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番外編
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「お久しぶりです。大沢碧空です」
母さんの前で緊張気味に挨拶している碧空くんは、いつもと違い可愛い。思わず笑顔になってしまう。多分ニヤケてるだろう顔を俯いて隠した。
だらしない顔を咳払い一つで誤魔化して顔を上げると母さんと目が合った。含み笑いが怖い。
元々挨拶がしたいと言ってくれていた。今回予定が変わり迎えに来る時じゃなくて帰る時に一緒にと言われ、今母さんとの五年ぶりの再会らしい。……僕は碧空くんが転校先を聞きにきていたなんて知らなかったから初めましての挨拶だと思ってたからちょっとびっくり。まあ、しゃべったことがなくても、小学校の時は仕事で忙しい母親以外は、誰が誰の母親かは大体わかっていた。行事の度に顔を見るのだ。同じクラスになったことがあればあの人は〇〇くんのお母さんと認識することはできた。だから、僕も碧空くんのお母さんの顔は知っている。この休みの間に挨拶に行く予定。ちょっと緊張する。
今の時間、姉さんは仕事で居ない。そのことは碧空くんを少しだけ安心させたけれど、夕飯を一緒にと言われ固まった。
食事までの時間を僕の部屋で過ごす。
「ハァ~、緊張した」
「そんなふうには見えなかったよ?カッコ良かった」
「…姫…好きだよ」
「僕も…」
「ここ、座って」
手を持って抱き寄せ、ここと言ったのは膝の上だった。ベッドに座った碧空くんに跨って、向かい合わせに座る。僕の頬を撫で、あまり見ることのない上目遣いで見つめられるとどきりとする。首に腕を回し前髪をかき上げ額にキスをした。
「…好き」
思わす呟いた告白に満面の笑みで応えてくれる。
「物が少ないんだな」
勉強机とベッドと本棚しか置いていない。服は作り付けの衣装棚に入れるから家具も少ない。
「ほら、僕、長い間ここに住んでなかったから」
まだ、段ボールに詰めた小物は押入れに入っている。
「俺と離れてた間に住んでたトコに行ってみたい」
「そんな珍しい家じゃないよ。今は誰も住んでないから、荒れてるかも。田舎だし」
「そうだ!明日…明日行こうか?」
「明日?ふふっ、良いよ」
先ずはお姉さんとの対面だなと憂鬱そうな顔をする。父さんも帰ってくるから、ここは父親と会う方が嫌じゃないかなと思うけれど、断然姉さんの方が怖いらしい。
「姫…」
クルリと身体の角度を変えて僕をベッドへ倒すと、覆いかぶさってきた。僕の腕は首に回ったままだからすぐそこに大好きな人の顔がある。
自然と目を閉じると優しく触れる唇が気持ちいい。チュッチュと触れるキスは、でも、その先の激しい刺激を知っている身体にはもどかしい。
「はぁ…んっ…」
思わず漏らす吐息を飲み込むように唇を塞がれる。少し空いた隙間に舌が入り歯列を順になぞってゆく。
「姫、好きだよ」
「っ…ぁ…僕、も…」
歯列をなぞられ、誘われるまま舌を差し出すと、絡めるように動き翻弄される。口内のあちこちを舌で刺激して僕の反応を確かめる。口の中に感じる場所があるなんて知らなかった。身体がピクッと動く場所を執拗に責められて思考が上手く動かない。ここがどこだかわからなくなって、碧空くんの事だけしか考えられなくなる。
キスだけで身体から力が抜けて、下半身に熱が集まる。
その時、玄関が開いたのか家の中の空気が揺れた。姉さんか父さんが帰ってきたのだろう。
「…っ…」
胸を軽く二度ほど叩くと唇が離れてゆく。僕を抱きしめ深く息をすると一緒に起き上がる。再び碧空くんの膝の上。
「ここじゃ、これくらいだよな」
「うん」
それからそれぞれトイレに行ったのは仕方のないことだと思うんだ。
「ここでこれ以上やったら、お姉さんに怒られそうだな」
「そんなこと…ないよ?」
「そうかな…。姫の事なら凄い鋭そうだからバレそう。怖いな。二人で何してたの?なんて言われたら、キスしてました!なんて言えないからね。寮に帰ったら…」
「ん?どうしたの?」
「姫、寮に、帰ったら、この続き…」
「続き…」
「そう、続き。姫が欲しいな」
「!……っ……い、いいよ」
「ありがとう…嬉しいよ」
「僕だって!僕だって…その…碧空くんともっと…」
「可愛い、姫。俺の姫」
ご飯よと母さんの声がする。
「早く行かないと、姉さんが来ちゃう」
「それは困るな。行こうか」
僕の手を握ったまま家族の待つダイニングの扉の前に立つ。
僕の目を見て、髪を撫でてから…その手を離すことなく、扉を開いた。
おわり
母さんの前で緊張気味に挨拶している碧空くんは、いつもと違い可愛い。思わず笑顔になってしまう。多分ニヤケてるだろう顔を俯いて隠した。
だらしない顔を咳払い一つで誤魔化して顔を上げると母さんと目が合った。含み笑いが怖い。
元々挨拶がしたいと言ってくれていた。今回予定が変わり迎えに来る時じゃなくて帰る時に一緒にと言われ、今母さんとの五年ぶりの再会らしい。……僕は碧空くんが転校先を聞きにきていたなんて知らなかったから初めましての挨拶だと思ってたからちょっとびっくり。まあ、しゃべったことがなくても、小学校の時は仕事で忙しい母親以外は、誰が誰の母親かは大体わかっていた。行事の度に顔を見るのだ。同じクラスになったことがあればあの人は〇〇くんのお母さんと認識することはできた。だから、僕も碧空くんのお母さんの顔は知っている。この休みの間に挨拶に行く予定。ちょっと緊張する。
今の時間、姉さんは仕事で居ない。そのことは碧空くんを少しだけ安心させたけれど、夕飯を一緒にと言われ固まった。
食事までの時間を僕の部屋で過ごす。
「ハァ~、緊張した」
「そんなふうには見えなかったよ?カッコ良かった」
「…姫…好きだよ」
「僕も…」
「ここ、座って」
手を持って抱き寄せ、ここと言ったのは膝の上だった。ベッドに座った碧空くんに跨って、向かい合わせに座る。僕の頬を撫で、あまり見ることのない上目遣いで見つめられるとどきりとする。首に腕を回し前髪をかき上げ額にキスをした。
「…好き」
思わす呟いた告白に満面の笑みで応えてくれる。
「物が少ないんだな」
勉強机とベッドと本棚しか置いていない。服は作り付けの衣装棚に入れるから家具も少ない。
「ほら、僕、長い間ここに住んでなかったから」
まだ、段ボールに詰めた小物は押入れに入っている。
「俺と離れてた間に住んでたトコに行ってみたい」
「そんな珍しい家じゃないよ。今は誰も住んでないから、荒れてるかも。田舎だし」
「そうだ!明日…明日行こうか?」
「明日?ふふっ、良いよ」
先ずはお姉さんとの対面だなと憂鬱そうな顔をする。父さんも帰ってくるから、ここは父親と会う方が嫌じゃないかなと思うけれど、断然姉さんの方が怖いらしい。
「姫…」
クルリと身体の角度を変えて僕をベッドへ倒すと、覆いかぶさってきた。僕の腕は首に回ったままだからすぐそこに大好きな人の顔がある。
自然と目を閉じると優しく触れる唇が気持ちいい。チュッチュと触れるキスは、でも、その先の激しい刺激を知っている身体にはもどかしい。
「はぁ…んっ…」
思わず漏らす吐息を飲み込むように唇を塞がれる。少し空いた隙間に舌が入り歯列を順になぞってゆく。
「姫、好きだよ」
「っ…ぁ…僕、も…」
歯列をなぞられ、誘われるまま舌を差し出すと、絡めるように動き翻弄される。口内のあちこちを舌で刺激して僕の反応を確かめる。口の中に感じる場所があるなんて知らなかった。身体がピクッと動く場所を執拗に責められて思考が上手く動かない。ここがどこだかわからなくなって、碧空くんの事だけしか考えられなくなる。
キスだけで身体から力が抜けて、下半身に熱が集まる。
その時、玄関が開いたのか家の中の空気が揺れた。姉さんか父さんが帰ってきたのだろう。
「…っ…」
胸を軽く二度ほど叩くと唇が離れてゆく。僕を抱きしめ深く息をすると一緒に起き上がる。再び碧空くんの膝の上。
「ここじゃ、これくらいだよな」
「うん」
それからそれぞれトイレに行ったのは仕方のないことだと思うんだ。
「ここでこれ以上やったら、お姉さんに怒られそうだな」
「そんなこと…ないよ?」
「そうかな…。姫の事なら凄い鋭そうだからバレそう。怖いな。二人で何してたの?なんて言われたら、キスしてました!なんて言えないからね。寮に帰ったら…」
「ん?どうしたの?」
「姫、寮に、帰ったら、この続き…」
「続き…」
「そう、続き。姫が欲しいな」
「!……っ……い、いいよ」
「ありがとう…嬉しいよ」
「僕だって!僕だって…その…碧空くんともっと…」
「可愛い、姫。俺の姫」
ご飯よと母さんの声がする。
「早く行かないと、姉さんが来ちゃう」
「それは困るな。行こうか」
僕の手を握ったまま家族の待つダイニングの扉の前に立つ。
僕の目を見て、髪を撫でてから…その手を離すことなく、扉を開いた。
おわり
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海月さま
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アレンさま
読んでくださり、ありがとうございます
感想をありがとうございました
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