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第三章
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☆★☆ ★☆★ ☆★☆
今日は収穫祭だ。
一、二年生は生徒だけで行くことは出来ないけれど、三年生からは友だち同士で参加することが出来た。
小さな頃は…女装に疑問を持ってなかった時までは無邪気に露店を覗いたり、賑やかに踊る人たちを見てた。でも、あの衝撃の噴水事件からは来ても、露店を少し見て直ぐに帰っていた。
収穫祭は五人の勇者の昔話をモチーフに五人組でグループを作り歌や踊りを披露することが出来る。昔はジョングルールが昔話の歌を歌ったり寸劇をしていたそうだが、今では誰でも参加することが出来る。
舞台で繰り広げられる様々な出し物には学園の生徒も参加していて、見知った顔が舞台に立つとどんなことをするのかとドキドキした。素晴らしい踊りや、狙ってるのか滑ってるのか観ている人の笑いを誘っているグループがいたりと観ていて飽きない。
『楽しい?』
『「うん」久しぶりに見たよ。小さな時は、露店ばっかり見て回ってたから座って観るのは初めてかな』
『そうなの?』
『ほら、女装してたからさ…あんまり人前に出るのが嫌だったんだ』
『ああ、でも…危険だからな。アドラムさまもその方が安心だったろうし…』
『えっ?…どう言うこと?』
『だって、誘拐されたりしたら大変だ』
『ゆ、誘拐!?』
『そう、ジュリアンは国…いや、お父君の宝だからな』
『そうなのかな…僕は小さい頃から父上には嫌われてると思ってた』
『そりゃ、仕方ないよ。でも、大切にされてただろ?』
『…うーん、母さまや、兄上にはそりゃ、大切にされてたとは思うけど…父上は、あまり話し掛けてはくれなかったな』
『そうなのか?』
『うん…』
『でも、ジュリアンがアドラムさまに嫌われてるなんてないからさ。誰もジュリアンを嫌いになんてならないよ』
『それ、ロドニー兄上にも言われたけど、そんなことないよ?一年の時虐められたから…』
『ああ、ダレルに聞いた。あれは、ちょっと違うけどな…あんまり、教えたくないけど…ジュリアンはさ、好きな人の持ち物とか触りたいと思わない?話し掛けるチャンスがあれば少しでも話したいと思わない?』
『僕はずっとアシュリーだけ見てたから…でも、ダンスパーティーの時、ずっと側にいたかったかな…護衛なんか戻ってくるなって思っちゃった』
『……ジュリアン…そんな告白されたら、今すぐ寮に帰りたくなる』
『えっ?』
『帰ろうか?』
『まだ、お店見たいな…』
『わかった…。みんなはさ、ローブを手にすることでジュリアンを近くに感じたいって思ったんだ。みんながそう思ってるから、牽制しあってなかなか話し掛けられなかったんだよ。だから、誰からも嫌われてないよ。寧ろ、邪な想いでジュリアンを見てた。この前の奴みたいに』
あの時はびっくりしたけど、それがきっかけでアシュリーとこんなふうに仲良くなれたから良かったのかな…。
「何でさっきからずっと無言で座ってんの、二人とも?」
一緒に来ていたダレルが、隣のイーノックと席を立つところだった。
「俺たち露店を見てきますけど、一緒に行きませんか?」
イーノックがさりげなく僕に手を差し伸べてくれる。
「クラスの奴らの出し物終わったしさ、行こうぜ」
おしゃべりに夢中でぼんやりとは観ていても、誰が舞台に上がってるとか、内容は気にしてなかった。
イーノックの手を取り、アシュリーを見ると、少し不機嫌な感じがしたけど何も言わなかった。
『ダメだった?』
『いや、ダレルとイーノックはまあ、良いだろう』
『ケントは?』
『ケント?…あいつは…良いよ』
こんなふうに僕に独占欲丸出しにされるのは全然嫌じゃない。
寧ろ嬉しいくらい。
ニコニコと立ち上がり、イーノックを見上げると困ったような怒ったような複雑な顔をしてた。
「ジュリアン…もう少し顔を引き締めて下さい。見慣れた俺たちでさえ危うく…いえ…こんなに大勢人がいるのです。はぐれないようにアシュリーに掴まってて下さいね」
まるで弟に言い含めるように注意されてしまった。変な顔していたのだろうか?
『アシュ?僕変だった?』
『いいや、ジュリはいつだって可愛いよ』
今にもキスしそうなアシュリーに慌てた。
今ではほとんど白銀に変わった髪を隠すようにローブのフードを被せられ右にアシュリー、やや斜め後ろの左側にイーノック、後ろにダレルを従えて露店を見て歩く。
まるで三人に守られているようで小さな自分が恥ずかしい。
今日は収穫祭だ。
一、二年生は生徒だけで行くことは出来ないけれど、三年生からは友だち同士で参加することが出来た。
小さな頃は…女装に疑問を持ってなかった時までは無邪気に露店を覗いたり、賑やかに踊る人たちを見てた。でも、あの衝撃の噴水事件からは来ても、露店を少し見て直ぐに帰っていた。
収穫祭は五人の勇者の昔話をモチーフに五人組でグループを作り歌や踊りを披露することが出来る。昔はジョングルールが昔話の歌を歌ったり寸劇をしていたそうだが、今では誰でも参加することが出来る。
舞台で繰り広げられる様々な出し物には学園の生徒も参加していて、見知った顔が舞台に立つとどんなことをするのかとドキドキした。素晴らしい踊りや、狙ってるのか滑ってるのか観ている人の笑いを誘っているグループがいたりと観ていて飽きない。
『楽しい?』
『「うん」久しぶりに見たよ。小さな時は、露店ばっかり見て回ってたから座って観るのは初めてかな』
『そうなの?』
『ほら、女装してたからさ…あんまり人前に出るのが嫌だったんだ』
『ああ、でも…危険だからな。アドラムさまもその方が安心だったろうし…』
『えっ?…どう言うこと?』
『だって、誘拐されたりしたら大変だ』
『ゆ、誘拐!?』
『そう、ジュリアンは国…いや、お父君の宝だからな』
『そうなのかな…僕は小さい頃から父上には嫌われてると思ってた』
『そりゃ、仕方ないよ。でも、大切にされてただろ?』
『…うーん、母さまや、兄上にはそりゃ、大切にされてたとは思うけど…父上は、あまり話し掛けてはくれなかったな』
『そうなのか?』
『うん…』
『でも、ジュリアンがアドラムさまに嫌われてるなんてないからさ。誰もジュリアンを嫌いになんてならないよ』
『それ、ロドニー兄上にも言われたけど、そんなことないよ?一年の時虐められたから…』
『ああ、ダレルに聞いた。あれは、ちょっと違うけどな…あんまり、教えたくないけど…ジュリアンはさ、好きな人の持ち物とか触りたいと思わない?話し掛けるチャンスがあれば少しでも話したいと思わない?』
『僕はずっとアシュリーだけ見てたから…でも、ダンスパーティーの時、ずっと側にいたかったかな…護衛なんか戻ってくるなって思っちゃった』
『……ジュリアン…そんな告白されたら、今すぐ寮に帰りたくなる』
『えっ?』
『帰ろうか?』
『まだ、お店見たいな…』
『わかった…。みんなはさ、ローブを手にすることでジュリアンを近くに感じたいって思ったんだ。みんながそう思ってるから、牽制しあってなかなか話し掛けられなかったんだよ。だから、誰からも嫌われてないよ。寧ろ、邪な想いでジュリアンを見てた。この前の奴みたいに』
あの時はびっくりしたけど、それがきっかけでアシュリーとこんなふうに仲良くなれたから良かったのかな…。
「何でさっきからずっと無言で座ってんの、二人とも?」
一緒に来ていたダレルが、隣のイーノックと席を立つところだった。
「俺たち露店を見てきますけど、一緒に行きませんか?」
イーノックがさりげなく僕に手を差し伸べてくれる。
「クラスの奴らの出し物終わったしさ、行こうぜ」
おしゃべりに夢中でぼんやりとは観ていても、誰が舞台に上がってるとか、内容は気にしてなかった。
イーノックの手を取り、アシュリーを見ると、少し不機嫌な感じがしたけど何も言わなかった。
『ダメだった?』
『いや、ダレルとイーノックはまあ、良いだろう』
『ケントは?』
『ケント?…あいつは…良いよ』
こんなふうに僕に独占欲丸出しにされるのは全然嫌じゃない。
寧ろ嬉しいくらい。
ニコニコと立ち上がり、イーノックを見上げると困ったような怒ったような複雑な顔をしてた。
「ジュリアン…もう少し顔を引き締めて下さい。見慣れた俺たちでさえ危うく…いえ…こんなに大勢人がいるのです。はぐれないようにアシュリーに掴まってて下さいね」
まるで弟に言い含めるように注意されてしまった。変な顔していたのだろうか?
『アシュ?僕変だった?』
『いいや、ジュリはいつだって可愛いよ』
今にもキスしそうなアシュリーに慌てた。
今ではほとんど白銀に変わった髪を隠すようにローブのフードを被せられ右にアシュリー、やや斜め後ろの左側にイーノック、後ろにダレルを従えて露店を見て歩く。
まるで三人に守られているようで小さな自分が恥ずかしい。
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