天使のローブ

茉莉花 香乃

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第二章

03

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二人に言われるまでもなく、助けてくれるだけじゃなくて手を差し出されたら…間違いなくその手を取るだろう。

あの時も、本当はアシュリーと踊りたかった。でも、僕から誘うことはできない。
活発な女の子なら誘われるのを待つだけじゃなく、自分から踊りましょうと誘う子は見たことある。そのほとんどを断っていたけれど、兄上もいつも誘われてた。

アシュリーは他の人の誘いからは守ってくれたけど、僕をダンスに誘うことは一度もなかった。他の子とは踊ったこともあるのに…。
ちょっと、ショックな過去を思い出し落ち込んでしまいそう。

「ドレスなんか着たら、ここにいる全員からダンス申し込まれるんじゃない?」
「止めてよ、ダレル」

今、鳥肌立った。
ゾワッと全身に。

「だってさ、アドラム家のパーティーだろ?みんなあの謎の可愛い子がいるに違いないって噂してたのに、今日は来てないみたいなんだ。去年も見なかったって来てた奴が言ってた」

ダレルの馬鹿。
可愛いかどうかは知らないけど…いるわけないじゃないか!

「ほら俺たち、去年のパーティーはケントに無理やりあいつの実家に連れて行かれてさ、ここに来られなかっただろう?
ジュリアン、知らない?いつも、ジュリアンの兄貴たちに守られてさ、物凄い可愛い子で、笑顔が…花が咲いたような可憐さで、仕草も愛くるしくて、あまり聞いたこと無いけど声も物凄く可愛いって評判でさ。
声、ジュリアンに似てて…、
瞳の色も紫で、ジュリアンと同じ…」
「…もしかして」

二人が口をパクパクして僕を指差す。人を指差しちゃいけないんだよ!

「ジュリアンだっ…」
「イーノック、声大きい。止めて!もう、思い出したくないのに…」
「なるほどな」
「謎が解けましたね」

うんうんと頷いて僕をしげしげと見る二人は楽しそうだ。

「どういうこと?」
「その子をみんな、探したんだ」
「同い年の女子にいなかったからね」

そんなのいるわけない。僕なんだから…。

「従姉妹がいるだろう?わりと似てる。でも明らかに瞳の色と髪の色が違う」
「先ほど、ジュリアンと踊ってましたね」
「ああ、似てるけど、雰囲気も違うんだ」
「アドラム家三兄弟にがっちり守られてさ、三人ともその子のとこから離れようとしない」
「誰もダンスに誘わないから、女子の間でも違う意味でそりゃ噂になってましたね」

聞くのも恐ろしいけど、一応聞いてみた。

「違う意味って?」
「アドラム家三兄弟って言ったら最強ですからね」
「長男のクラレンスは精悍で威厳があって、おまけに侯爵家の跡取りだろ?」
「次男のルシアンは誰でも魅了する柔らかい物腰に女顔負けの麗しい顔立ち。愛くるしいあの巻き毛がまたたまりません」
「えっ?イーノック、ルシアン兄上が好きなの?」
「ち、違います!」
「ジュリアン、一般論。噂だよ。女どもがうるさいんだって」
「そうですよ。ジュリアンはどこかズレてますからね。そして三男のロドニー。クラレンスに似ているけど、どこかチャラチャラしてるように見える。女にはそれがまた良いらしいです。思わせぶりに流し眼でももらったらイチコロでしょうね」

そうさ!
僕の兄上たちは最高だよ。ちょっと世間と僕の見解にズレがあるけどそれは仕方ない。

「三人を独占してたから、女子に虐められたろ?」
「えっ?どう言うこと?」
「本当に…ドレス踏まれたり、肩ぶつけられたりしたでしょ?」
「そうだよ。パーティーではそんな酷いことはされてないだろうけどな」

はて?
それはアシュリーにされてたような…?

考え込む僕に二人はため息を吐く。

「気付かなかったの?」
「そんな訳ないでしょう?」
「だって、あれは…」
「あれは?」
「アシュ…」
「やっぱりね…」
「何、イーノック?」
「アシュリーはね、その子が…ジュリアンだけど…虐められたりしたらその虐めた女のとこ行って、さりげなく話しかけたり、ダンスに誘ったりしてジュリアンから離してたんですよ」

嘘…知らなかった。

それってどう言うこと?
僕を助けてくれてたの?
嬉しすぎる。

惚れ直すってこう言うこと?

ほけっと、頬を緩ませる僕を見て、何故か二人の顔が赤い。どうしたのかな?

「ジュリアン…顔がゆるゆるです…」
「そんな顔、みんなに見せるな…襲われる」
「その噂の子がいなかったからみんなの関心はジュリアンに向いたんですから。いるかいないかわからない謎の女の子より、そこにいるジュリアン!って感じですね」
「何だよそれ?僕は散々虐められたのに…」
「いつ?」
「一年生の時だよ」
「誰に?」
「ダレルもイーノックもケントも僕を仲間外れにはしなかったけど、他の子は僕が話しかけると逃げるように遠ざかるし、ローブ隠されるし、教科書は行方不明になるし…」

兄上たちにも相談できなかったけど、初めての友だちにも何も言えなかった。
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