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番外編
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「英から『ごめん』って。『許されないことだってわかってるけど、謝りたい』って言ってた」
「横田くんはもう引っ越したの?」
「うん。ルームメイトの中谷や直也と久雄が手伝って…。俺も手伝おうかって言ったら、姫の側に居てあげてって」
「えっ?中谷くんって二学期になるまで寮には帰ってこないんじゃなかったの?」
あの時、横田くんはそう言って僕を怖がらせた。
「中谷は陸上部で、あの日は大会で夜遅くに帰ってきたよ?」
じゃあ、横田くんは最初からわかってたんだ。直ぐにバレてしまうことを…。
「あの時さ…」
「あの時?」
「うん。勘解由小路さんの部屋で先生が英樹の処遇を話し合ってる時に美都瑠から電話があったんだ。姫が気にしてるって…。最初はあんなことされたのにって俺の方が許せない気持ちが強かったけど……。英が最後に少しだけ姫の側にいたかったって気持ちを聞いたから…」
あっ!そう言えば、美都瑠は一度部屋の外に出てた。
「俺が誰も近づけなかった。もう、姫に、あんな思いをさせたくなくて。俺のせいだ。英の気持ちは知ってたのに。だけど、信用してたから姫を預けたんだ…」
「……会いに行きたい」
「大丈夫?」
「うん。碧空くん、一緒に行ってくれる?」
「勿論さ」
「横田くんは会ってくれるかな?」
「会ってくれるよ」
僕から会いたいと連絡すると横田くんは驚いていた。一度目の電話は出てくれなかった。二度目の電話も何度もコール音を聞きながら、諦めかけた時に繋がった。呼びかけの後しばらく沈黙して『……姫宮?』と落ち着いた声が聞こえた。
何度も謝る横田くんに怒ってないと伝えた。
『優しすぎるよ、姫宮…』
「僕は優しくないよ」
『う~ん。そうだな、優しくない』
「な、何それ?」
『俺の事、好きになってくれなかった』
「なっ…」
『嘘だよ』
「友だちとして、友だちとして……好きだよ」
『まだ友だちだって言ってくれるんだ』
「うん。当たり前だよ」
『やっぱり、姫宮は優しいよ』
実家に帰る前に横田くんの所へ行った。緊張する。怖いとは思わないけど、自然に会話できるだろうか?碧空くんと相談して、なるべくあの日の前のように接することにした。
最寄り駅まで迎えに来てくれた横田くんと再会する。
「遠いのに、来てくれてありがとう」
「それほどでもなかったよ。乗り換え一回で来られたからさ」
碧空くんの横で手を握りしめて下を向く。
「姫宮…」
「…あの……ひ、」
「すみませんでした!」
勢いよく頭を下げて、そのまま十数秒。僕もどうして良いかわからず固まってしまった。電話でも何度も謝ってくれたから、こんなふうに謝罪されるとは思っていなかった。
駅のコンコースは人がいっぱいでかなり目立っている。碧空くんにクイっと手を引かれ、横を見ると『ほら』と口が動く。
「ひ、英樹くん…」
パッと顔を上げると泣きそうな顔が見えて慌てた。
「ごめん。今更だよね…」
「ちが、違う!嬉しいんだ」
その泣きそうな顔のまま、照れたような笑顔を見せてくれた。ああ、小学校の時の横田くんだ。
駅から歩いて五分ほどの住宅街にあるアパートにお邪魔した。家族五人で住むには狭そうだけど、綺麗に掃除されている。日当たりの良い部屋の中には風が吹き込んでいた。
「暑いだろ?悪い。一人の日中はなるべくエアコン入れないんだ」
座卓に冷たい麦茶をコトンと置いて、扇風機のスイッチを押して恥ずかしそうにする。
「転校するなんて、びっくりしたよ」
「兄さんたちは転校なんてしなくて良いって言ってくれたんだけど、俺だけのほほんと暮らせないからさ。これからバイトなんだ。勉強も頑張って、国立目指す。碧空が先生に今回のことは新しい学校に黙っててくれるように頼んでくれたんだろ?ありがとう」
元気そうで安心した。目の前の横田くんは学校で見ていたどこか影のある顔ではなかった。晴れやかな笑顔は憑き物が取れたみたいなんだと苦笑いに変わる。
「初恋が拗れたんだ。姫宮の事は忘れたつもりだったけど、消化不良だったから自分の中で決着がついてなかったんだ」
「そうなのか?」
「そりゃ、五年も会わなかったらさすがに忘れるだろ?碧空以外は。実際、安田碧ってボサボサ頭の黒縁メガネの転入生の事なんて、俺も直也たちも全然気にしてなかった。碧空以外は」
「お前、いちいち引っかかるな」
「だって、事実だもん」
「だもん…って」
それから一時間ほど話した後、バイトの時間だからと一緒に駅まで歩いた。駅ビルの中の飲食店で働いているそうだ。
「また、会える?」
横田くんが良いと言ってくれたらまた会いに来たいと碧空くんと話していた。今度は小学校の時の同級生と一緒に。
「当たり前さ。ありがとう」
「横田くんはもう引っ越したの?」
「うん。ルームメイトの中谷や直也と久雄が手伝って…。俺も手伝おうかって言ったら、姫の側に居てあげてって」
「えっ?中谷くんって二学期になるまで寮には帰ってこないんじゃなかったの?」
あの時、横田くんはそう言って僕を怖がらせた。
「中谷は陸上部で、あの日は大会で夜遅くに帰ってきたよ?」
じゃあ、横田くんは最初からわかってたんだ。直ぐにバレてしまうことを…。
「あの時さ…」
「あの時?」
「うん。勘解由小路さんの部屋で先生が英樹の処遇を話し合ってる時に美都瑠から電話があったんだ。姫が気にしてるって…。最初はあんなことされたのにって俺の方が許せない気持ちが強かったけど……。英が最後に少しだけ姫の側にいたかったって気持ちを聞いたから…」
あっ!そう言えば、美都瑠は一度部屋の外に出てた。
「俺が誰も近づけなかった。もう、姫に、あんな思いをさせたくなくて。俺のせいだ。英の気持ちは知ってたのに。だけど、信用してたから姫を預けたんだ…」
「……会いに行きたい」
「大丈夫?」
「うん。碧空くん、一緒に行ってくれる?」
「勿論さ」
「横田くんは会ってくれるかな?」
「会ってくれるよ」
僕から会いたいと連絡すると横田くんは驚いていた。一度目の電話は出てくれなかった。二度目の電話も何度もコール音を聞きながら、諦めかけた時に繋がった。呼びかけの後しばらく沈黙して『……姫宮?』と落ち着いた声が聞こえた。
何度も謝る横田くんに怒ってないと伝えた。
『優しすぎるよ、姫宮…』
「僕は優しくないよ」
『う~ん。そうだな、優しくない』
「な、何それ?」
『俺の事、好きになってくれなかった』
「なっ…」
『嘘だよ』
「友だちとして、友だちとして……好きだよ」
『まだ友だちだって言ってくれるんだ』
「うん。当たり前だよ」
『やっぱり、姫宮は優しいよ』
実家に帰る前に横田くんの所へ行った。緊張する。怖いとは思わないけど、自然に会話できるだろうか?碧空くんと相談して、なるべくあの日の前のように接することにした。
最寄り駅まで迎えに来てくれた横田くんと再会する。
「遠いのに、来てくれてありがとう」
「それほどでもなかったよ。乗り換え一回で来られたからさ」
碧空くんの横で手を握りしめて下を向く。
「姫宮…」
「…あの……ひ、」
「すみませんでした!」
勢いよく頭を下げて、そのまま十数秒。僕もどうして良いかわからず固まってしまった。電話でも何度も謝ってくれたから、こんなふうに謝罪されるとは思っていなかった。
駅のコンコースは人がいっぱいでかなり目立っている。碧空くんにクイっと手を引かれ、横を見ると『ほら』と口が動く。
「ひ、英樹くん…」
パッと顔を上げると泣きそうな顔が見えて慌てた。
「ごめん。今更だよね…」
「ちが、違う!嬉しいんだ」
その泣きそうな顔のまま、照れたような笑顔を見せてくれた。ああ、小学校の時の横田くんだ。
駅から歩いて五分ほどの住宅街にあるアパートにお邪魔した。家族五人で住むには狭そうだけど、綺麗に掃除されている。日当たりの良い部屋の中には風が吹き込んでいた。
「暑いだろ?悪い。一人の日中はなるべくエアコン入れないんだ」
座卓に冷たい麦茶をコトンと置いて、扇風機のスイッチを押して恥ずかしそうにする。
「転校するなんて、びっくりしたよ」
「兄さんたちは転校なんてしなくて良いって言ってくれたんだけど、俺だけのほほんと暮らせないからさ。これからバイトなんだ。勉強も頑張って、国立目指す。碧空が先生に今回のことは新しい学校に黙っててくれるように頼んでくれたんだろ?ありがとう」
元気そうで安心した。目の前の横田くんは学校で見ていたどこか影のある顔ではなかった。晴れやかな笑顔は憑き物が取れたみたいなんだと苦笑いに変わる。
「初恋が拗れたんだ。姫宮の事は忘れたつもりだったけど、消化不良だったから自分の中で決着がついてなかったんだ」
「そうなのか?」
「そりゃ、五年も会わなかったらさすがに忘れるだろ?碧空以外は。実際、安田碧ってボサボサ頭の黒縁メガネの転入生の事なんて、俺も直也たちも全然気にしてなかった。碧空以外は」
「お前、いちいち引っかかるな」
「だって、事実だもん」
「だもん…って」
それから一時間ほど話した後、バイトの時間だからと一緒に駅まで歩いた。駅ビルの中の飲食店で働いているそうだ。
「また、会える?」
横田くんが良いと言ってくれたらまた会いに来たいと碧空くんと話していた。今度は小学校の時の同級生と一緒に。
「当たり前さ。ありがとう」
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