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プロローグ
01
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☆★☆ ★☆★ ☆★☆
アルシャント国のアドラム侯爵家の四男として生まれた。
母上は女の子が欲しかったらしいけれど、次々に男の子が生まれた。
そして僕を身籠った時に、次こそはと侍女たちと気持ちを一つにして「気合いが足りなかったのですわ」と相談し準備をしたそうだ。
白とピンクのフリフリのレースとリボンが可愛いドレスのようなお包みに始まって、赤ちゃん(僕だけど…)のために用意された衣服や小物、家具に至るまで、僕の子ども部屋は恥ずかしいまでに少女趣味に汚染…いや、綺麗に飾られた部屋だった。
幼少期は良かった。
これが当たり前と育てられれば誰だってそうだろう。
ある日父上と長兄のクラレンス兄上が母上に詰め寄っていた。
ただならぬ気配に、最初は部屋に入ることもできなかったけれど、明らかに言い争う三人に何事かと気になった僕はそろりと部屋に入り込み、ソファーの後ろで観葉植物の陰にうずくまるように座り、物音を立てないように聞き耳を立てた。
最も、父上と兄上は僕が部屋に入ったことは知っていたようで、後から思えば僕に聞かせるためにわざと僕の部屋の向かいの部屋で話し始めたのではないだろうか。
六歳の出来事だった。
◇◇◇◇◇
心を込めて用意したのに結局産まれたのは男の子(僕だよ)だった。
母上は諦めきれなかったのか小さな頃よりドレスばかり着せられて育った。
父上と兄上は「もうそろそろ、ジュリアンを女装させるのはやめなさい」と母上に言い放った。
僕は意味がわからない。
女装…女の装い。
はっきりと聞こえた自分の名前は間違えようもなく、女じゃ無いなら男…僕は男装が自然な本来の姿なのか?その当時の頭でどこまで理解できたかは覚えていないけれど、何かがおかしいと思い始めた出来事だった。
当時の僕は『わたし』と自分を呼ぶように躾けられ、兄上たちと遊んでもらうことはあっても、兄弟喧嘩もしたことはなかった。
それもそのはずで、兄上たちは僕が妹だと疑いもしなかったそうだ。
クラレンス兄上は知っていたそうだけど可哀想な弟…と思って優しく接してくれていた。
衝撃的な出来事はそれからしばらくして訪れた。
穏やかな日差しに少しずつ暖かくなってきた初夏だった。
色とりどりの薔薇が鮮やかに咲き誇り噴水からは涼やかな水がこぼれ落ちる。
庭のあちこちにはベンチや小さなコテージがあり、庭で遊ぶ時には僕のお気に入りのコテージにお茶とお菓子が用意されている。
疲れを知らない兄上たちとも時折休憩をはさみながら楽しく遊んでいた。
コテージの向かいには噴水がある。中央で三段になっていてその周りは夜になれば魔法で明るく、瞬くように照らしているのでそれは綺麗だ。ポワンと灯る幻想的な光は遠くからでも見ることができた。
奥には池がある。池には橋がかかり、コテージの窓からは抜群の景色が堪能できる。
池にボートを浮かべたり、噴水の周りで太陽にキラキラ光る水の跳ねるさまを観察する。
橋には欄干がありアーチに作られたその橋は庭を一望出来たので、僕のお気に入りの場所だった。
いつものように兄上に遊んでもらっている時、噴水の縁に座っていた。
「ジュリアン、コテージで休憩する?」
優しい兄上は聞いてくれたけれど、その時の僕は何故かまだ遊びたくてわがままを言った。
「わたし、ここに立ちたいの!」
「ジュリアン危ないよ」
「ルシアン兄さまの意地悪。わたしできるもの!」
兄上はいつも噴水の縁に立ち、走り回っている。僕はそこに立つことさえ許されなかった。
それほど活発な子どもでもなかったのか走り回りたいとは思わなかったけれど、噴水の水がもっと近くなるような気がして一度はその場に立ちたいと思っていた。
そんなに高くなく、細くもないのに過保護な兄上は許してくれなかった。
「もう、いいもん」
ドレスの裾を持ち上げその縁の上に立つ……ことは出来なかった。
「きゃぁ!」
ザッバーン!
アルシャント国のアドラム侯爵家の四男として生まれた。
母上は女の子が欲しかったらしいけれど、次々に男の子が生まれた。
そして僕を身籠った時に、次こそはと侍女たちと気持ちを一つにして「気合いが足りなかったのですわ」と相談し準備をしたそうだ。
白とピンクのフリフリのレースとリボンが可愛いドレスのようなお包みに始まって、赤ちゃん(僕だけど…)のために用意された衣服や小物、家具に至るまで、僕の子ども部屋は恥ずかしいまでに少女趣味に汚染…いや、綺麗に飾られた部屋だった。
幼少期は良かった。
これが当たり前と育てられれば誰だってそうだろう。
ある日父上と長兄のクラレンス兄上が母上に詰め寄っていた。
ただならぬ気配に、最初は部屋に入ることもできなかったけれど、明らかに言い争う三人に何事かと気になった僕はそろりと部屋に入り込み、ソファーの後ろで観葉植物の陰にうずくまるように座り、物音を立てないように聞き耳を立てた。
最も、父上と兄上は僕が部屋に入ったことは知っていたようで、後から思えば僕に聞かせるためにわざと僕の部屋の向かいの部屋で話し始めたのではないだろうか。
六歳の出来事だった。
◇◇◇◇◇
心を込めて用意したのに結局産まれたのは男の子(僕だよ)だった。
母上は諦めきれなかったのか小さな頃よりドレスばかり着せられて育った。
父上と兄上は「もうそろそろ、ジュリアンを女装させるのはやめなさい」と母上に言い放った。
僕は意味がわからない。
女装…女の装い。
はっきりと聞こえた自分の名前は間違えようもなく、女じゃ無いなら男…僕は男装が自然な本来の姿なのか?その当時の頭でどこまで理解できたかは覚えていないけれど、何かがおかしいと思い始めた出来事だった。
当時の僕は『わたし』と自分を呼ぶように躾けられ、兄上たちと遊んでもらうことはあっても、兄弟喧嘩もしたことはなかった。
それもそのはずで、兄上たちは僕が妹だと疑いもしなかったそうだ。
クラレンス兄上は知っていたそうだけど可哀想な弟…と思って優しく接してくれていた。
衝撃的な出来事はそれからしばらくして訪れた。
穏やかな日差しに少しずつ暖かくなってきた初夏だった。
色とりどりの薔薇が鮮やかに咲き誇り噴水からは涼やかな水がこぼれ落ちる。
庭のあちこちにはベンチや小さなコテージがあり、庭で遊ぶ時には僕のお気に入りのコテージにお茶とお菓子が用意されている。
疲れを知らない兄上たちとも時折休憩をはさみながら楽しく遊んでいた。
コテージの向かいには噴水がある。中央で三段になっていてその周りは夜になれば魔法で明るく、瞬くように照らしているのでそれは綺麗だ。ポワンと灯る幻想的な光は遠くからでも見ることができた。
奥には池がある。池には橋がかかり、コテージの窓からは抜群の景色が堪能できる。
池にボートを浮かべたり、噴水の周りで太陽にキラキラ光る水の跳ねるさまを観察する。
橋には欄干がありアーチに作られたその橋は庭を一望出来たので、僕のお気に入りの場所だった。
いつものように兄上に遊んでもらっている時、噴水の縁に座っていた。
「ジュリアン、コテージで休憩する?」
優しい兄上は聞いてくれたけれど、その時の僕は何故かまだ遊びたくてわがままを言った。
「わたし、ここに立ちたいの!」
「ジュリアン危ないよ」
「ルシアン兄さまの意地悪。わたしできるもの!」
兄上はいつも噴水の縁に立ち、走り回っている。僕はそこに立つことさえ許されなかった。
それほど活発な子どもでもなかったのか走り回りたいとは思わなかったけれど、噴水の水がもっと近くなるような気がして一度はその場に立ちたいと思っていた。
そんなに高くなく、細くもないのに過保護な兄上は許してくれなかった。
「もう、いいもん」
ドレスの裾を持ち上げその縁の上に立つ……ことは出来なかった。
「きゃぁ!」
ザッバーン!
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