天使のローブ

茉莉花 香乃

文字の大きさ
上 下
15 / 173
第二章

02

しおりを挟む
そう言えば…母上は女の子を産んだ。

本当に良かった。

これで会うたびに母上の後ろにドレスが隠れているのではと…恐々としなくてよくなる。

新年の長期休暇の時が初めましての対面だった。その時に抱っこさせてもらったけど、壊れるんじゃないかと思うくらいちっこくて、可愛くて…もう言葉にならなかった。
頬をプニプニと摘むと柔らかくて、癒される。

お包みのフリフリとリボンはパワーアップしていた。兄上によると、僕の時にはなかった照明によりキラキラと光る、魔法で加工された石が縫い付けられていた。
力の入れ具合が半端無い。
眩しくないのだろうか?心配だ…。

兄上たちは僕と妹のセシリアを温かく見守ってくれた。

この休暇の間に僕の誕生日がある。

学園に上がるまでは男の子として祝うことができなかったから家族だけの誕生会だったけど、去年からたくさんの人を招いて盛大に執り行われる。

僕としてはドレスさえなければ家族だけのパーティーの方が嬉しいけど、わがままは言わない。

ここで一つ疑問に思う。
今まで何回もダンスパーティーなんかに出席してきたけど、アドラム家の四男として出席していた訳ではないのだね…。

だって女装だし、僕だってわからなかったよね?わかって欲しくない気もするけど…。

何の為に嫌な思いをしていたのか?
そう言えば、公爵家の何とか…とか宰相さまにやけに恭しく挨拶されて、凄く緊張したのを覚えている。
ああ、この挨拶があったから僕は絶対に出席しなければと思ったんだ。みんながしていると思っていた…。

でも、今ならわかる。

いくら侯爵家の息子だろうとそんな扱いおかしいのだ。
事実別室で行われるその挨拶に兄上たちが同行したことはなかった。

「別々だからね」と言われそうなのかと納得していたけど、パーティーに戻ると兄上たちは揃って迎えてくれた。けれど、何故かはわからない。

盛大なパーティーは休暇中な為に学園の生徒もチラホラ見える。
僕の知らない上級生が兄上たちとワインを飲んでいる。

アシュリーも来てくれているみたいだ。

アシュリーの誕生日も僕と同じ日だから、父上とアシュリーの父君とでどちらが先にパーティーを開くかを決めたらしい。
去年はアシュリーが先で、今年は僕が先。

僕としてはどちらが先でも同じ日でも、一緒でも…構わないのだけれどね。そうもいかないらしい。

もっとも、僕たちは誕生日にはパーティーを開けない。新年の祝賀行事が終わってからだ。その日は、勇者たちの生まれた日とされているから生誕祭が開かれる。
そう、僕たちは一月一日に生まれた。

パーティーにはルームメイトのダレルとイーノックも来てくれた。ケントは地方の伯爵家の長男で家の行事があるからと、出席できないのを凄く残念そうにしていた。

イーノックとダレルは侯爵家の次男だ。アシュリーも。

いくらパーティーの主役だとしても、男にダンスを申し込むバカな奴はいないので気持ちが楽だった…。

…えっと…?
この手は何?

「ジュリアン、わたしと一曲踊っていただけませんか?」

恭しく手を差し出してきたのはイーノックだった。

「抜け駆けは駄目だな」

もう一つ手が出てきた。ダレルだ。

アシュリーの手なら迷いながらも取っ…えっ、今何考えた?
こんな来賓がいっぱいのみんなが見ているこの場所でそれはない。

「無理!」
「だって、今日の主役はジュリアンですから」
「だからって男同士でダンス踊るとかあり得ないから!」
「そんなこと言って、今誰の事考えた?」
「俺たちの手を無視して誰を見ていたのですか?」

え~と…。

「誰も見てない」

うん。
誰も見てない。
アシュリーなんか見てない。
見てない。

でも、あの時みたいに助けに来てくれないかな…って考えたのは事実だけど…見てないよ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

英雄の帰還。その後に

亜桜黄身
BL
声はどこか聞き覚えがあった。記憶にあるのは今よりもっと少年らしい若々しさの残る声だったはずだが。 低くなった声がもう一度俺の名を呼ぶ。 「久し振りだ、ヨハネス。綺麗になったな」 5年振りに再会した従兄弟である男は、そう言って俺を抱き締めた。 ── 相手が大切だから自分抜きで幸せになってほしい受けと受けの居ない世界では生きていけない攻めの受けが攻めから逃げようとする話。 押しが強めで人の心をあまり理解しないタイプの攻めと攻めより精神的に大人なせいでわがままが言えなくなった美人受け。 舞台はファンタジーですが魔王を倒した後の話なので剣や魔法は出てきません。

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

処理中です...