守りました。
五人は闇黒に立ち向かい長い戦いの末、ようやく封印することに成功しました。
闇黒から解き放たれ、人々は喜びました。
太陽の暖かな光が降り注ぎ、作物は実り家畜が元気に育ちます。人々は穏やかな日常を取り戻しました。
勇者たちはこの国を治め、長きにわたり安寧と秩序を保ち続けました。
ーーーアルシャント国に古より伝わる物語
その名はミシェル。
母上が女の子の準備を…ピンクのフリフリを用意したのは性別をキチンと聞かなかったからだ。ミシェル=女の子と言う構図は直ぐに思い浮かぶことで、それは仕方ないとは思う。
昔話のミシェルは女性だ。庶民の中には初代さまが男性だと言う事実を知らない人もいる。それでも女の子を待ち望んでいたのは本当で、実際に生まれたのが男の子だと知った時、泣いてしまい大変だったそうだ。
出産で精神的に弱っていたらしく、普段の母上ではなかったのだろう。噴水事件の時もいつもの母上ではなかったけれど…。
父上も僕を護り易いと思ったから、女の子として育てることをうっかり許してしまったらしい。
うっかりね…。
あの護衛はそう言う護衛だったのか?
僕に…ではなくミシェルに付いていた護衛だったんだ。アシュリーにも本人にわからないように…実際はバレていたけれど…付かず離れずで護衛はいたらしい。アシュリーはその意味がわかっていたから何も言わなかったそうだ。でも、兄弟で自分だけ特別な扱いをされると不思議に思うし、嫌かもしれない。
女装の件は国王陛下も笑顔でお許しになった。許さなくても良かったのに…。だから、みんな知ってたんだ。そりゃそうだよね。国王陛下のお許しになったことだし。
それでもどんどんエスカレートする母上に物申したのが、僕が六歳の時だった。
学園に上がる前に父上から大切な話があると書斎に呼び出された。
この名は人前では決して口にしてはいけないと言われた。そしてその名は小さな頃より親しんだ名前だった。
昔話に出てくる英雄の名前だ。
アレースとミシェルとミネルヴァ、マールクとメリクはこの国の人間なら誰でも知ってる建国の物語の登場人物。
絵本なんかにもなってて、最初に読み聞かせるのはこの物語だと決まっているのかというほど、どの家庭でも昔話として親しまれている。
そのお話はーーー
昔々、人々は誰の支配も受けず、幸せに暮らしていました。
畑を耕し、家畜を育て、海や川で漁をし、貧しいながらも穏やかな生活でした。
ところがある日異変が起こりました。
「あれはなんだ」
一人の男が北の空を指差し叫びました。
黒い雲が…真っ黒の雲が山を覆っていたのです。神の住まいである北の山に広がる黒い雲に人々は怯えました。
その黒い雲は次第に広がり邪悪な闇黒が辺りに立ち込めます。闇が垂れ込み、昼でも真っ暗です。
太陽からの恩恵を失った大地は荒れ果て、植物が枯れはじめました。人々は飢えに苦しみ、寒さに耐えながらも懸命に生きました。やがて家畜が死んでいきます。病に倒れる者が出はじめた時、漆黒のローブを翻し一人の青年が立ち上がりました。
「我が名はアレース。闇黒を倒しに行く。誰か一緒に行く者はいないか?」
すると、黄金のローブを靡かせたミネルヴァが剣を手に、翡翠のローブを身に付けたマールクか杖を掲げ、瑠璃のローブを身に付けたメリクが炎の剣を手に立ち上がりました。
四人は戦う準備をしました。しかし、薬が足りません。苦しむ人々から取り上げることはできませんでした。
「わたしも、一緒に行きます」
そんな時に名乗りを上げたのが、白銀のローブを身に纏ったミシェルでした。
人々は反対しました。危険な旅です。女性であるミシェルには過酷な使命になることでしょう。しかし、ミシェルは皆を救いたいと強く言いました。
「わたしが皆を癒します」
輝く白銀の髪が神々しく、その姿を目にした人々はもう反対することはありませんでした。
誰も行ったことのない北の山に向かう旅は大変なものでした。
道もない高い山を登り、橋のかかっていない川を渡り、深い谷を越えます。
長い旅の末、ようやく闇黒の元へ辿り着きました。
全てを見通すアレースは皆を導き、炎の剣を身に宿したメリクが恐れを切り裂きました。マールクが祝福と知恵を皆に与え、傷ついた者をミシェルが癒し、ミネルヴァは災いから皆を守りました。
五人は闇黒に立ち向かい長い戦いの末、ようやく封印することに成功しました。
闇黒から解き放たれ、人々は喜びました。
太陽の暖かな光が降り注ぎ、作物は実り家畜が元気に育ちます。人々は穏やかな日常を取り戻しました。
勇者たちはこの国を治め、長きにわたり安寧と秩序を保ち続けました。
ーーーアルシャント国に古より伝わる物語
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